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「アリの巣の時は洞窟だったからわからなかったけど…ヤバかったんな」
俺達は砂山から降りて洞窟の前に来ていた。
爆撃のあまりの威力に少し放心状態になってしまっていた。元々ない語彙力が、マイナス域に……
「うん。戦争だね…」
「戦争ですか。セイさん達の世界は凄いですね。生き残れる気がしません」
ミラン。そんな戦地には生きてないから安心してくれ。
戦地に産まれたら諦めるより他ないがな。
向こうの世界では一人で出来ることなんて少ない。
こちらでは一人の怪物が世界を動かせそうだけど。
「洞窟は無事みたいだぜ。無くなっていたらどうしようかと思ったぞ」
「そうだな。とりあえずここから移動しよう。遂に18階層だ」
俺は先陣を切って洞窟へと入っていく。
洞窟を出た先にある18階層も、やはり砂漠だった。
しかし、これまでの砂漠と違う所がある。
「なだらかだな」
「そうですね。すこし砂地が固いです」
俺の独り言にミランが応えてくれた。
「見渡す限り何もないね…何だかノイローゼになりそう…」
「確かに…」
何も目標物もなく、ただひたすら平らな砂地が続いている。一人で来たら発狂しそうだ。
「だけど、地面が固いから動きやすいぜ」
「そうです!靴の中に砂が入らなくていいです!」
一理ある。
「とりあえず真っ直ぐ向おう。その内反応があるだろう」
真っ直ぐ歩いていけば、その内魔物が出てくるだろう。
但し、魔物にせよ何にせよ、何かあるはずだから、五人で固まって歩く。
俺が先頭でライルが最後尾。その間の2列目に左から聖奈さん、エリー、ミランの順番だ。
「セイさん!かなり遠いですが、何かがいます!」
急にミランが声を上げた。
ここは平らな地面なので、かなり遠方まで見通す事ができる。
ミランの視力なら当然その距離は長い。
「悪いがまだ範囲外だ。もう少し近づこう」
「でも、魔物の目が良ければ、先にこっちに気づかれるよ?」
「それは仕方ない。毎回、先制攻撃できていた事が普通ではないからな」
覚悟して近づいていく。
まぁ、正面にいるんだから、俺が後ろに行かせなきゃみんなを守れるしな。
と、思っていた俺を殴り飛ばしたい。
「魔力波に反応があったぞ」
ようやく捉えたが、まだ俺には肉眼で見えない。
「気付かれました。動きます!」
「よし!いつも通り、俺とライルが前に出るから二人は援護、もしくは他の敵を頼む!ミランは二人の護衛を!」
「飛んできます!」
なに?
「そう言えば、前回の2回目の砂漠階層は、砂漠鷲だったね。この階層は飛ぶ魔物縛りかな?」
ダンジョンに縛りとかはないと思うんだけど……
だが、予想外だ。これだと三人を守りづらいぞ……
「フォーメーションを変更する!相手はどうせ上からくる!聖奈はライルと組め!エリーは俺とだ!ミランは躱してくれ!出来るか!?」
「はい!躱してみせます!」
心配だが、二人も側にいられると剣が振れないし、そもそも守りきれない可能性がある。
それなら三人の中で、一番眼が良く俊敏なミランを自由にさせたほうが良い。
「ライルは聖奈を守ることに集中してくれ!手榴弾は空を飛ぶ敵に無力だからな!」
「わかった!」
こっちは2人がかりで攻撃できる。
ミランもハンドガンを持っているから接近される事はあっても、怯ませる事くらい出来るはずだ。
「あまり離れずにやるぞ!特にミランは俺達と離れるなよ!近ければ援護できる!」
「はい!守られます!」
うん。避けれたら避けてね?
「8体だ!来るぞ!」
頼む…砂漠鷲であってくれ……
パァンッ!
聖奈さんのライフルが乾いた音を鳴らした。
だが、反応は減っていない。
どういうことだ?外したのか?
