テラーノベル
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私は昔から臆病な性格だった。ビビりでドジで怖がりで、泣き虫な子供。それが私だ。そんな私を、お兄ちゃんたちはいつも笑って手を差し伸べて、助けてくれた。私にとってはスーパーヒーローよりも何倍もかっこいい、いわば王子様だった。
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中学校に入学してはや一ヶ月。環境にも慣れてきて、友達も恋人もできて順風満帆__という理想は叶わなかった。私は兄と比べて、あまりにも平凡すぎたのだ。例えば、テストの点数。例えば、容姿や性格。例えば、周囲からの評価。どれを切り取っても平々凡々。そうとしか評価の仕様がなかった。
比べて兄たちは、務めて優秀だった。眉目秀麗、文武両道。おまけに性格まで良い。周囲からのあだ名は「王子様」。私の王子様は、いつの間にかみんなの王子様になっていたのだ。非の打ち所がない人間がいるのなら、きっと兄たちのことを言うのだと思う。優秀な兄たちと、劣った妹。もし神様がいるのだとしたら、そいつはきっと、とても性悪なやつだろう。
何はともあれ、順風満帆とはいかないものの、平和に平凡な日々を過ごしていた。
そしてそんなある日の放課後。私は教師から雑用を押し付けられ、何枚も重なった分厚い書類を運んでいた。廊下は静かで、自分の上靴の擦れる音だけが響いた。私はこの時間がなんとなく好きだ。世界で一人だけのような、自分だけ世界から切り取られたような、不思議と心地よい気分になれるからだ。
だからだろう。普段なら必ず気づくはずの人の気配に気づけなかったのは。
突如、ガツンした衝撃と微かな人の温もりが肩に伝わった。はらりと散っていくプリント。
「すみません…!」
咄嗟に顔を上げすぐさま謝った。そして相手の顔を見た。焦燥した私の視線と鋭く射抜くような視線が交差し、私は表情が凍った。相手はなんと、先生ですら手を焼く、学校一の不良だったのだ。とんでもない人にぶつかってしまった。
相手は表情を歪め、ぎろりと私を睨みあげ胸ぐらを掴んだ。突然の浮遊感が私を襲った。
「誰にぶつかったと思ってんだ。あぁ?」
万事休す。そう思った時だった。
その場にそぐわない、酷く軽快な足音が響いた。
「せ〜んぱい♡僕の大事な大事な妹に何してるんですか?」
私はその声に聞き覚えがあった。この声は。この話し方は。
「るぅと兄…!?」
思わず鳥肌が立つような、底冷えするような殺気を纏った兄が、私の背後に立っていた。
そんな兄を、不良はジロリと舐めるように見て、そして鼻を鳴らした。
「あ?やろうってのかよ、王子サマ。」
不良は私の胸ぐらを、まるでゴミを放り投げるかのように離した。またもや浮遊感。ぶつかる、と目をきつく閉じた瞬間、背中にとん、と軽くて温かい感触が伝わった。ふわりと香る、嗅ぎなれた匂い。
「大丈夫か?怖かったやろ」
「ジェル兄!?なんでここに……」
「いやー、◯◯迎えに行こ思たら物騒な声聞こえてなぁ。ほんま感謝しぃや?俺居らんかったら今頃壁にズドーンめり込んどったで?」
「いやそこまでじゃないでしょ…」
自然と頬が緩んだ。こういう所が敵わないのだと改めて悟った。不安な気持ちでさえ、魔法のようにどこかへ飛ばしてしまう。流石は王子様だ。本当、誇らしくて恨めしい。
そんなくすぐったい朗らかな雰囲気の中で、るぅと兄の方から物騒な音が響いた。思わず目をやろうとするが、ジェル兄に目を塞がれた。
「見たアカンで」
微かに怯え、呆れが混じった声色。その声色を聞き、ああ、と悟った。るぅと兄が腹黒なことは、今に始まったものじゃない。そして廊下の奥から、バタバタと騒がしい聞き慣れた足音。王子様の大集結だ。全く大袈裟で過保護な、私の王子様たち。静謐で孤独な廊下が、いつの間にか酷く騒然とした廊下になっていた。
アオイ
しお
50
のあ
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コメント
1件
読み終えました。三人の兄たち——特にるぅと兄の殺気とジェル兄の優しさの対比が鮮やかで、一気に引き込まれました。「誇らしくて恨めしい」という主人公の複雑な気持ち、すごく伝わってきましたね。それにしても、自分だけの王子様がいつの間にかみんなの王子様になっていく切なさ……“見たアカンで”で目を塞ぐジェル兄の台詞に、兄たちの間の暗黙の分担みたいなものが感じられて、続きが気になります。やさしい子をもったなあ。