テラーノベル
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遠慮がちな触れ合いは、互いの心の中を覗き合いたい証拠みたいに思えてくる。
この言葉でいいのか?
これは伝えてもいいのか?
これは、これは、これは……なんて。
”信じる”とは、まるで祈りみたいだ。
自分自身にも、相手にも。
それでもあなただよ、と。笑える自分でいられるように。
そんな自分に応えてくれる相手でありますように、と。
呪文のように何度も繰り返せば、あの日語った理想に近づけるのだろうか?
さっぱりわからない。わかるはずもない。
これから歩んでいく道のりなのに。
「二人で会えって、言われてるんだけど……お前は、それでもいい?」
チラリと見れば見慣れない硬い笑顔。
ドクドクと心臓が誤魔化しようもなく、激しく脈を打つ。
真衣香は咄嗟に笑顔を作った。
知られたくない感情が増えると、人は表情を作るのか。
何となく笑顔で誤魔化してきた、これまでの会社での日々よりも。
更にそんなことを痛感して。
「ずるい聞き方してもいい?」
ダメだとは言わない坪井だとわかっていて、言った。
どこまでも狡くなっていく自分を少し滑稽に思う。
「うん、何?」
「信じて待ってても、いいのかな」
坪井は突然小さく息を吐き、再び、ぎゅっと強く真衣香のことを抱きしめた。
「……うん、待ってて」
その言葉は、躊躇って考えて、絞り出されたもののように感じる。
『待ってる』
『待ってて』
ドラマや映画や、人を楽しませるための魅せる恋愛では、使い古されたやり取り。実体験などほぼない真衣香でも、こんな流れを知っている。
ふわふわと形を伴わないような会話に、どうしようもない違和感を感じて。
痛感する。
答えを見つけたと思ったなら、また迷うこと。
どうしてなんだろう。
わからなくて、けれど不安で。
正解があるなら、文字にしてどうか教えてはくれないだろうか。
知りもしない誰かに請いたくなる。
抱き締めてくれる坪井の腕の中から真衣香はなかなか抜け出すことができずにいた。
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