テラーノベル
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甘いマカロン風のお菓子と、渋めの紅茶。沙織の大好きな組み合わせだ。
元の世界の、家の近所にあったケーキ屋さん。ピスタチオのマカロンと、モカのマカロンを思い出す。一個でケーキなみの値段だったが、頑張った時とか自分へのご褒美として買って食べていた。
「んー、美味しい!」
サクッとした歯ごたえに、広がる甘さ。思わず声に出すと、カリーヌはクスクス笑う。
「それで、サオリ姉様はお怪我など無かったですか?」
「ええ、全く。ただ、シモンズ領の皆さんは、かなりのお怪我をされていましたが……」
「そんなっ……」と、ショックを受けカリーヌの顔が曇った。
「(あっ)でも! 全員ちゃんと癒して、完全回復させたので心配しないで下さいっ! みんな、ピンピンしてますから」
慌ててカリーヌに伝える。
「「完全回復……??」」
きょとん……とした二人に、癒しの魔法を使えるようになったと伝えた。
「では。サオリ様は、砦で騎士の皆さんの治療を担当されていたのですね!」
「ええ、それもしました。私達はレイジーナ国の暴徒の方ではなく、死の森の魔獣と迷宮を担当してきました。そうそう、オリヴァー様にも会えましたよ! それにしてもっ、ドラゴンの鱗って良い素材ですね!」
あの硬い鱗は、素晴らしい働きをしてくれたな……と、しみじみ思い出す。
「「……ドラゴン………?」」
「お二人共……? どうかされました?」
もぐもぐと三つ目のお菓子を口に運びながら、はて……と首を傾げた。
「あっ!! そ、そうですっ、私! お義父様に、時々訓練していただいていて、かなり成果が出ているのですよ」
(いけない! 先にこっちを言わないと話が拗れるわ! 危ない危ない)
「……サオリ姉様。どうやって、父上に?」
「え? もちろん転移陣でアーレンハイム邸で……あ゛」
(しまった……それも言ってなかった)
ミシェルが半眼になり、氷のような眼差しが突き刺さる。
「あははは……今度、ミシェルとカリーヌ様も一緒に転移してみます?」
ちょっと、やけくそぎみに言ってみる。
「まあ、素敵! それでしたら、ぜひ訓練風景が見たいですわ」
「そ、そうですね。最近……お義父様がお忙しいので、今度ご都合を聞いておきますね! それに、訓練が無理でも、アーレンハイム邸ならまたピアノも弾けますし」
「父上に……ピアノも弾いているのですか?」とミシェル。
「ええ、2回だけですけど?」
「…………」
「お父様だけ、ズルいです!」
二人のじと〜っとした視線が痛い。
(のおぉぉ――!! もしかして、私ったら地雷を全て踏んで歩いている!?)
「な、何なら……早速、明日行ってみますか? 多分、今日はまだ宮廷でしょうから。」
「「約束ですよ!!」」
「……はぃ」
(っ、やばい。もう一度、ステファンの所へ行こうかしら……)
「あっ。サオリ様、少しだけ失礼いたします」
カリーヌは、イネスに用事があったことを思い出したのか、少しだけ席を離れる。
そのタイミングで、ミシェルは沙織にこっそりと聞いてきた。
「――シモンズ領へは。本当に、アレクサンドル殿下とステファン様の三人で行かれたのですか?」
(おや? その話は、どう伝わっているのかしら? これ以上、地雷は踏みたくないし……)
「えっと。ミ、ミシェルはお義父様に何て聞いているの?」
「ステファン様ではなく、影が行った……と」
(あら? ミシェルには、本当の事を伝えてあるのね。なら大丈夫かしら)
「ええ、そうなのよ。お義父様にも言われているでしょうけど、誰にも内緒よ」
「…………そうでしたか。やはり、あの影が。おかしいと思ったのですよねぇ。ステファン様の馬でシモンズ領まで行くなんて。彼は、そういう肉体派ではないですから」
ミシェルは、絶対零度――と感じる程の微笑を浮かべた。
「……へ?」
「サオリ姉様は、本当に嘘が吐けない人ですね」
ダラダラと汗が流れてくる。
(や、やられた。鎌をかけられた……完全に。ダメだ、地雷の埋まっていない道は無いみたいだわ。これはもう、開き直ってしまおうかしら?)
「そうなのよ。あの影は、物凄く強くて頼りになるの。だから、私は怪我ひとつしないで済んで、感謝しているの、よ……って、ミシェル?」
沙織のそんな言葉を聞いた途端――。
ミシェルの瞳から冷たさが消え、代わりにとても痛そうな、悲しみを含んだ表情になる。
どうやら、ミシェルにとって最大級の地雷だったらしい。
(あぁ……私は今、ミシェルを傷つけたんだ)
かぜかは分からないが、そう感じた。
「ミシェル、ごめんなさい。貴方を傷つけるなんて思わなかった……。そんなに、影が嫌いなの?」
どうして良いか解らずに、ミシェルに謝った。
「全く……貴女は、本当に鈍感ですね。……まあ。そんな貴女を好きになってしまった、僕が悪いのです」
(ん?)
「ん………ぇえええ!!?」
沙織は頭が真っ白になる。
口をパクパクしていると、いつの間にかカリーヌが戻ってきて席に着いた。
それからの会話を、沙織は殆ど覚えていなかった。結局――姉弟のお茶会は、戸惑ったままの状態で終わりの時間になってしまった。
そんな沙織とすれ違いざまに、ミシェルは耳元で囁いた。
「これからは、攻めて行きますから……覚悟してくださいね」と。
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