テラーノベル
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カーテンの隙間からこぼれる光の眩しさで目が覚めて、ぼんやりと目を開けたとき、最初に感じたのは重さだった。
腰のあたりに回された腕。背中にぴたりとくっつく体温。規則正しい寝息が、うなじにかかってくすぐったい。
——ああ、昨日あのまま……
ゆっくりと息を吐きながら、昨夜の断片を思い出す。
俺は酒を飲んでいたわけではないから、悲しいことに記憶はしっかりと残っている。
いっぱい、好きだと言った。気持ちいいと言った。
素直に口に出すたびに心も体もほどけていって、訳がわからないくらい乱れてしまった自覚がある。
あ〜〜〜さすがに恥ずかしすぎる。
このまま普通に顔を合わせるのは気まずい。せめて勇斗が起きる前に抜け出そう。
そっと、腰に回された腕を解こうとした、そのとき。
「……どこ行くの?」
低く掠れた声が、すぐ後ろで響いた。
びくりと体が跳ねる。振り返る勇気もなく、そのまま固まるしかない。
「っはやと、起きてたの…?」
「んー、今起きた」
寝起きの声のまま、勇斗が腕の力を少しだけ強める。逃がさない、みたいに。
「昨日はさ、」
耳元で、ふっと笑う気配がした。
「可愛かったね。」
心臓が一気に跳ね上がる。
「……は?」
思わず間の抜けた声が出た。
「え、おまえ、覚えてんの…?」
「うん。」
あっさりと返されて、頭が真っ白になる。
「ちょ、ちょっと待って。え、だって、あんなに酔っ払ってたのに…?」
じわじわと熱が頬に集まってくるのがわかる。見られていなくても、きっと今の俺は相当ひどい顔をしている。
「仁人がさ、いっぱいお水飲ませてくれたから、なんか少しずつ酔いもさめてきて。」
水飲ませたことも覚えてんのかよ。
「帰ってきた直後のことは曖昧だけど、可愛かった仁人のことは、ぜーんぶ覚えてるよ?」
「………無理無理無理無理!!!」
どうせ覚えていないだろう、と流された自分の言動を思い出し、余計に恥ずかしくなる。
居た堪れなくて勇斗の腕から抜け出そうとするも、今度はさっきよりも強く引き寄せられて、結局同じ体勢に戻されてしまう。
「だから、どこ行くのって。」
「……離せ!」
ジタバタともがいてみても、俺の力ではびくともしない。
「俺の声が好きっていうのも覚えてるし、俺のキスも…
「うるさい!言うな…」
食い気味に拒否すると、勇斗が背後でくすっと笑った。
「あーあ、いつもの仁ちゃんに戻っちゃったかあ。」
残念そうに言うのに、その声がどこか楽しそうで。
俺は観念したみたいに小さく口に出した。
「……昨日みたいに、素直な俺じゃないと、いや?」
少しの不安と、少しの甘え。
勇斗は少しだけ考えるようにしてから、答えた。
「全然。顔見てたらわかるし。言葉に出してくれるのは嬉しいけどね。」
「……そう、」
声のトーンに嘘を感じなくて、安心する。
勇斗のことを信頼してるけど、心の奥底に嫌われたくないという気持ちがある。
「不安なの?俺は、どんな仁人のことも大好きよ。」
勇斗がいつも真っ直ぐに言葉にしてくれるおかげで、胸の奥から満たされていく。
同じように、返せたら。
「おれも、だ、いすき」
「…えぇー!どしたの?珍し!」
大袈裟に声を上げる勇斗の方に、向き直る。
真っ赤な顔を見られるのは恥ずかしいから、胸に顔をうずめたまま抱きついた。
「大事なこと、だから。俺ももうちょっと伝わるように頑張る。」
昨日の夜、わかったことがある。
素直になった俺を見て、勇斗がとても嬉しそうにしていたこと。
俺の恥ずかしい姿も含めて、勇斗は全部受け止めてくれること。
すぐには無理かもしれないけど、俺だって好きな人を不安にさせたくないし、喜ばせたいのだ。
「嬉しい、仁人。ありがと。」
正面から俺を強く抱きしめた後、頭にキスが降ってくる。
「あー、意外と二日酔いにもならなかったし、どっか出かけるか。」
普段のテンションで聞かれたけど、俺はそれより。
「うん、それもいいけど…もうちょっと、ここでくっついててもいい?」
ガバッと俺の肩を掴むと、顔を赤くした勇斗が目を見開いて言う。
「っお前、いきなり素直になりすぎ!俺の心臓がもたないわ!」
苦しいくらいに抱きしめられながら、思わず笑ってしまう。
ああ、夜が醒めても幸せだな。
コメント
3件

なんという幸福感!最高でした!!ありがとうございました!

幸せな2人を拝読して、私もとても満たされました 素直な💛さん、可愛い… そりゃ、🩷さんの心臓もたなくなりそうですよね 素敵なお話、ありがとうございました