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「こーち」攻×『ほくと』受
オレンジ色に染まる放課後の教室は、世界の終わりに残された場所みたいに静かだった。
「ほくと、ちょっと残ってくんねぇ?」
部活も委員会もない日の放課後、髙地にそう呼び止められた、北斗の心臓は嫌な音を立てて跳ねた。
幼馴染で、親友で、そして北斗がずっと人知れず想いを寄せている相手。
それが髙地だった。
パチパチと、古い蛍光灯が小さく鳴る。
机の端に腰をかけた髙地は、いつもの明るい笑顔を封印したみたいに、どこか遠くを見つめていた。
窓から差し込む西日が髙地の横顔を強く照らし、長い睫毛の影を頬に落としている。
『どうしたの、急に。何か用?』
北斗は平静を装って、自分の机の椅子に腰を下ろした。
通学カバンを抱きしめる手に、思わずぎゅっと力がこもる。
もし、この隠し通している気持ちがバレていたらどうしよう。
気持ち悪いと拒絶されたら、もう明日から隣にはいられない。
そんな最悪な想像ばかりが頭を巡り、北斗の背中に冷たい汗が伝った。
髙地はしばらく黙ったまま、自分の爪を見たり、ローファーのつま先をトントンと床に打ち付けたりしていた。
その様子は、いつもの頼れる髙地とはまるで違って、ひどく落ち着きがない。
やがて、髙地がゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、いつもなら北斗をからかうように細められるはずなのに、今はガラス細工のように脆く、揺れていた。
「ねえ、ほくと」
『……ん?』
髙地は椅子に座る北斗の前に歩み寄ると、その場に屈み込むようにして、北斗の顔をのぞき込んできた。
下から見上げる髙地の瞳は、泣き出しそうなほど不安げに濁っている。
「……ねえ、俺のこと愛してる?」
『え、』
心臓が、ドクンと大きく波打った。
あまりにも唐突で、あまりにも突飛な言葉に、北斗の思考は完全にフリーズする。
愛してる、なんて。
そんなの、毎日夢の中で、髙地の背中に向かって何百回も呟いている言葉だった。
『なに、冗談……?』
掠れた声でどうにか返すと、髙地は「冗談なんかじゃないよ」と呟き、北斗のカバンを掴む手に、そっと自分の手を重ねてきた。
髙地の手は、驚くほど冷たかった。
「最近さ、お前、俺と目ぇ合わせてくんないじゃん。話しかけてもすぐどっか行っちゃうし……。俺、なんか悪いことした?もしかして、もう俺のこと嫌いになった?」
一気に溢れ出た髙地の言葉に、北斗は目を見開いた。
目を合わせられなっかたのも、すぐに避けてしまったのも、すべては髙地が好きすぎて、これ以上一緒にいたら気持ちが溢れてしまいそうだったからだ。
嫌うなんて、そんなわけがない。
『違う、違くて……!』
「じゃあ、なんで?」
髙地の手が、カバンを越えて、北斗の細い手首をぎゅっと握りしめる。
「俺、お前がいないと駄目なんだよ。ほくとが俺を見ててくれないと、自分がどこにいるか分かんなくなる。……なあ、教えてよ。俺のこと、どう思ってんの」
すがり付くような髙地の声。
いつもは一歩引いてみんなを見守っている髙地が、こんなにも余裕をなくして自分を求めている。
その事実が、北斗の胸の奥にある頑丈な鍵を、一瞬で壊してしまった。
『……ばか』
北斗の瞳から、堪えきれなくなった涙がポロリと零れ落ちる。
『嫌いなわけないじゃん……!逆だよ、髙地。好きすぎて、顔見たら変な気持ちになりそうで、だから避けてたの!幼馴染とか、親友とか、そういうのじゃなくて……俺、髙地が、男として、好きなの……っ』
全部、言ってしまった。
手首を掴む髙地の力が、ピクリと強くなる。
北斗は怖くなって目を瞑ったが、次に訪れたのは拒絶の言葉ではなく、優しく包み込まれるような感触だった。
「……よかった」
気がつけば、髙地の腕が北斗の身体を強く抱きしめていた。
髙地の顔が北斗の首筋に埋められ、熱い吐息が皮膚を微かに震わせる。
『髙地……?』
「俺も、ほくとが好きだよ。ずっと、ずっと好きだった。お前が離れてく気がして、怖くて死にそうだったんだからな」
耳元で聞こえた髙地の声は、いつもの低くて心地いい、大好きな声に戻っていた。
だけど、北斗を抱きしめる腕は、絶対に離さないと主張するように強く、強く震えている。
『本当に……?夢じゃないの、これ』
「夢じゃねぇよ。ほら、ちゃんと俺を見て」
髙地が身体を離し、北斗の涙で濡れた頬を大きな手で包み込む。
112
夕暮れの教室の中、二人の距離はもう、隠し事なんてできないほどに縮まっていた。
「もう一回言って。俺のこと、愛してる?」
悪戯っぽく、だけどまだ少しだけ不安を残した瞳で微笑む髙地に、北斗は顔を真っ赤にしながらも、今度はしっかりと目を見て頷いた。
『うん。……愛してるよ、髙地』
その瞬間、重ねられた唇は、放課後の教室の静寂を、優しく、そして確かに溶かしていった。
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