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見えてしまった運命
俺は昔から、ひとつの奇妙な「目」を持っている。
他人の背中や肩のあたりに、淡く滲む数字が見えるのだ。
それは、その人間が「死ぬまでの残り日数」。
初めて気づいたのは小学四年のときだった。仲の良かった同級生の頭上に「0」と浮かんでいて、翌日、彼は交通事故で帰らぬ人になった。
以来、俺はこの目を否定しようとした。幻覚だと、ただの悪い夢だと。けれど何度も目撃するたび、それが現実であることを思い知らされた。
だから俺は、あえて人の顔をじっと見ないようになった。
目を合わせれば、数字が映り込んでしまうから。
知りたくもないのに、見えた未来を背負うことになるから。
――けれど、その日。
俺の目は、たったひとりの友人に、最悪の数字を告げていた。
***
放課後の教室。夕焼けが差し込む窓際に、りうらが腰を下ろしていた。
彼はどこかぼんやりとした顔で空を眺めている。
俺にとってりうらは、数少ない「普通に」接してくれる相手だった。俺が人との距離を取りがちなことを知りつつ、深く踏み込もうともせず、けれど一線を越えずに寄り添ってくれる――そんな不思議な距離感を持つやつ。
「なあ、ないこ」
俺のあだ名を呼びながら、彼が笑う。
「おまえ、最近元気なさそうじゃね?」
「……別に」
「別にって顔じゃねーよ。ほら、授業中もずっと下向いてるし」
「……」
言葉を飲み込んだ。
俺は今、りうらの肩口に浮かぶ数字を、直視できずにいる。
――「3」。
冷たい数字が、俺の胸を抉る。
あと三日で、りうらは死ぬ。
その事実を見てしまった。
声を出すと喉がひきつる。
心臓がどくどく暴れ、手汗がにじむ。
「……どうした?」
りうらが小首をかしげる。
俺は慌てて視線をそらし、机に突っ伏した。
「いや……ちょっと、眠いだけ」
「ふーん……まあ、無理すんなよ」
軽い調子の声が、胸に突き刺さる。
俺は知ってしまった。だが、言えるか?「おまえ、三日後に死ぬ」なんて。
言ったところで信じるはずもないし、むしろ気味悪がられるのがオチだ。
だけど、俺は――
***
その日の帰り道。
夕暮れの町を並んで歩く俺とりうら。
蝉の声はもう弱々しく、夏の終わりを告げていた。
「なあ、ないこ」
「ん?」
「もし、さ」
「……」
「自分の寿命があと三日しかないって知ったら……どうする?」
思わず足を止めた。
背筋がぞわりと冷える。まるで俺の心を覗き込んだような質問。
「……なんだよ、それ」
「いや、たまに考えるんだよ。人っていつ死ぬかわかんねーじゃん。明日事故るかもしれないし、病気かもしれない。だったら、もし残り三日ってわかったら、俺は何したいかなーって」
「……」
「やっぱりさ、最後まで笑ってたいな。誰かと一緒に。泣いたまま死ぬとか嫌じゃん」
――馬鹿みたいだ。
けれど、胸が痛む。俺は知ってる。りうらは三日後に死ぬんだ。
本人は何も知らずに、笑って未来を語っている。
「ないこは?」
「……」
「おまえなら、何する?」
「……俺は」
喉が焼けつく。
本当は叫びたかった。「死なないでくれ」って。けれど言えない。
ただ俺は、絞り出すように答えた。
「俺は……最後まで、大事なやつと一緒にいる」
それだけ言うのが精一杯だった。
りうらは「そっか」と笑った。
その笑顔が、俺の胸に深く突き刺さった。
***
その夜、眠れなかった。
ベッドの上で天井を見つめ、何度も自問する。
――俺に何ができる?
死期が見える力なんて、ただの呪いだ。今までだって救えたことなんて一度もない。
未来は変えられない。そう思い込んでいた。
けど……本当にそうなのか?
三日後にりうらが死ぬ。
ならば、俺が全力で動けば、なにか変えられるんじゃないか?