「りゅ、竜だよ!当たったけど死なないよぉ」
「竜だと?!何でいきなりそんなのが現れるんだよ!!」
聖奈さんはスコープで確認したようだ。
だが、竜は聞いてないな…まぁダンジョンが『次の敵は竜だから!』なんて教えてくれるわけないけど。
「聖奈!!構わないから撃ちまくれ!」
聖奈さんに指示を出して、俺は魔法の詠唱へ入る。
『フレアボム』
漸く視認出来た時、魔法を群れに向かって放った。
竜を初めて見たせいで動揺し、詠唱をミスりかけたけど何とか放てた。
「くそ!」
初めての空中に向けての魔法は、空振りに終わる。
「あれは翼竜だ!亜竜種として有名な奴だぜ!」
「翼竜?あれが…」
ライルの説明で、異世界モノでは有名な翼竜に会えたことを少し感動していたけど、そんなことをしている場合ではなかったな。
翼竜は羽を広げたら幅2.5メートル、全長は尻尾も入れたら3mはある。
パァンッパァンッパァンッパァンッパァンッ
『ギャギャオーン』
「効いてるぞ!頑張れ!聖奈!」
「応援はいいからセイくんは対物ライフルでも撃ってよ!」
あっ…すまん。すっかり観戦していたな。
だってアイツらこっちが遠距離攻撃したもんだから、ホバリング(?)してるんだもん。
「よーし!かっこいい所見せてやるか!」
意気込んで見せたものの、対物ライフルは信じられないほど重たい。
身体強化しても重たいんだよなぁ…反動も凄いし……
バァンッ!
『ギャオッ!?』
頭吹き飛んだぞ…グロ耐性が……
人が持ち歩けないほど重たいが、威力も生き物に向けていい物でもなかった。
「やりました!命中です!消滅も確認しました!」
普段は冷静に報告してくるミランが、嬉しそうに結果を伝えてきた。
もしかして、俺が当てたのがそんなに珍しいのかな?
対物ライフルの活躍により、翼竜の群れは全滅した。
もう魔法とかいらんのとちゃうか?
みんな身体強化魔法覚えて、対物ライフルや機関銃で無双しないか?
「全て拾えました。どうしますか?」
魔石を集めた後、ミランが問いかけてきた。
「もちろん前進する。この階層は砂埃がたたなくて良かったよ」
対物ライフルが壊れたら攻略無理だもん。俺とライルだけなら突破出来るかもしれんけど。
それでも危険だな。
「わかりました。方角は…」
「方角はこのまま真っ直ぐだ。奴らがいた所が気になる」
アイツらは地上にいたはずだ。
魔物でも疲れるから飛ばずに休んでいただけかもしれないけど、何かあるのかもしれない。
俺は魔法の鞄に魔石とライフルを仕舞って、その場所へと向けて歩き出した。
「あったな」
俺の視線の先には穴があった。多分次の階層に行けるのだろう。
「だけど穴だぜ?何で洞窟じゃねーんだ?」
「わからん。けど、これまでも色々と変わってきたんだ。これがそのタイミングだったんじゃないか?」
「そうだね。それに上にボスが飛んでるから間違いないよ」
そう。穴の遥か上空には何かが飛んでいるのが見えた。虫だといいな…蚊とか。
「セイくんも見て」
聖奈さんが双眼鏡を渡してきた。
俺の視力では豆粒にしか見えないから、素直に受け取り、対象を確認した。
「なんだ…?」
「多分、竜だよ。翼竜じゃなくて普通の」
翼があるから翼竜でいいじゃん……
「竜だと?」
「ライルは何か知っているのか?」
もう俺達の知識ではわからん。
ここは長い間冒険者をしてきた、ライル博士に任せよう。
「竜は魔法を使う。前にエリーが言っていた固有魔法って奴だな。火を噴けば火竜、暴風を起こせば風竜ってな具合だ。
だが、魔法を使う翼竜だと思ったらダメだ。竜は単独で討伐出来たらAランクになれるくらい強いと言われている」
「流石18階層だな…」
ライルの説明を聞いて、今の俺達で勝てるのか、そんな疑問が湧いてくる。
「セイくん。どうする?ここからじゃ銃弾は届かないと思うよ」
「私の魔法も無理です。セイさんなら届くかもしれませんが」
「届いても避けられるだろうな。一応撃ってみるか?」
「やってみないとわかりませんが、確かに先程も避けられてましたもんね」
そうなんだよな。300mない距離で避けられたんだ。
竜までは、どう考えても一キロは離れてるよな。しかも上方向に。
何か良いアイデアは無いものか。
みんなが黙って思考を巡らせていると、ふと思いついてしまった。
「一つだけ方法があるかもしれん…」
ヤバい攻撃方法に気付いてしまった……
「なに?怖い顔して」
「主に俺がヤバい攻撃方法なんだ」
「どんな方法ですか?」
そんなに怖い顔してるか?
