テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
生徒会長は今日も余裕で、ヤンキーちゃんは今日も耐えられない
――付き合い始めてから、世界がうるさい。
「ねえ見た!?」
「手、繋いでたんだけど!!」
「生徒会長、普通に彼氏の顔してた!!」
(うるさい……!!)
僕――ほとけは、教室の机に突っ伏しながら、心の中で叫んでいた。
文化祭が終わって一週間。
僕といふくんが付き合っている、という事実は、校内に秒速で広まった。
理由は簡単だ。
いふくんが、隠す気ゼロだから。
「おはよう、ほとけ」
教室の扉が開いた瞬間、爽やかな声が飛んでくる。
(来た……)
顔を上げる前から分かる。
この声、この空気。
「……おはよう」
ぶっきらぼうに返すと、いふくんは僕の机の横に自然に立った。
「今日、昼一緒に食べへん?」
(……近い)
距離が近い。
声も近い。
顔も近い。
「……ここで聞く?」
「え?」
「周り」
視線で示すと、クラスメイト全員が見てる。
「……あ」
いふくんは一瞬だけ気まずそうな顔をした――かと思えば。
「一緒に食べるって、嫌?」
そう言って、少しだけ首を傾げた。
(……殺す気か)
「……嫌じゃない」
ぼそっと言う。
「ほら、聞いた?」
いふくんが周囲に向かって言うと、
「キャーーーー!!」
「今の聞いた!?」
「ヤンキー照れてる!!」
(うるさい!!!)
机を軽く蹴りたくなる衝動を必死で抑える。
「……生徒会長」
「ん?」
「もうちょっと……静かに……」
耳まで赤くなっているのが、自分でも分かる。
いふくんは、くすっと笑った。
「可愛いな」
「……っ!!」
――これだ。
これが、付き合ってから一番の問題。
生徒会長が、遠慮しない。
◇
昼休み。
屋上。
生徒会長特権(という名の不正ルート)で、二人きり……のはずだった。
「え、ほとけと生徒会長!?」
「屋上で昼!?」
「ドラマかよ!」
(なんでいるの……)
屋上の端には、なぜか数名の見学者。
「いや、ここ使うなとは言ってへんやろ」
いふくんが平然と言う。
「……私が嫌なんだけど」
「ほとけが?」
「……うん」
そう言うと、いふくんは即座に周囲を見た。
「ほな、みんな下行こか」
「「えーーー!!」」
ブーイングが起きる。
「ほとけの方が大事やから」
(……)
その一言で、周囲は一斉に黙った。
「生徒会長……」
「本気すぎ……」
「ヤンキーちゃん、勝ち組……」
(勝ち組って何……)
人がいなくなり、静かになる。
僕はお弁当を開いた。
「……生徒会長さ」
「ん?」
「ちょっと、堂々としすぎ」
「付き合ってるんやから、ええやろ」
「……恥ずかしい」
正直な本音。
いふくんは、少しだけ驚いた顔をしてから、優しく言った。
「そっか」
そう言って――
距離を少しだけ空けた。
(……あ)
胸が、ちくっとする。
「……でも」
次の瞬間。
そっと、指先だけが触れる。
「これくらいなら、ええ?」
(……ずるい)
小指同士が、そっと絡む。
「……うん」
顔が熱い。
「ほとけ、素直になったな」
「……うるさい」
でも、指は離さない。
◇
放課後。
生徒会室。
「いや、ちょっと待ってください会長」
「最近、生徒会の雰囲気おかしくないですか?」
副会長が、真顔で言った。
「どこが?」
「どこがじゃないです!!
会議中に彼女見てニヤけるのやめてください!!」
「してへん」
「してました!!!」
僕は、部屋の隅で書類をまとめながら、気配を消していた。
(……居心地悪い)
「ほとけ、こっち来る?」
「行かない」
即答。
「冷たいなぁ」
「仕事しなよ、生徒会長」
「今してる」
(してない)
周囲の視線が痛い。
「……あの」
「ほとけさん」
「会長のどこが良かったんですか?」
(直球!?)
「……別に」
適当に流そうとすると、
「優しいところ?」
「真面目なところ?」
「顔?」
質問が止まらない。
「……全部」
ぽつりと答えた瞬間、
「「「……っ!!」」」
生徒会室が静まり返る。
「……ヤンキーがデレた」
「貴重映像……」
(……言うんじゃなかった)
いふくんは、満足そうに笑っていた。
「ほらな」
「……なにが」
「素直やん」
「……一瞬だけ」
◇
帰り道。
二人並んで歩く。
「なあ、ほとけ」
「なに」
「手、繋いでもええ?」
(……聞くんだ、それ)
少し考えてから、答える。
「……人いなかったら」
「おるけど?」
「……じゃあダメ」
いふくんは、少し考えてから言った。
「ほな、俺がヤンキーに絡まれてる設定で」
「……は?」
次の瞬間、いふくんが僕の腕を掴む。
「ちょ、なにして――」
「助けて、ほとけさん」
小声で囁かれる。
(……っ!!)
「……仕方ないでしょ」
僕は、いふくんの手を強く握った。
「この人、私のだから」
周囲の通行人がざわつく。
「え、逆じゃね?」
「ヤンキー守ってる……」
「生徒会長、捕まってる……」
(違う)
(けど……)
いふくんが、楽しそうに笑った。
「助かったわ」
「……調子乗るな」
でも、手は離さない。
◇
家の前。
「今日はありがとう」
「……別に」
「ほとけ」
「なに」
「好きやで」
(……っ!!)
心臓が跳ねる。
「……私も」
小さな声。
いふくんは、満足そうに微笑んだ。
「ほな、また明日」
「……うん」
ドアを閉めた瞬間、壁にもたれる。
(……無理)
(好きすぎる)
ヤンキーでも、
素直じゃなくても。
この恋は、ちゃんと続いていく。
――生徒会長は余裕で、
ヤンキーちゃんは、今日も照れている。
それが、二人の日常だ。
コメント
2件
どうしてこうも尊いのでしょうか…