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『隔離』
時雨が小さく呟いた。その瞬間、室内は青白い光で満たされる。魔法が発動されたのだ。俺と同じ青色の光……時雨が魔法使ったところを見たことがあるので知ってはいたけど、彼のクラスも『ブルー』なんだよな。
「侵食が半分程度とはいえ、影響がないとは限らないからね。念の為だよ。この魔法が発動している間は相手の術の効果が完全に無効になる」
「よし。それじゃあ今のうちに解術してしまおう。小夜子に真昼、準備してくれるかな」
「はい!」
榛名先生の指示を受け、小夜子と真昼が慌ただしく部屋から退室していった。扉の横には美作と百瀬がいる。処置の邪魔にならないように俺たちから距離を取っているようだ。ふたり共心配そうな表情でこちらを見ている。俺は彼らへ向けて軽く手を振った。大丈夫だと少しは伝わっただろうか。
「さて……準備ができるのを待ってる間、河合君の目が現在どういう状態になっているのか軽く説明をしておこうか」
「はい。お願いします、榛名先生」
良かった……ずっと気になっていたんだよ。時雨たちに任せておけば大丈夫なんだろうけど、自分の身に起きたことはきちんと理解しておきたかった。それが幻獣の力によって引き起こされたものなら尚更だ。
榛名先生はさすが玖路斗学苑の講師なだけあって、その辺りの気配りが時雨よりも行き届いていた。
「透に教えるのは僕がやろうと思ってたのにー……匠が横取りしたー」
「さっき河合君を攻撃してきたスティースは、俺たちの知り合い……と言っていいか微妙なんだけど、ある魔道士が契約している個体なんだ」
「無視かよ」
「あ、それは小夜子と真昼にも聞いた。かなりランクの高いヤツだって……」
「スティースはね。魔道士の方は全然大したことないから。底辺だよ、底辺」
「時雨……千鶴さんの話はややこしくなるから、河合君に話すのは今はよそう」
また出た『千鶴』……何度も名前が出ているこの人物が、あのスティースと契約している魔道士なのか。時雨たちとはあまり良い仲とはいえない感じなのが伝わってくる。俺が攻撃されたのは、その辺りの人間関係が絡んでいるのだろうか。特に時雨との仲が悪そうにみえる。
「見た目は植物の化け物みたいだったろ? あれでも本来の性格は大人しい部類に入るんだよ」
大人しいか……俺は学苑の敷地に入った途端ふっ飛ばされたんだけどな。野生のスティースが進んで人間に危害を与えてくるケースは殆どない。例外なのが魔道士と契約を結んでいる場合だ。その『千鶴』という魔道士の思想に影響され、あのような行動をとったのだと考えられる。
「そのスティースの能力のひとつに、標的の脳神経に影響を与えて行動や感情を操るというものがある。さっき時雨が『干渉』という言葉を使っていたけど、河合君は瞳を合わせたことで、スティースの攻撃を受けてしまったんだ。現在脳に干渉を受けている最中なんだよ」
「えっ、なにそれ……怖い。じゃあ、俺はスティースの操り人形みたいになっちゃうってこと?」
「ならない。スティースの真価を魔道士が引き出せていないからね。術自体も不完全だし、僕が妨害してるから心配要らないよ」
スティースの攻撃を受けたことには違いないが、俺が操られてしまうことはないそうだ。様々な要因によりスティースの力が充分に発揮されていないこと、そして時雨の対抗魔法のおかげなのだと教えられる。
「さっき時雨が発動させた魔法は、スティース側から河合君の存在を認識できなくするものだよ。河合君はスティースに『目印』をつけられてしまっている。これを消してしまわないと、いくら中途半端とはいえ常にスティースの干渉を受け続けることになってしまうからね」
「これから僕らがやるのはその『目印』を完全に消すこと。難しいことじゃないから、あっという間に終わるよ」
操られることはないにしろ、目眩や頭痛……吐き気などの症状を引き起こしてしまう可能性がある。体に受ける負担が大きいので早急に処置をする必要があるとのことだ。
時雨や榛名先生が近くにいたから良かったものの……その『千鶴』とかいう魔道士は、こんな危険な魔法を人間相手に平気で使うのか。会う前から印象最悪なんだけど……
「榛名先生、お待たせしましたー!!」
「ありがとう。そこの台の上に置いてくれ。ゆっくり静かにね」
準備のために席を外していた小夜子と真昼が戻ってきた。ふたりの手にはタオルと洗面器……そして謎の液体が入った瓶が数個ほど。液体は無色透明で水のように見えるが、果たしてこのタイミングで出てくるものがただの水なのかどうか……
「不安そうだね」
時雨が俺の顔を覗き込む。ずっとマスクを被った状態でしか接してこなかったので、まだ彼の素顔に慣れていない。声は同じだからかろうじて本人だと認識できるけど、まだ知らない人と会話をしている感覚が強かった。
「うん、ちょっとだけ怖いかも」
「フフフ……君の目の前にいるのは世界一の魔道士だよ。怖がることなんてない。夕飯に何を食べるか考えている間に終わるさ」
「夕飯?」
「お昼を一緒に食べる約束が守れなかったからね。夜は透の好きなものなんでもご馳走してあげるよ」
「そんなの気にしなくていいのに……」
時雨のおかげで張り詰めていた緊張の糸が緩んだ。彼らを信じてどんと構えていればいいのだ。
「河合君、大丈夫? いけそうなら始めるよ」
俺たちのやり取りを見守ってくれていた榛名先生が声をかけてきた。大きく息を吸い込んでゆっくりと吐き出す。
「はい。お願いします!!」
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