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大神 瑠愛 .
登坂視点
都内某所の会議室を後にして、息抜きにコンビニへ向かう。その道すがら、俺――登坂湊(とさか みなと)は背後にヒヤリとした冷気を感じた。
(またか……)
振り返り、視線を向ければ、そこにいたのは現在捜索中の被害者女性だった。
現時点で見つかっている彼女の遺体は、頭部と上体のみ。だから、俺の目に映る彼女の姿も、下半身と両腕が霞のように消えかかった凄惨なものだ。パーツが足りないせいで、警察はまだ遺族に遺体を返還できずにいた。
姿が視えるだけで、何もしてあげられない。その歯がゆさは誰にも分からなかった。それならせめて死者の声が聴けたらと、幾度思ったか分からない。
今回のような残虐な事件では、捜査に当たる刑事にも危険が及ぶ。そのため、これまで扱ってきた軽犯罪とは違い、上層部からは「バディを組んで捜査すること」を絶対条件とされていた。
しかし、特殊な能力を持つ俺と組みたがる物好きなど、署内には誰一人としていない。その不甲斐なさも、俺の頭を悩ませていた。
いつも通りコンビニの手動ドアを開け、最短ルートで棚から商品を手に取り、レジへ直行する。
(あれ……いつものおじいちゃん店員じゃないのか)
カウンターにいたのは、ずいぶん若い、大学生くらいに見える細身の店員だった。彼が手早くスキャンを済ませる。促されるまま、会計のために財布を開いた、その時だった。
「はい。どうしました?」
俺はその場で思わず固まった。
俺は一言も発していない。彼は一体、誰と会話しているんだ? まさか――
死者の領域に足を踏み入れることができるのは、世界で自分だけだと思っていた。しかし、彼の視線を辿ると、目の前の俺ではなく、俺の真後ろへと向けられている。そこにいるのは、あの被害者だ。
「君……死者が視えるのか?」
間違いなく、彼は彼女の声に反応した。彼なら、俺のバディになり得る存在かもしれない。
そう期待したのも束の間、彼は自身の秘密を握られたかのように、怯えた様子で狼狽えた。
「視えません」
短い拒絶。会話を端的に終わらせようとする口調だった。死者と関わりを持つのが不本意なのだと、彼の全身から伝わってくる。初めて見つけた同胞に拒絶されたような、暗い絶望感が胸に広がった。
相手の気持ちを思えば、無理強いはしたくない。だが、俺にはどうしてもバディが必要だ。矛盾した考えがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
「じゃあ、死者の声が聴こえるのか?」
重ねて問い詰めると、彼は躊躇い、考え抜くような素振りを見せた後で、静かに一度だけ、深く頷いた。
彼の肯定は、孤独だった俺にとって、何ものにも代えがたいほど鮮烈だった。
「俺は登坂湊だ。頼む、俺の捜査に協力してくれ」
どうしても彼の存在が必要だ。そう確信した俺は、ほとんど無意識に協力を仰いでいた。畳み掛けるように、自分に死者の姿を視る力があることも明かす。狡いやり方だとは分かっていたが、断られるリスクを少しでも減らしたかった。
「そんなこと急に言われても困ります。それに……確実に役立つかどうかも保証できませんよ」
しかし当然、彼は自分の平穏が破壊されることを恐れ、難色を示した。
同じ力を持っていても、分かり合えないのか。孤独には慣れていたはずなのに、今まで以上の虚しさに支配されそうになる。
その時だった。俺の背後にいた彼女が、すっとレジカウンター越しに回り込み、彼の目の前で何かを必死に訴え始めた。
身振り手振りで彼を説得しているようだ。声は聴こえずとも、その必死な空気感だけで何となく理解はできた。
(頼む、応じてくれ……)
彼女が間を繋いでくれているなら、俺まで口を出して彼に負担をかけるわけにはいかない。俺は祈るような気持ちで、二人のやり取りを見守った。
「……その前に」
極度の緊張からか、掠れた声だった。それでも、まだ怯えながらも、彼は絞り出すように言葉を繋いだ。
「事件の概要を……聞いてもいいですか?」
協力してもらえるかはまだ分からない。それでも、彼は対話を拒絶しなかった。
それだけで、これまでの長い孤独が、一瞬で報われたような気がした。
コメント
5件
うわ、第2話めっちゃ良かった…! 登坂さんの孤独感がひしひしと伝わってくるし、コンビニ店員の「視えません」からの段階的承諾、あの心の揺れがリアルすぎて泣けるわ。 被害者の女性が必死に間を繋ぐシーン、地味だけどめっちゃ熱かった。バディ成立の予感に胸熱🔥 続きめっちゃ気になる〜!