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僕は、聞き間違いでもしたのかと思った。
「ほら、いつも通りネイと行ってくればいい 。私は行かないから」
そう言うと、フェレンさんは部屋の扉を閉めてしまった。
僕は、意味が分からず、立ち尽くしていた。
気付けば、鼓膜に響く朝礼開始の怒声。
「ほーら、野郎共、朝礼始めるぞ!」
僕は、急いで階段を駆け上がった。
日差しが世界を白く包んでいた。
その眩しさに気付かなかったが、辺りは驚くほど静まり返っていた。なぜ、静かなのか。
その疑問を浮かべている暇もなかった。
「おい、お前」
背後から肩を鷲掴みにされる。
「はいっ」
それは、ほぼ反射的に出たやけに返事のいい声だった。しかし、僕は声を出していなかった。
「お前ら二人は、なんでいつも遅刻するのが得意なのかねぇ?」
二人…?そう疑問を抱いたとき、僕の傍にもう一人の青年がいることに気がついた。彼は、僕に目配せを送る。
「おい。語るなら俺にも分かるように話せ。なぁ、ネイ」
「や、やだなぁ。海軍長さま、俺らはいつもこの時間に来てるだけですって…」
あぁ、彼の名前はネイだったのか。この見覚えのある顔。同い歳の友人。しかし、名前に違和感を覚えるのはなぜだろう。フェレンさんが言っていたのはこの男のことか。
「いつもこの時間だとまずいんだよ。さすが、遅刻常習犯は言うことが違ぇな」
途端、身体が地面から浮き上がる。襟首を持ち上げられているようで、首元が苦しい。脱出を試みるが、足が空を舞うだけだった。
「おい、離してくださいよ!暴君め!」
「てめぇ、誰に向かって口聞いてんだ」
次の瞬間、ネイと呼ばれた青年が軽々しく、海へ投げ出された。叫び声も虚しく、海に吸い込まれていった。
「えぇ!ちょっとそれは…」
「それはなんだ?」
どうやら、心の声が漏れかけていたようだ。僕は、すぐさま頭を働かせ、言葉を選んだ。まるで、背後の猛獣を静めるように。
「これは彼にとって思い出深い一日になったことでしょう…?」
いや、僕は何を振り絞ってこの言葉を吐いたんだ…!
「お前はどうされたい」
海軍長さまは、僕の焦る気持ちなど汲み取ってくれる慈悲もない。足元には、とうとう海面が待ち構えるはめになった。
僕は、黙っていた。下手に話しても、気難しい海軍長さまをなだめることは出来ないと思ったから。
「沈黙が答えか、お前にしては懸命だな」
身体が船体の方に引き戻される。助かったと思った。
「あ、でもお前、アイツのこと連れ戻してこい。連帯責任だ」
次の瞬間、僕の身体は海に投げ出されていた。なんでそうなるんだ…!視界に空が見える頃、僕は海面に沈んでいた。