テラーノベル
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しばらくの間、涼ちゃんは手芸教室に姿を見せなかった。その間、教室の片隅の空席はいつもより少し大きく感じられた。
数日ぶりに、やっと涼ちゃんがまた教室にやってきた。
それでも相変わらず、一番端っこの席で静かに座っているだけだった。
机の上には使い慣れた輪ゴムと、きれいに並べられた色とりどりのフェルト。
どこか居心地悪そうに、視線を落としたままだ。
そんな様子を見ていた同級生の男女たちが、
こそこそと小声で相談しはじめる。
「今日こそ少し話してみる?」
「うん、勇気出してみよ!」
おそるおそる、その一人が涼ちゃんのそばにやってきた。
「……ねえ、これ一緒に作らない?」
そっとフェルトのキーホルダーキットを差し出す。
涼ちゃんは少し驚いた顔をして、
一瞬戸惑いながらも、声にならない「うん」と頷いた。
最初はお互いにぎこちなく、会話もほとんどなかった。
だけど布に針を刺したり、パーツを並べたり、
「ここむずかしいね」「色、どれがいいかな?」
時折短い言葉を交わしながら、一緒に作品を作るうちに――
気がつけば、涼ちゃんの唇の端にそっと微笑みが浮かんでいた。
それを見た周りの子たちも、
不思議そうに、けれどどこかうれしそうに目を合わせた。
教室の空気が、ほんの少しだけあたたかくなったような気がした。