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サイド トキ?(×××)
家に帰ると、母さんの悲鳴と何が割れる音が聞こえた。
ああ、またかとうんざりする。
僕は深呼吸をして無理矢理口角を上げてガラリとドアを開けた。
「ただいま。母さん」
「…………ァ、×××……」
助けを求めるその瞳を僕は笑顔のまま見つめる。
「ごめん、卵きらしてたの忘れてた。悪いけど、買ってきてもらってもいいかな?」
「そんなのお前が行けばいいだろォ?」
舌なめずりするような気持ち悪い声に背筋がぞっとする。
それでも、逃げるわけにはいかくて。
「僕じゃどれが安いのかわからなくて」
「……行ってくるね……」
「うん、いってらっしゃい」
強引に母さんを外へ出す。
バタンとドアが閉じると同時に、僕は男と向かい合った。
「また、母さんのこと虐めていたのか」
もう笑顔でいる必要はない。
「ヒヒッ、お前がいなければいいとこだったのになァ」
「誘拐だってお前の指示だよな?見知った人が何人かいた」
「おいおい、お前の母親の上司を疑うのかァ?証拠はあんのかョ」
「………………」
その立場を利用して、弱い母さんを痛ぶるこいつは上司なんかじゃない。卑劣な人間だ。
証拠がないから、僕たちが何も出来ないことをわかってやっているくせに。
「人を疑う悪いコには、“教育”が必要だなァ」
「!!」
どれくらい時間が経っただろうか。
頭を掴まれて、そのまま壁に叩き付けられる。
一気に意識が遠くなった。
それから立て続けに五、六発お腹を殴られる。
「っー!!」
たまらず、どさりと床に倒れ込んだ。
「ヒヒャッ、お前も母親みたいに従順になればいいのに懲りねェなァ」
「奴隷になれって?冗談じゃ…!!」
バシャン!という音と同時にうめき声をあげる。
熱湯だ。
「熱っ……!」
視界の端で、あいつが包丁を持つのが見えた。
さすがにまずいと思った時だった。
「あの……やめてください。……息子にはよく言っておくので……」
いつのまにか母さんが帰ってきていた。
震えるその手には卵がある。
「そーか、そーか。んじゃ、また明日、ナ」
「………………は、い」
二度とこないでほしい。そんな思いで俺は玄関の鍵を閉める。
「母さん、大丈夫……」
大丈夫だった?
その言葉は続かなかった。
「なんで……なんで余計なことするのよ?!お母さんだって必死になって、がんばってるのよ?!どうして×××は余計なことしか出来ないの?!」
「っ……ぁ……」
母さんの細い指が僕の首を締め付けていく。
息が、出来ない。
「っ、母さ……ごめ…………」
声ともいえないかすれ声が咽喉から出る。
とたん、母さんは目を見開いて手を離した。
「っごほっ、ごほっ」
呼吸が楽になる。倒れないようにお腹に力を入れて、意識を保つ。
「ごめんね、×××。母さん、ひどいことしたね。
私がいなければよかったね……」
「悪いのはあいつと、母さんの心の病気だから、母さん自体は悪くないよ」
母さんは、鬱病だ。昔のトラウトがいまでもフラッシュバックするらしい。いや、今でもひどい環境の中にいるんだ。
仕方がないことだから。僕はそれをわかっているから。
だから、そんな悲しいこと言わないでほしい。
「それよりさ、ご飯食べようよ。お腹すいてるでしょ?」
「うん…」
「急いで作るからちょっと待って」
どちらが親なのかわからない言葉を言いながら、僕は台所へ向かった。
手を洗おうとしてジャージの袖をまくって、僕は体を硬くした。
(な、なんで、盗聴器があるんだ?!)