インターフォン越しに雪は北山と話をしている。向こうにはこちらの状況は見えない。
だから、俺がこの部屋に、雪と二人で居ることを知らしめておく必要がある。
北山が切なそうな表情で「開けてくれ」と訴えている。
「いいえ、お帰り下さい」と言ってから北山とモニター越しに対峙している雪を背後から抱きしめると、雪は思わず「ふへっ!け・・おおしまくん・・」としっかりネタバレをしていた。
ほんと、可愛い。
「大島・・・なんで雪の部屋にいるんだ?」
あんたを牽制するためだよ。
「昨日から付き合うことになったんですよ。別れてくれてありがとうございます。知り合ったときには雪には恋人がいて諦めていたんですよ、恋人がいる人を誘惑して“浮気”させることはしたくなかったから。そういうわけなので、帰って下さい。今後も彼のいる女性を誘ったりしないで下さいね“元”彼さん」
「雪・・・大島の言っていることは本当か?」
裏切ってもなお雪を愛していることが北山の表情からよくわかったが、それは雪には伝わっていないのというのもわかった。
「若い彼女がいるのだから私にはもう関わらないで」
その一言で二人の会話は終了した。
「もう!何をしてるのよ!勝手に付き合ってます宣言とかして。暫くは内緒にって言ったのに」
こんな風に怒る姿も新鮮で可愛い。
「北山さんなら大丈夫でしょ、というかここはキチンと牽制しておかないと自分の立場を分かって無いみたいだし」
「立場?」
「謝ればまた雪の彼氏の座に戻れると思っているから」
「まさか」
「じゃなきゃ、ノコノコ部屋にやって来ないよ。部屋に入れてもらえると信じていたからこその行動だろ。だから、心配だったんだ」
「私が部屋に入れると?」
「いや、雪が傷つくんじゃ無いかと」
それは本当だ、多分俺がいなければ優しい雪は扉を開けたかもしれない。
「ありがとう」
下心だらけなのに謝られると少しだけだが心が痛んだ。
「なーんて、単に牽制しただけ」
雪を抱きしめると首筋から耳たぶそして唇にキスを落としていく。
本能の許すままに抱いてしまいたかったが昨夜、さんざん鳴かせたから無理をさせたくない。
「さて、ミッション完遂したし帰るね」
「え?」
「あっ、もしかして何か期待してた?流石に昨夜から今朝にかけて負担をかけすぎたからね、今夜はゆっくりお休み」
真っ赤になっている雪のおでこにキスをして部屋をでた。
駅に向う途中スマホが震動する。
表示をみてため息がでる。
「彩香さん、どうした?」
「うん・・・食事会の前に二人で会いたいんだけど」
「どうして?俺達が二人で会う必要も理由もないよね?」
「そんな冷たいこと言うの」
「電話を切るよ」
「14日の夜に会って欲しい」
本当に勘弁して欲しい。
「会わないよ理由もわかっているよね、じゃあ」
そう言うと通話を切った。