それが無駄に終わったとしても、俺はあがきたい。
大事な友達を、ただ見殺しにするなんて耐えられない。
俺は布団を蹴飛ばし、決意した。
明日からの三日間、りうらのそばにいる。
絶対に離れない。絶対に守る。
そう誓った瞬間、胸の奥に小さな火が灯った。
俺は知らなかった。
その三日間が、俺たちの運命を大きく狂わせていくことを――。
運命を変えるために
朝。
目覚まし時計の音が、耳に刺さるように鳴り響いた。
昨夜、ろくに眠れなかったせいで頭は重い。だが、布団から飛び起きた。寝坊なんかしてる場合じゃない。
――今日を含めて、あと「3日」。
りうらの命の砂時計は、刻一刻と落ち続けている。
俺が気づいていようといまいと、運命は残酷に流れていくのだ。
制服に袖を通しながら、胸の奥に重たい決意を繰り返す。
絶対に守る。何があっても。
それだけを心に刻んで、俺は家を飛び出した。
***
校門前。
いつもより早めに登校したはずなのに、そこにはすでにりうらが立っていた。
ポケットに両手を突っ込み、空を見上げている姿。
淡い朝の光を浴びた横顔が、妙に儚げに見えて胸が締め付けられる。
「……おはよ」
声をかけると、りうらがこちらを振り向いた。
にっと笑って、いつもの調子で手を振る。
「おー、ないこ! 早いな。珍しい」
「おまえこそ。なんでこんな時間に?」
「んー、なんとなく?」
軽い答え。でも、俺にはその「なんとなく」が怖かった。
偶然の行動の積み重ねで、人は簡単に死に至る。道を一本違えるだけで、命の終わりにぶち当たることだってある。
その「偶然」を、俺はどうにかして防がなきゃならない。
「……なあ、りうら」
「ん?」
「今日、俺と一緒に過ごさねえ?」
「へ?」
間抜けな声を上げるりうら。
俺は必死で視線を逸らしながら続ける。
「授業も、昼も、帰りも。ずっと一緒にいてくれ。……ダメか?」
「……な、なんだよ急に」
「いいだろ?」
食い下がる俺に、りうらは少し驚いた顔をして――やがてふっと笑った。
「ははっ。別にいいけど? おまえがそこまで言うの珍しいな」
「……マジで頼む」
「おう。じゃあ今日一日、相棒だな」
軽口のように返されたその言葉に、胸が救われる気がした。
***
一限目。
国語の授業。
りうらは隣の席で、ノートを取るでもなく俺に落書きの紙切れを回してくる。
〈ないこ、真面目すぎ〉
そう書かれていて、思わず苦笑した。
普段なら突っ込みを返すところだが、今日は違った。
この瞬間すら、二度と来ないかもしれないと思うと、紙切れ一枚が宝物のように感じられた。
二限目、三限目も、俺はずっと彼を見ていた。
教科書を開く手。居眠りして頬杖をつく姿。窓の外に気を取られる横顔。
そのすべてが愛おしくて、怖かった。
昼休み。
弁当を持って屋上に出た。風が心地よく吹き抜け、空は青かった。
りうらはコンビニのおにぎりを頬張りながら、ぽつりとつぶやいた。
「ないこってさ、人のことじっと見すぎじゃね?」
「……悪い」
「いや、別に。なんかさ、今日のおまえ、いつもと違う感じするんだよな。変に必死っていうか」
胸が跳ねた。
誤魔化すためにおにぎりをひと口かじったが、味なんてわからない。
「……必死、かもな」
「おー、認めるんだ」
「まあ」
俺が曖昧に笑うと、りうらはしばらく俺を見つめ――それから、真面目な声で言った。
「でもさ。そうやって誰かのために必死になれるのって、すげーと思うよ」
心臓を掴まれたような感覚。
俺は何も返せなかった。
***
放課後。
一緒に下校する道。
りうらは俺の隣で、今日あったくだらない出来事を楽しそうに話す。
その声を聞きながら、俺は考え続けていた。
――死因はなんだ?
