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その頃……。
新宿のホストクラブでは、桜志郎が客と乾杯していた。
テーブルには、ワイングラスとフルーツが並んでいる。
桜志郎を指名した客は、証券会社の女係長だ。
服もメイクも言葉も若作りしているが、40歳を超えている。
「いくつに見える?」と訊いた女に、桜志郎は「28歳」と答えた。
たいていの中年女は(私って15歳若く見えるの)と思っているからだ。
10歳は当然、一回り《12歳》は普通、私は特別、らしい。
「桜志郎クン鋭いね。女を見る目あるわ」
機嫌をよくした女は、シャンパンをオーダーした。
「姫様から愛をいただきましたぁ!」
桜志郎の呼びかけに、拍手をしながらホストが集まった。
音楽が流れてシャンパン・コールの始まりだ。
軽快な掛声とマイクパフォーマンスが店内を盛り上げる。
大学を中退した桜志郎は、21歳でホストクラブに入店した。
「バイトやってみる?」と誘われたホストが性に合った。
香帆に話した経歴や過去はすべて嘘だ。
『心臓発作が起こる毒薬』は偶然手に入れた。
来日した海外セレブが「日本のギャルと遊びたい」と所望し、
アテンドした桜志郎が、礼として〈3包〉貰った。
政敵抗争や相続問題が多い海外セレブに人気の秘薬と聞いた。
「本当に死ぬのか???」
桜志郎は[毒の効果]に半信半疑で、[使う機会]を伺っていた。
そんなとき香帆と出会って、保険金殺人を持ち掛けた。
だが香帆に「夫を殺せる」とは思えなかった。
必ず〈毒入りコーヒー〉を取り上げて、安全な方を渡すはずだ。
だったら、両方に毒を入れたらいい。
夫殺しを決行したら、香帆に「それを飲むな」とサインを送ればいい。
二人とも死んだら意味がない。
何より[毒の効果]が知りたかった。
颯真の死を目の当たりにした桜志郎は、息を飲んだ。
(これは使える……)
毒薬は、あと〈1包〉残っている。