ミランがまだ聞いてもいないのに、否定的な表情をして、問いかけてきた。
「竜より遥か上空に転移して、RPGを下に向けて撃つ」
「「「「はっ?」」」」
いや、何をそんな可哀想な奴を見る目をしているんだい?
「何言ってるの?危ないキノコでも食べたの?」
「セイさん。黙ってお酒を飲んだのです?」
まて。ヤバいキノコも酒も飲んでない。
と言うか、そんな事を言うならエリーがこっそりクッキーを食べたことをバラすぞ?
まぁ俺が与えたんだが。
「上空にいる竜から攻撃される前に、あの穴に全員飛び込めると思うか?」
「無理じゃねーか?そもそも倒さないと機能しない奴かもしれねーぞ。女王岩蟻の時みたいにな」
そう。あの階層の出口は、女王岩蟻を倒してから出現した。
この階層が違うとは言い切れない。
「だな。という事は、みんなの安全を考えたらこの作戦しかないな」
「待ってください」
静かに聞いていたミランが待ったをかけた。
何かいい案があるなら教えてください!パラシュートもないのにスカイダイビングはしたくないです!
「私も行きます。私が撃てばセイさんはすぐに詠唱を始められます」
「ミランちゃん。ダメだよ」
すぐさま聖奈さんが止めてくれた。
良かった。俺が止めるとこだったからな。
「何故ですか?」
「私が行くからだよ」
「なぜ!?」
やばっ。ビックリして、でかい声が出ちゃった。
「何でって、ミランちゃんと同じ理由だよ。失敗してセイくんが死ぬなら私も死ぬから」
「それなら私が行くことを止められないですね」
えっ!?火に油注ぐ系ヒロインなの?
「残念。私はあれくらいの高さから落ちるのには慣れているから、私が行くんだよ」
「そうか…軍の訓練で降下もしたんだっけ?意味ないと思ったけど、意味あったな」
聖奈さんなら仕方ない。死なば諸共だ。 あれ?使い方間違えた?
「そ、それでも!私はセイさんが…」
「ミラン。必ず帰ってくるから心配するな」
わからんけど。でも、こうでも言わないとな。
「なあ」
静かになったその場にライルの声が響いた。
「何で先制攻撃に拘るんだ?正面から戦えばいいだろ?」
「そうです。普通に戦えばいいのです!」
聖奈さん達はライルの言葉に目を丸くしていたが、俺は・・・
「却下だ。 聖奈達には荷が大きすぎる。
俺達の遠距離攻撃が当たらず、最初の攻撃が向こうだと、死ぬ可能性が高過ぎる。
もちろん先制攻撃が当たっても、ダメージが通らなかったり致命傷にならなかったら、こちらがやられるかもしれんが、リスクは少ないはずだ」
Aランク級の魔物だ。
それも上空からの攻撃魔法。
一撃で仕留めなければ、動きの遅い女性陣が的になってしまう。至近距離じゃない限り銃火器は真上や上方向には弱いからな。
「ですが!!」
「ミランちゃん。待って」
聖奈さんがまた待ったをかけた。
今度は期待しているぞ!
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ミラン「待ってください!」
聖奈「止めないで!」
エリー「じゃあ私が行くです!」
ミラン&聖奈「どうぞ!」
エリー「なんですと!?」
聖 (相変わらず遊ばれてんなぁ…)
ダンジョン攻略の今までにない強敵出現です。
おかしい…これは聖が楽して酒を飲むお話しのはず…
これではまるで、真面目な冒険モノじゃないかっ!