事故か。病気か。事件か。
「三日後」という結果だけが見えて、理由は見えない。
だからこそ難しい。漠然とした影に立ち向かっているようで、心が削られる。
「なあ、ないこ」
「ん?」
「おまえ、今日一日ずっと俺のガードマンだったな」
「……悪いかよ」
「いや、むしろ嬉しい」
そう言って笑う顔。
その笑顔を、絶対に奪わせてたまるか。
そのとき、突然、交差点でトラックが信号無視して突っ込んできた。
「危ない!」
反射的にりうらを突き飛ばした。
轟音。アスファルトにブレーキ痕。
俺たちは地面に転がり、すぐ横をトラックが猛スピードで走り抜けていった。
心臓が破裂しそうだった。
あと一歩で、りうらは――
「……ないこ!」
りうらが俺の腕を掴んだ。
瞳が大きく揺れている。
「大丈夫か!? 怪我は!?」
「……俺は平気。でも、おまえこそ……」
「俺も無事! おまえが突き飛ばしてくれたから!」
その瞬間、背筋に悪寒が走った。
もし俺が気づかなかったら。もし一瞬遅れていたら。
――今日で終わっていた。
数字が「0」に変わっていたかもしれない。
***
家に帰ってからも、震えは止まらなかった。
ベッドに座り込み、頭を抱える。
りうらの死は「三日後」と決まっている。
だが、今日だって死にかけた。
つまり、死の可能性は常に隣り合わせにあるってことだ。
この三日間、何度も危機が訪れるのかもしれない。
そのすべてを防ぎきれるのか? 本当に?
――だが、逃げるわけにはいかない。
俺は決めたんだ。
どんな未来だろうと、俺がりうらを守る。
運命なんかに屈してたまるか。
携帯を開き、りうらにメッセージを送った。
〈明日も一緒に行こう〉
〈どこにも一人で行くな〉
すぐに返事が来る。
〈過保護すぎ(笑)〉
〈でも、ありがとな〉
その一文を見て、胸が熱くなった。
――絶対に守る。
絶対に。
俺は強く心に誓い、夜更けの闇を睨みつけた。
まだ残り二日。
戦いは、これからだ。
最後の選択
翌朝。
携帯のアラームよりも早く目が覚めた。
昨日の交差点での光景が、まぶたに焼き付いて離れない。トラックが突っ込んできたあの瞬間。俺が突き飛ばさなければ、りうらは――。
数字はまだ「2」のままだった。
昨日で終わらなかったことに安堵したのも束の間、逆に怖さが増す。
今日、明日、そして明後日。まだいくつもの死の可能性が待ち構えている。俺はそれをすべて防がなくてはならない。
制服の襟を正し、鏡の前で自分に言い聞かせる。
「絶対に……守る」
***
登校中も、俺はりうらの隣から一歩も離れなかった。
電車で座るときも、廊下を歩くときも、階段を昇るときも。すべて俺が先に立ち、周囲を確認し続けた。
クラスメイトには「ないこ、りうらのボディーガードかよ」と笑われたが、気にしていられない。
りうらは最初こそ苦笑していたが、やがて諦めたように俺の過保護を受け入れた。
その表情が、なぜか優しくて。ますます手放したくないと思った。
昼休み、屋上に出ると、青空が広がっていた。
りうらはパンをかじりながら俺をじっと見て言った。
「なあ、ないこ」
「ん?」
「おまえ……俺が死ぬんじゃないかって思ってんだろ」
胸が跳ねた。
視線を逸らしたが、彼は真剣な目で俺を射抜いてくる。
「……なんでそう思う」
「見てりゃわかる。昨日のトラックもそうだし、今日のおまえの必死さも。……なにか知ってるんだろ?」
言葉が詰まった。
本当のことなんて言えるはずがない。だが、嘘もつけなかった。
「……もしもだよ」
「もしも?」
「もし……おまえがあと二日で死ぬってわかったら、俺は全力で守る。それだけだ」
精一杯の言葉。
りうらは一瞬目を丸くしたが、すぐにふっと笑った。
「おまえ、やっぱり優しいな」
「……優しいとかじゃねえ」
「そういうとこが好きなんだよ」
――好き。
心臓が一気に跳ね上がった。
今のは冗談か、それとも本気か。わからない。だが耳の奥に残るその響きが、俺を突き動かしていく。
***
放課後。
昨日のような事故を警戒して、俺は遠回りの帰路を選んだ。人通りの多い商店街を通り、車道の近くは歩かせない。
りうらは呆れたように笑いながらも、何も言わず俺の隣を歩いた。
「なあ、ないこ」
「なんだ」
