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あ、でもお前、アイツのこと連れ戻してこい。連帯責任だ」
次の瞬間、僕の身体は海に投げ出されていた。なんでそうなるんだ…!視界に空が見える頃、僕は海面に沈んでいた。
「ったく、海軍長さまは相変わらず、とんでもないな!」
「僕は、君のせいで生け贄にされたけどね」
「何言ってるんだよ!お前もちゃんとした遅刻班じゃないか」
僕らが海面から引き上げられることには、夕方になっていた。
「なんで、朝から素潜りなんてさせられるんだよ。サメに食われたらどうするつもりなんだか」
身体を布に包みながら、部屋の中で温まる。隣のネイという青年は、愚痴ばかり零している。確かに、この感じは友人なんだよな。心の中で感じるこの違和感の正体は、一体何なのか。今の僕には、分からなかった。
「二人とも、お疲れ様」
部屋に入ってきたのは、フェレンさんだった。両手に魚料理を抱えていた。
「遅刻常習犯のおかげで、美味しい晩御飯が食べられそうだ」
「あ、それは俺らが素潜りでとった魚じゃないっすか!」
僕らの素潜りは、遅刻の罰と食料調達も加味したものだった。僕達は、何度かこの経験があるのでもう分かっていた。けれど、彼は毎度ご丁寧にリアクションをとる。
「相変わらず演技がわざとらしいのな、ネクトは」
僕は、そう言って笑った。
「お前、何言ってんだよ」
横から鋭く制した声に、僕はハッとした。それは、掟を破ってしまった時の、血の気がひく感じと似ていた。
「ちょっと、こっちも素潜りのせいで頭やられちまったみたい」
笑って誤魔化すような青年の異質な笑い声が響く。僕は、何を焦ったのだろう。何をそんなに隠そうとしているのだろう。そんな疑問の中、フェレンさんは黙って、僕を見つめていた。
僕も、その場は笑って誤魔化すことにした。僕は、何を隠すんだ…?冷静な自分が、答えを探すように煽り立てるが、僕はこの違和感を深海へ帰した。
食後、夜の任務を背負い、フェレンさんは部屋を出ていった。
残されたネイと僕は、なぜか沈黙のまま時間を埋めるしか無かった。そもそも、朝の騒ぎなんて何一つ起こらなかったような静けさだ。いつの間にか彼は、横になっていた。夜風が窓から流れてくる。
「ネクト」と呼んだ自分の記憶をさらっていくような風だった。初めから何も無かったかのように、優しく。
僕が彼の背に、語りかけることはなかった。