「――というわけだから、君にも一緒に来てもらいたい」
ここに置き去りにするつもりも無いので、バヴァルに言われたとおりおれはスキュラを説得している。
「あの人間たちを浄化ですって? 封じ込めだとか魔石と化したのかなんて、どっちでもいいですわ。どうして水棲のあたしが熱い所に行ってまで――という点だけが納得行きませんわね!」
スキュラの言うことはもっともなことだ。わざわざ苦手な場所に彼女も連れて行くというだけでも嫌がらせレベルで、しかもはっきりとした理由が無い。
「おれだって今すぐ魔石をたたき割りたい!! でも奴らもろとも熱で消えるなら、それはそれでいいと思っている」
「……アックさまにそこまで言われたら、分かりましたわよ」
魔石を握りしめたまま、ついつい怒りを露わにしてしまう。そのせいか彼女は諦めたように渋々頷いた。スキュラ自身、魔石が危険なものとして理解している。それだけにおれの言葉に理解を示してくれたようだ。
「ねぇねぇマスタァ、ロキュンテはいつ行くの?」
「フィーサは行ったことが?」
「五百年くらい前かなぁ? 火口からの眺めが最高だったのっ!」
「ごひゃ……そ、そうか」
フィーサのレベルは”900”だったが、九百年以上は生きているってことになる。
それにしてもルティの故郷ロキュンテか。詳しい場所はルティが分かるだろうが、計り知れない距離のような気もする。手がかりはルティだけだし、彼女に聞いてみるしかない。
「アック様」
「バヴァル? どうした?」
「魔石を……、連中を封じた魔石をわたくしにお預け下さいませんか?」
随分と神妙な表情をしているが何故こんなことを言い出すんだ?
「預ける?」
「アック様はすでにあの魔石を腰袋にお入れになっていると思いますが、他の魔石と混ぜることには警戒を持つのです」
魔石のことはおれもまだよく分かっていない。しかし魔法ギルドマスターのバヴァルは、おれよりも魔石に詳しいはず。そうなれば彼女に預けても何ら不思議は無いし、そうした方がいいかもしれない。
「もしかして魔石が悪さをするとでも?」
「……いいえ。魔石そのものに自我はありません。――ですが、わたくしはどうしても気になるのです。アック様も気になっているようですのでわたくしにお任せ頂ければと……」
魔法の師匠をしてもらっているバヴァルをどこまで信じていいのか。おれ自身も元勇者たちが封じられた魔石を傍に置くのは、気分的に嫌ではある。それならばロキュンテに着くまでの間だけでも預けておくか。
「そういうことなら、あなたに任せる」
「ありがとうございます……」
そういうとバヴァルは、おれから預かった魔石を懐にしまい込んだ。
魔石のことはどうにかなった。そうなると後はルティ次第か。
「ルティ!」
彼女は手持ち無沙汰になると、おれから離れて何かを作る動きを見せている。その意味でも、案外誰よりも強くあろうとしているのかもしれない。
「はいっ! お呼びですか~?」
おれに呼ばれたルティは、やりかけていたことを止めてすぐに駆け付けた。
「火山渓谷。ルティの故郷であるロキュンテまではどれくらいかかる?」
「すぐですよ、すぐすぐ!」
「いや、ルティの感覚ではそうかもしれないが火山渓谷は世界の裏側だぞ」
今いる場所はレザンスからほど近い。どの辺りから行くかも分からないのに、すぐと言われてもな。
「それなら簡単じゃないですか~! アックさんは魔石ガチャでわたしを呼びましたよね?」
「呼んだというか、引いていたというか……」
ワイバーンと崩落の岩から隠れていたら、無意識にレア確定ガチャを引いていた。気付いたらルティがいたというのが正しい。
「そこでっ! 移動魔法の出番ですよっ!!」
「……移動魔法というと、高スキル魔法士が使える転移魔法のことか?」
「ですですよっ! それならすぐに行けちゃいますよ~」
今のおれは、恐らくSランク以上の魔法スキルが備わっている。しかし確か転移魔法には面倒な条件があったはず。
「アック様、ルティシアさんと何の話をされているのです?」
「バヴァルは転移魔法が使える?」
「いいえ。わたくしはレザンス以外の町へはしばらく訪れておりませんので……」
やはりそうか。一度訪れでもしないとそこに行くことなど不可能で厄介な条件魔法だ。
「う~ん……」
「スキルだけあってもそう使える魔法では――あ! もしかすれば……」
バヴァルは妙齢な魔女だ。何か思い出したかもしれない。
「バヴァル?」
「確かアック様がガチャで引いたのは、ルティシアさんと宝剣でしたか?」
「ああ」
「それでしたら、やってみる価値はあるかもしれませんね」
「うん……?」
ガチャをすることによって可能になることがあるのか?
「いずれにしましても、一旦ここから外に出ましょう。そして外にそびえる山の近く、出来れば広大な場所に!」
話がまるで見えないが、バヴァルは何かの可能性を見つけたらしいな。おれたちは森のダンジョン捜索を諦め、外に出ることにした。グルートオークが暴れ、その先への道が塞がれたというのも関係している。
ルティは壁を殴って外に出ましょうと言っていたが、それはさすがに却下した。森に出てすぐ、なるべく障害とならない広い場所を探し回ることに。
そんな中、何のことか分からないが、おれとルティとで手を繋げとバヴァルは言ってきた。よく分からないままだが、言われた通りにするしかない。まずはルティを魔石に触れさせ、それから彼女と手を繋ぐ。
「な、何だかドキドキですよ~!」
照れているルティは気にしないでおくとして、手を繋いだままおれはガチャを引く。
【Uレア ルティの記憶】
【Uレア 剛力のルティ Lv.23】
【Uレア 火山渓谷ロキュンテ 残2】
「――こ、これは!?」
「アックさん! ロキュンテの方から来てくれましたよ!! わたしの故郷ですっ!!」
ルティのレベルが上がっていたとは驚きだ。それよりも問題は、彼女の故郷である【ロキュンテ】を町ごと引いてしまったことだ。
もはや転移魔法どころの話じゃないな。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!