「おまえ、もし本当に俺が死ぬってわかってたら……どうしてほしい?」
「どういう意味だよ」
「死ぬ運命ってやつを、変えようとしてほしい? それとも受け入れてほしい?」
歩みが止まった。
俺は震える声で答える。
「そんなの……変えるに決まってんだろ」
「……そっか」
りうらは少し俯き、やがて顔を上げた。
その横顔はどこか寂しげで、でも強い光を宿していた。
「俺さ……ほんとは怖いんだ」
「え?」
「死ぬとか、生きるとか。そんなこと普段は考えないけど、昨日、ほんとに死ぬかと思ったとき――怖かった。消えるのが」
初めて聞く弱音だった。
普段どんな時も飄々として笑っているりうらが、今、俺の前でだけ本音を漏らしている。
「だから……ありがとうな。おまえが守ってくれて」
「……俺は、まだ守り切れてねえ」
「でも、守ろうとしてくれてる。それが嬉しい」
その言葉に胸が熱くなった。
***
そして翌日。残り「1日」。
俺は過剰なほど警戒した。
校内でも外でも、りうらを一人にしない。
昼休みにトイレに行くときすらついて行こうとして「さすがにそこまではいい」と笑われた。
だが、その日の放課後。
運命は、ついに牙を剥いた。
商店街を歩いているときだった。
突然、上から看板が落ちてきたのだ。
「りうら!!」
咄嗟に肩を引き寄せた。
鉄の塊が目の前に落ち、地面をえぐる。
粉塵が舞い、周囲がざわめいた。
「っ……あぶね……」
息が荒い。
あと数秒遅れていたら、りうらは下敷きになっていた。
抱き寄せたまま、俺は叫ぶように言った。
「だから言っただろ……! おまえは死ぬんだって!」
ハッとした。
口が滑った。
りうらが驚いた目で俺を見た。
「……やっぱり、おまえ……」
「……」
「ほんとに、見えてるんだな。俺の死ぬ日が」
もう誤魔化せなかった。
俺は唇を噛みしめ、うなずいた。
「見えるんだ。人の死ぬ日が。……おまえの頭の上に、最初に『3』が見えて。今は……『1』なんだ」
「……そうか」
りうらはしばらく黙り込み、それから微笑んだ。
「じゃあ、残り一日……俺はおまえと一緒に生きる」
その笑顔は、涙が出そうなくらい綺麗だった。
***
そして、運命の日。
朝から俺は極限まで神経を尖らせていた。
階段、交差点、教室の窓。あらゆる危険を想定して動く。
だが時間は無情に過ぎ、夕方が迫ってきた。
下校時。
俺とりうらは、並んで歩いていた。
夕焼けが街を染める。オレンジ色の光の中で、りうらが静かに口を開いた。
「ないこ」
「……なんだ」
「俺、やっぱりさ……最後に言いたいことあるんだ」
胸が締め付けられる。
そんなこと言うな、と叫びたかった。だが言えなかった。
「俺……おまえのことが好きだ」
世界が止まった。
夕暮れの雑踏の音も、人の声も、すべて消えた。
「最初はただ気になる友達だった。でも、こうして必死に守ってくれるおまえを見て……本気で惚れた」
「りうら……」
「だから、たとえ明日死んでも……後悔はない」
涙が込み上げた。
運命なんかに奪わせてたまるか。
俺は彼の手を強く握りしめ、叫んだ。
「ふざけんなよ! おまえは死なねえ! 絶対に生き延びる! 俺が生かす!」
その瞬間、背後で轟音が響いた。
車がガードレールを突き破って突っ込んでくる。
反射的に、俺はりうらを突き飛ばした。
視界が真っ白に弾け――
***
気がついたとき、病院の天井が見えた。
全身が痛む。腕と足に包帯が巻かれている。
隣のベッドには、りうらが座っていた。無事な姿で。
「ないこ!」
駆け寄る声。涙で濡れた目。
「バカ野郎……! おまえが代わりに……っ」
「俺は生きてる。だからいい」
「でも……!」
俺はかすれた声で笑った。
「おまえが生きてるなら……それでいい」
りうらは俯き、俺の手を握った。
「俺……生き延びたんだな」
「ああ」
「運命……変わったんだな」
数字はもう、見えなかった。
りうらの頭上から「0」は消えていた。
「これから先も……ずっと一緒にいよう」
「ああ……」
夕焼けよりも赤く熱い涙が、頬を伝った。
運命は変えられた。
いや、変えたんだ。俺とりうらの想いで。
そして、俺たちの時間は――確かに、これから始まるのだ。
最後の夜
運命の日がやってきた。
朝。りうらの頭上に浮かんでいた「1」の数字が、無情にも「0」に変わっていた。
