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20
あまね🍡💠
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「おい、朝霧。」
昼休み前の教室。
後ろの席に座っていた男子生徒が、湊の机を軽く小突いた。
「お前さ、本当に能力ないんだよな?」
教室の何人かが、興味本位にこちらを見る。
湊は苦笑いを浮かべながら頷いた。
「うん。」
「へぇ……。」
別の男子が腕を組み、呆れたように言う。
「この時代に無能力者って、逆に珍しいよな。」
「薬の副作用とか?」
「いや、適性がなかったんじゃね?」
悪意があるわけじゃない。
ただ、純粋な興味。
でも、その言葉は小さな棘のように胸へ刺さる。
湊は笑ってごまかそうとした。
その時だった。
「……おい。」
教室の入口から、低い声が響いた。
全員が振り返る。
そこに立っていたのは、一人の少年。
少し長めの黒髪に、鋭い目つき。
誰もが知っている、有名な能力者。
神童輝羅。
「神童……?」
「C組の?」
教室がざわつく。
輝羅はそんな視線を気にも留めず、ゆっくりと教室へ入ってきた。
そして、湊の机の前で立ち止まる。
「能力がある奴が。」
静かな声だった。
「寄ってたかって、一人を馬鹿にしてんのか?」
教室が静まり返る。
「……だせぇな。」
その一言だけだった。
誰も反論できない。
さっきまで笑っていた男子たちも、気まずそうに目を逸らして自分の席へ戻っていった。
しばらくして、教室にはいつもの空気が戻る。
湊は小さく息を吐いた。
「……ありがとう。」
輝羅は湊をじっと見つめる。
数秒の沈黙。
そして、少しだけ口元を緩めた。
「やっぱり、お前だったか。」
「え?」
「能力物流事故。」
その言葉で、湊は思い出した。
「……あ。」
「カミナリのお兄ちゃん。」
思わず口にすると、輝羅は怪訝そうな顔をする。
「は?」
「ご、ごめん。あの時、助けた女の子がそう呼んでたから。」
一瞬だけ、輝羅は黙った。
そして、小さく鼻で笑う。
「……変な呼び方だな。」
そう言い残して、教室を出て行った。
湊はその背中を見送りながら、小さく笑った。
「やっぱり、あの人だったんだ。」
昼休み。
椿小春は、一人で校舎の階段を上っていた。
向かう先は屋上。
最近、仲良くなった親鳥の巣がある場所。
数日前、その巣では小さな命が生まれた。
昼休みになると、こうして様子を見に来るのが小春の日課だった。
屋上の扉を開ける。
柔らかな風が吹き抜けた。
「こんにちは。」
フェンスの近くでしゃがみ込み、小春は優しく声をかける。
巣の中では、小さな雛たちが一生懸命に羽を動かしていた。
「今日は飛ぶ練習したの?」
「すごいね。」
雛たちがぴぴっと鳴く。
小春は楽しそうに頷いた。
「うんうん。」
「でも、まだ無理しちゃダメだよ?」
その時。
ガチャ。
屋上の扉が、もう一度開いた。
小春が振り返ると、一人の男子生徒が入ってきた。
見たことはある。
能力者育成プログラムに参加している有名人。
だけど、話したことはない。
男子生徒は、小春の存在に気づくと、少しだけ不思議そうな顔をした。
そして、巣の方へ視線を向ける。
雛たちは、一斉に親鳥の陰へ隠れてしまった。
男子生徒は少し困ったように頭をかいた。
「……何してるんだ?」
突然話しかけられ、小春は少し驚く。
「あっ……。」
少しだけ考えてから、小さく答えた。
「この子たちと、お話してたの。」
「……鳥と?」
「うん。」
あまりにも自然に返事をするものだから、男子生徒はしばらく黙っていた。
そして巣を見つめる。
「……俺、嫌われてるみたいだな。」
小春は雛たちの方へ顔を向けた。
しばらく耳を傾けるように目を閉じる。
そして、ふわっと笑った。
「違うよ。」
「最初は、ちょっと怖かったみたい。」
男子生徒は苦笑いを浮かべる。
「……まあ、そうだろ。」
でも、小春は首を横に振った。
「でもね。」
「今は、『あの人、本当は優しい人だ』って言ってる。」
屋上に、静かな風が吹いた。
男子生徒は空を見上げ、小さく息を吐く。
「……鳥に言われても、よく分かんねぇよ。」
その言葉に、小春は思わずくすっと笑ってしまう。
「ふふっ。」
「この子たち、そういうの、よく当たるんだよ?」
男子生徒は何も言わなかった。
ただ、青い空を一羽の親鳥が大きく羽ばたいていくのを見つめていた。
その日の放課後。
教室へ戻る途中、小春は廊下の先に見覚えのある二人の姿を見つけた。
一人は、体育館で出会った優しい男の子。
もう一人は、さっき屋上で出会った、少し怖そうだけど優しい男の子。
二人は何かを話しながら、一緒に歩いている。
その光景を見て、小春は小さく首を傾げた。
「……あれ?」
肩に止まっていた小鳥が、小さく鳴く。
「ちゅん。」
小春は微笑みながら、小鳥に聞いた。
「知ってるの?」
小鳥は嬉しそうに羽を震わせる。
「ちゅん、ちゅちゅん。」
その言葉を聞いた小春は、空を見上げながら小さく呟いた。
「そっか。」
「二人は、もう出会ってたんだね。」
春の風が、三人の間を静かに通り抜けていった。
まだ誰も知らない。
それぞれ別の場所で結ばれた小さな縁が、 やがて世界の運命を大きく変えていくことを。
第3話 見えない糸 完
コメント
1件
みぃです🤍🥀 第3話、読ませてもらいました…。無能力の湊くんをからかう男子たちに胸がギュッとなったけど、そこに現れた輝羅くんがカッコよすぎて震えた…「だせぇな」の一言で場を鎮めるの、本当に好きです🥀 椿さんが鳥と話すシーン、すごく優しい世界で心が温かくなったよ。「この子たち、そういうのよく当たるんだよ」って笑う小春ちゃん、めちゃくちゃ可愛い…。そして二人がもう出会ってた伏線、気になる〜!続きが楽しみです🌙