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マナの引っ越しが完了してから1週間が経った。その間、俺はマナに電話をすることもメールを送ることもなかった。もちろんマナから俺に連絡をしてくることなど決してなかった。俺は、いつも傍にいたマナがいなくなって胸にポッカリ穴が開いたような変な気持ちだった。でもマナには、いつも傍には1番大好きな荻野さんがいる。俺のように寂しいという気持ちはないだろう。
プルルルル――プルルルル―――
電話の音で起こされた。今日は日曜日。時計を見ると朝の8時だった。スマホを手に取って画面を見ると、公衆電話からだった。一体誰だ?
『もしもし――』
『もしもし、荻野です。朝早くにすいません。これから私は仕事でニューヨークに1週間行かなければなりません』
『そうなんですか、大変ですね。でも、どうしてそれを俺に?』
『マナさんに何かあったら助けてもらえませんか?』
『何もないから大丈夫ですよ。それに俺たちは、あれから1度も連絡取り合ってないんです。まだ怒ってるんじゃないですかね。だから何があっても俺には連絡してこないと思います』
『きっと寂しがってると思いますよ。よければうちに顔出してあげて下さい。きっと喜びます』
『気が向いたらそうします。それに何かあった時は見に行くので安心して下さい』
『よろしくお願いします』
この人は本当に俺を信用してくれている。でなければ、自分の妻になる女性のところに行ってくれなんて絶対に言えない。俺が荻野さんの立場だったら100%あり得ない。それに荻野さんにああ言われたものの、マナは何かあったとしても俺を呼ぶことはないだろう。何だか家にいたくなかったので、ネットカフェに行ってダラダラと時間を潰していた。ふと時計を見ると18時を回っていたので、帰りがけに牛丼屋に寄って夕食を済ませた。そして家に帰ると倒れ込むようにベッドに横たわった。いつの間にかに眠りに落ちていった。
ブルブルブル――ブルブルブル―――
スマホが振動したので、アラームだと思って慌てて手に取りアラームを解除しようとした。でもアラームではなかった。画面を見るとメールが入っているのがわかった。
《圭ちゃん、今何してるの?》
マナからだった。
《ベッドで横になってた。何かあったのか?》
《何もないよ。ただ寂しくて寝られないの。圭ちゃんあのね――》
マナが何を言いたいのか、聞かなくてもわかった。
《今からそっちに行くからそれまで我慢してくれ》
《うん》
それから俺は急いで荻野さんのマンションに向かった。車を走らせているとマナが泣いている姿が目に浮かんでしまい、気付くとスピードがみるみる上がっていた 。
「はっ!?」
キィィィィィ―――
赤信号だった。急ブレーキを慌ててんだけどスピードが出ていた車は、なかなか止まってはくれなかった。そして完全に車が止まったのは交差点のど真ん中だった。
「ふぅ~危なかった」