俺は目を疑った。まだ一日が始まったばかりなのに、もう「0」になっている。
――今日中に必ず、りうらは死ぬ。
息が苦しかった。
朝からずっと、りうらの隣に付きっきりだった。
教室でも、廊下でも、トイレの前でも。誰に何を言われようと構わない。絶対に一人にしなかった。
だが時間は刻一刻と過ぎていく。
昼を越え、夕方が迫る。
どれほど警戒しても、数字は消えない。
俺の胸を締めつけるのは、焦りと恐怖だった。
***
「ないこ」
「……なんだ」
「おまえ、今日やけに必死だな」
「……」
「やっぱり……俺、今日死ぬんだろ」
りうらは笑っていた。だがその声は震えていた。
俺は何も答えられず、唇を噛んだ。
「なあ、俺は怖い。でもな、最後の日をおまえと一緒に過ごせてるなら……それでいいや」
「バカ言うな!」
「……」
「俺はまだ諦めてねえ! おまえを絶対に守るって決めたんだ!」
叫んだ。
だが胸の奥底では、もう理解していた。数字は一度も消えなかった。俺には運命を変えられないのかもしれない。
それでも。
それでも――俺は最後まで足掻く。
***
放課後。
帰り道。
俺たちは並んで歩いた。
西日が街を赤く染める。
りうらは夕焼けを見上げ、ぽつりと言った。
「きれいだな」
「ああ」
「これが最後に見る夕陽かもな」
「……やめろ」
「ごめん。でも、俺はちゃんと受け入れたいんだ」
その横顔が、やけに穏やかで。
だからこそ、余計に悲しくてたまらなかった。
「ないこ。俺な……おまえのことが好きだ」
突然の告白。
時間が止まった。
心臓が激しく鳴り、視界が揺れる。
「俺、ずっと言えなかった。でも死ぬ前にだけは言いたかったんだ」
「りうら……」
「だから……ありがとう。俺を守ろうとしてくれて」
涙が頬を伝った。
どうして今なんだ。
どうして、こんなタイミングなんだ。
俺は震える声で答えた。
「俺も……好きだ。おまえのことが」
その瞬間。
――轟音。
背後から猛スピードの車が突っ込んできた。
避ける暇はなかった。
「りうら!!」
咄嗟に肩を掴んで引いた。
だが間に合わなかった。
鈍い衝撃音。
鮮血。
りうらの身体が宙に投げ出され、地面に叩きつけられる。
「……っ! りうらぁぁぁ!!!」
俺は駆け寄り、彼の身体を抱きしめた。
温もりが急速に失われていく。
彼の口から赤いものが零れた。
「ないこ……ごめんな……」
「しゃべるな! 助け呼ぶから!」
「もう……いいんだ……」
りうらの手が俺の頬に触れた。
弱々しくも、確かに優しく。
「最後に……言えてよかった……。好きだよ……ないこ……」
その瞳から光が消えていった。
俺は声にならない叫びを上げた。
頭上の「0」は、完全に消えていた。
――死期の刻印が役目を終えたからだ。
***
夜。
俺は一人、病院の屋上に立っていた。
星空が広がっているのに、何も見えなかった。
胸の奥には空洞ができ、そこに冷たい風だけが吹き込んでいた。
あの日から、ずっと足掻いてきた。
数字を見て、恐れて、抗って。
けれど、結局なにも守れなかった。
「ごめんな……りうら」
涙が頬を伝い落ちる。
運命は変えられなかった。
俺の力では、ただ見届けることしかできなかった。
それでも――。
最後に言えた言葉は、本物だった。
好きだ、と。
あの一瞬だけでも、俺たちは心を通わせられた。
それが唯一の救いであり、最大の呪いだった。
俺は星空を仰ぎ、震える声で呟いた。
「次に生まれ変わったら……絶対に、守るから」
夜風が答えるように吹き抜けた。
その冷たさの中で、俺はひとり、膝を抱えて泣き続けた。
最後になったら申し訳ないです。
一応、言わせてください。
ありがとうございました。あと、私がしんだら‥報告させていただきます。
さようなら
コメント
21件
あ、ラインできた?
どうか最後の投稿にならないで欲しい、 最後の投稿ではあってほしくないけど、そうなってしまった時、挨拶ができてなかったら心残りが多すぎるから、、 素敵な投稿を本当にありがとうございます!またいつか!
めちゃくちゃささった、、😭 桃さんが必死なのも文章なのに伝わって、結局助からないのも現実味があって泣きそうになった、😭 最後になろうとも私はずっと言うぜ!!またねっ!