テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
75
第3話 見えない糸
「おい、朝霧。」
昼休み前の教室。
後ろの席に座っていた男子生徒が、湊の机を軽く小突いた。
「お前さ、本当に能力ないんだよな?」
教室の何人かが、興味本位にこちらを見る。
湊は苦笑いを浮かべながら頷いた。
「うん。」
「へぇ……。」
別の男子が腕を組み、呆れたように言う。
「この時代に無能力者って、逆に珍しいよな。」
「薬の副作用とか?」
「いや、適性がなかったんじゃね?」
悪意があるわけじゃない。
ただ、純粋な興味。
でも、その言葉は小さな棘のように胸へ刺さる。
湊は笑ってごまかそうとした。
その時だった。
「……おい。」
教室の入口から、低い声が響いた。
全員が振り返る。
そこに立っていたのは、一人の少年。
少し長めの黒髪に、鋭い目つき。
誰もが知っている、有名な能力者。
神童輝羅。
「神童……?」
「C組の?」
教室がざわつく。
輝羅はそんな視線を気にも留めず、ゆっくりと教室へ入ってきた。
そして、湊の机の前で立ち止まる。
「能力がある奴が。」
静かな声だった。
「寄ってたかって、一人を馬鹿にしてんのか?」
教室が静まり返る。
「……だせぇな。」
その一言だけだった。
誰も反論できない。
さっきまで笑っていた男子たちも、気まずそうに目を逸らして自分の席へ戻っていった。
しばらくして、教室にはいつもの空気が戻る。
湊は小さく息を吐いた。
「……ありがとう。」
輝羅は湊をじっと見つめる。
数秒の沈黙。
そして、少しだけ口元を緩めた。
「やっぱり、お前だったか。」
「え?」
「能力物流事故。」
その言葉で、湊は思い出した。
「……あ。」
「カミナリのお兄ちゃん。」
思わず口にすると、輝羅は怪訝そうな顔をする。
「は?」
「ご、ごめん。あの時、助けた女の子がそう呼んでたから。」
一瞬だけ、輝羅は黙った。
そして、小さく鼻で笑う。
「……変な呼び方だな。」
そう言い残して、教室を出て行った。
湊はその背中を見送りながら、小さく笑った。
「やっぱり、あの人だったんだ。」
昼休み。
椿小春は、一人で校舎の階段を上っていた。
向かう先は屋上。
最近、仲良くなった親鳥の巣がある場所。
数日前、その巣では小さな命が生まれた。
昼休みになると、こうして様子を見に来るのが小春の日課だった。
屋上の扉を開ける。
柔らかな風が吹き抜けた。
「こんにちは。」
フェンスの近くでしゃがみ込み、小春は優しく声をかける。
巣の中では、小さな雛たちが一生懸命に羽を動かしていた。
「今日は飛ぶ練習したの?」
「すごいね。」
雛たちがぴぴっと鳴く。
小春は楽しそうに頷いた。
「うんうん。」
「でも、まだ無理しちゃダメだよ?」
その時。
ガチャ。
屋上の扉が、もう一度開いた。
小春が振り返ると、一人の男子生徒が入ってきた。
見たことはある。
能力者育成プログラムに参加している有名人。
だけど、話したことはない。
男子生徒は、小春の存在に気づくと、少しだけ不思議そうな顔をした。
そして、巣の方へ視線を向ける。
雛たちは、一斉に親鳥の陰へ隠れてしまった。
男子生徒は少し困ったように頭をかいた。
「……何してるんだ?」
突然話しかけられ、小春は少し驚く。
「あっ……。」
少しだけ考えてから、小さく答えた。
「この子たちと、お話してたの。」
「……鳥と?」
「うん。」
あまりにも自然に返事をするものだから、男子生徒はしばらく黙っていた。
そして巣を見つめる。
「……俺、嫌われてるみたいだな。」
小春は雛たちの方へ顔を向けた。
しばらく耳を傾けるように目を閉じる。
そして、ふわっと笑った。
「違うよ。」
「最初は、ちょっと怖かったみたい。」
男子生徒は苦笑いを浮かべる。
「……まあ、そうだろ。」
でも、小春は首を横に振った。
「でもね。」
「今は、『あの人、本当は優しい人だ』って言ってる。」
屋上に、静かな風が吹いた。
男子生徒は空を見上げ、小さく息を吐く。
「……鳥に言われても、よく分かんねぇよ。」
その言葉に、小春は思わずくすっと笑ってしまう。
「ふふっ。」
「この子たち、そういうの、よく当たるんだよ?」
男子生徒は何も言わなかった。
ただ、青い空を一羽の親鳥が大きく羽ばたいていくのを見つめていた。
その日の放課後。
教室へ戻る途中、小春は廊下の先に見覚えのある二人の姿を見つけた。
一人は、体育館で出会った優しい男の子。
もう一人は、さっき屋上で出会った、少し怖そうだけど優しい男の子。
二人は何かを話しながら、一緒に歩いている。
その光景を見て、小春は小さく首を傾げた。
「……あれ?」
肩に止まっていた小鳥が、小さく鳴く。
「ちゅん。」
小春は微笑みながら、小鳥に聞いた。
「知ってるの?」
小鳥は嬉しそうに羽を震わせる。
「ちゅん、ちゅちゅん。」
その言葉を聞いた小春は、空を見上げながら小さく呟いた。
「そっか。」
「二人は、もう出会ってたんだね。」
春の風が、三人の間を静かに通り抜けていった。
まだ誰も知らない。
それぞれ別の場所で結ばれた小さな縁が、 やがて世界の運命を大きく変えていくことを。
第3話 見えない糸 完
コメント
1件
みぃです🤍🥀 第3話、読ませてもらいました…。無能力の湊くんをからかう男子たちに胸がギュッとなったけど、そこに現れた輝羅くんがカッコよすぎて震えた…「だせぇな」の一言で場を鎮めるの、本当に好きです🥀 椿さんが鳥と話すシーン、すごく優しい世界で心が温かくなったよ。「この子たち、そういうのよく当たるんだよ」って笑う小春ちゃん、めちゃくちゃ可愛い…。そして二人がもう出会ってた伏線、気になる〜!続きが楽しみです🌙