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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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中村先輩がキリッとした顔でこちらを見たので、「いきなり!?」と緊張が走る。もう告白に対する返信をする必要が……あるのか。でも、そもそも今日の目的はそれなのだ。出し惜しみする必要はないだろう。

「あの」「鈴宮」

声が重なり、中村先輩が私に先に話すようすすめてくれたが、お断りの言葉をかけるのだ。ここは先に先輩に話してもらおうと「中村先輩から先にどうぞ!」と懸命に繰り返すと「分かった」と応じ、彼は口を開く。

「このお店、とても美味しそうに思えた。鈴宮の答えが『イエス』であろうと『ノー』であろうと、聞いた瞬間から俺は集中力がなくなり、注意散漫になるだろう。おそらく食事の味も、ろくに感じられなくなる」

そう言うと中村先輩は白ワインを口に運び、一度大きく息をはく。

「俺がそんな状態なら、鈴宮もきっとそれに近い状態になるだろう。でも……それは勿体ないと思う。せっかく鈴宮と食事ができるんだ。できれば美味しく食べたい。だから……答えの件は、食事を終えたら。そこで聞かせて欲しい」

てっきりすぐに答えを伝えなければならないと思っていたから、これにはもう、驚いてしまう。驚いたが、中村先輩らしいというか。お互い食品会社で働いているのだ。食を大切にしたいという気持ち、それはよく分かる。

だから先輩の今の提案は勿論、快諾。

そして沢山食べ、ワインも何杯も飲んだ。

ラグーソースがたっぷりのラザニア、3種の肉盛りのビステッカ、生ハムが添えられたカルボナーラ。

ワインは赤・白・ロゼと制覇していた。

「やっぱり鈴宮が選んだ店だけあるな。とても美味かった」

すべての料理を食べ終えた中村先輩は、満足気だ。

勿論私も、大満足。

「鈴宮、デザートもあるけど、どうする? アップルパイ、セミフレッド、ティラミスもある」

「そうですね……。甘い物は別腹といきたいところですけど……。さすがにラザニアとパスタを食べたので、もう入らないです……。コーヒーを頼んでもいいですか?」

「それがいい。俺も頼むよ」

そう答えた中村先輩は、目線を男性スタッフに送る。

よく手をあげて日本人はスタッフを呼んでしまうけど。

海外では目線でスタッフを呼ぶのが定番。

中村先輩もいつもアイコンタクトでスタッフを呼んでいる。

それだけ目力があるのだと思う。

早速やってきてくれたスタッフに、中村先輩はコーヒーを二つ頼んでくれた。

「じゃあ、残っている物、片付けよう」

「はい!」

会社でSDGS(持続可能な開発目標)を推奨しているので、フードロス削減を意識していた。よって食べ残しは止めよう!ということで、残っていた料理を中村先輩と二人で綺麗に平らげ、グラスも空にした。

そこにいいタイミングでコーヒーが到着し、一息つく。

テーブルの上の空になったお皿とグラスは、スタッフがすべて下げてくれた。こうなるともう、あのことを話すしかない。

「……中村先輩」

「うん」

「先日、伝えていただいた先輩の気持ちに対する返事、してもいいですか?」

「ああ、そのために今、向き合っているのだからな」

中村先輩は組んでいた脚をほどき、背筋を伸ばすと、私を真っ直ぐに見た。

実直な爽やかスポーツマンタイプの中村先輩に、辛い言葉を告げる現実に心が苦しくなる。

「結論から言います。……ごめんなさい、中村先輩」

「そうか……って、それだけか!?」

「え、理由を言った方がいいですか?」

「何か悪事をした時、言い訳を並べられるのは腹が立つ。でも俺は失恋したのだろう? 理由は知りたい」

「それはそうですよね」ということで、実は中村先輩から告白されたのと同時期に、別の人から告白されており、その人と付き合うことにしたのだと伝えると……。

「……そうなのか……。それってもしや、映画を観に行った男友達か? それとも元カレに迫られた時、助けてくれた通りすがりの男か?」

「え、なんでそう思うんですか!?」

「普通に考えると、日常で新たな出会いって少ないだろう? 営業職なら日々出会いがあるかもしれない。新しい取引先とか、出先でたまたまとか。でも鈴宮は事務職で会社にいる時間が長い。合コンやアプリで活発に動いているなら話は別だ。けど、そんなことしている気配はない。そうなると……。直近での新たな出会いってその二人の男ぐらいかと」

中村先輩、さすがだなぁ。鋭い!

でもそうだよね。

会社と家の往復をしている事務職女子に、新たな出会いなんてそうはない。

でも、そうか。

映画も元カレから助けてくれたのも、同一人物だけど、そこは流石に分からないよね。

「まあそんな感じですかね。でも干物女だったんですよ、つい最近まで私。それが中村先輩や今カレに急に告白されて……。私自身、ビックリでした」

「そんなもんだよ。恋人が欲しいと思ってもできないのに、ひょんなことで出会いがあって……。無理して作った出会いで、上手くいく方が少ない気がする。俺の場合だけど」

そこで中村先輩はコーヒーを一口飲み、ため息をついた。

「俺は鈴宮と同じ職場にいたのに。なんでもっと早く動かなかったのだろう……」

「え、そんな前から私のこと……」

「気になっていたよ。離婚が決まる前ぐらいから。嫁の浮気に気づいて、それなら俺だって……みたいな気持ちになった時。鈴宮のさばさばした感じ、元々俺の好きなタイプだったから。でもその時、鈴宮は10年来の彼氏がいるって、噂で聞いていたし……」

そこで中村先輩は実に寂しそうな顔になる。

「今カレのこと、どれぐらい好きなの? 本気なのか?」

「本気って……?」

「つまり告白されて、嫌いなタイプではない。ひとまず付き合ってみようかな……というレベルなのか。それとも、結婚したいぐらい大好き!なのか……」

それを言うなら……。

本当に私を好きなの? 一時的な気の迷いでは? 胃袋掴まれただけでは? なんて悠真くんの気持ちに対し、半信半疑に感じていた時もあった。

でも今は……。

一緒に暮らす話をしているのだ。実際に引っ越しの準備も進んでいる。それに悠真くんから、「結婚を前提に」と言ってもらえたのだ。

「そういう意味ですと本気です。……今のマンションを出て、一緒に暮らす予定ですから」

「……! そ、そこまで……。なるほど」

そこで椅子の背もたれに体を預けた中村先輩が、ズバリ指摘する。

「ここ数日の心ここに在らず、デレた顔、原因はその新しい男だな」

「そ、それは……」

「まあ、良かったな。そこまで好きになれる相手に出会えて」

中村先輩は不意に伸ばした手で、いつかのように私の髪をくしゃっと撫でてくれる。

「元カレのせいで嫌な思いもしたんだ。……幸せになれよ、鈴宮」

「……中村先輩……!」

「じゃあ、コーヒー飲んだら帰ろう。今カレも帰りが遅くなると心配するぞ。……この後、会う予定とかはないのか?」

コーヒーを飲み干した中村先輩を見て、私も慌ててコーヒーを飲む。

「今日は午前様で仕事だって言っていました」

「忙しいんだな。せっかくの金曜日なのに」

「休みが不定期なんで」

そこで中村先輩は口を開きかけ、閉じる。そしてフッと笑みを漏らす。

「どんな奴が鈴宮の心を射止めたんだって、気になる。でもこれは明らかな嫉妬だな」

「そんな……」

「今日はもう遅いし、付き合わせたようなものだから、家まで送るよ。タクシーで。俺も今日は疲れたから、寝て帰りたいし」

そう言った中村先輩は、最後まで男前だった。

支払いもしてくれたし、タクシーもアプリで手配し、マンションまでちゃんと送ってくれた。タクシーの中では、今カレについて詮索することなく、この週末で部屋の模様替えをするつもりであることや、自炊でパエリアでも作るなんて話をしてくれた。

付き合えないとお断りしたのに。

全然、気まずい雰囲気になることなく、最後は手を振ってわかれることができた。

月曜日になったら間違いなく、中村先輩と私は、これまで通りの仲の良い職場の先輩と後輩に戻るのだと、確信できた。

年下男子と年上男子二人はフツーの女子に夢中です

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