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「いいえ、あれではまだ礼をし足りないわ。桜綾もそう思うでしょう?」
「はい、わたくしもあれ程麗霞に助けられておいて、あの程度のお代では不十分だと思っていたところです」
「いいことを思いついたのよ。私が貴女に相応しい男性を探してきて紹介しましょう。愛情深くて眉目秀麗、それでいて貴女のお母様やお父様も文句の付けようのない家柄の男性をね」
「それはいい考えですわ! 是非わたくしも品定めに参加させてくださいな」
「ええ、ええ。そうしましょう」
どどどどうなってるの?
皇后陛下に縁組みをしてもらうってこと?!
予想外の成り行きに目を白黒させる麗霞に、皇太子妃は畳み掛けるように言った。
「麗霞、心配要らないわ。春画を描きたい時にはわたくしの宮に行くと、旦那様に言えばいいんですもの。好きな時に来て思う存分、描いたらいいわ」
「え、あ、はい」
『はい』と答える以外の選択肢など、麗霞には用意されていない。
なぜならこの国でこの二人に結婚相手を探してくると言われて断れる未婚女性など、いないのだから。
***
皇后からお達しがあり、麗霞の父と母とが皇宮に招かれたのは、それから数週間後のこと。
二人とも皇后から直々に声を掛けられたことなど無いものだから、有頂天になっている。
「麗霞、皇后陛下が貴女の婚姻相手を探して下さったって本当なの?」
「はい、本当です……」
力なく答える麗霞とは対照的に、父はすこぶる機嫌がいい。
娘が皇后と皇太子妃から目をかけてもらっていることで、鼻高々なようだ。
「皇太子殿下のお子様たちに書画を教えているとは聞いていたが、まさかこのように面倒を見てくださるとは、いやはや、でかしたぞ麗霞よ」
どうやって断ればいいのかと考えたものの、結局何も出来なかった。いくら二人が麗霞を気に入ってくれているからと言って、縁談話を断れるわけがない。
皇后と皇太子妃が探してくると息巻いていたほどだからきっと、相当良い家柄の男性だろう。
麗霞だってそれなりの教育は受けてきたし、官女として働いてきた実績はあるけれども……気が重い。
すっごーく気が重い。
紹介してもらった相手が麗霞を気に入らなくても、皇后に栗家の娘を娶れと言われたら逆らえないはずだ。
でも……。
これで煜峰との縁はお終いに出来る。こうして誰かに強制終了させられなければ、麗霞には決断出来なかったかもしれない。
時には流れに身を任せてみるのもまた、一つの手というものだ。
皇后の待つ部屋へと到着すると、侍女が取り次いでくれた。扉が開き中へはいると、皇太子妃も同席している。
「本日はお招き頂き誠にありがとうございます。栗仁傑と妻の古語桐、それから娘の栗麗霞でございます」
皇后の座る前に進み出て跪くと、表を上げるよう促された。
「栗仁傑、よくぞいらして下さいました。貴方の娘の麗霞は皇宮でよくやってくれているのよ。今日はその礼をしたいと思ってね、彼女の嫁入り先を皇太子妃と共に探してきたの」
「このような取り計らいをして頂けるとは、恐悦至極に存じます」
「相手がどんな人か気になるでしょう? でもその前に麗霞、ひとつだけ先に言っておきましょう」
「はい」
「嫌なら断っても構わないの。私や皇太子妃の顔に泥を塗るなんて考えなくてもいいのよ。私と桜綾は、貴女の幸せを願ってしている事なのだからね」
姜弘が以前、皇后は空よりも広く、海よりも深いお心をお持ちだと言っていたが、あれは本当だった。
ここまで気遣われてしまっては、その気持ちを無下にはできない。
どんな相手でも、生涯添い遂げよう。
煜峰への気持ちは心の中に大切にしまって、その人のことを愛する努力をすればいい。
泣いて駄々をこねるなんて真似は、絶対にしてはいけない。
#異世界転移
花月夜れん
2,559
設楽理沙
880
耀聖(ようせい)
269
耀聖(ようせい)
855
「はい、承知致しました」
込み上げてくる苦いものを飲み下して決意を胸に返事をすると、皇后は麗霞たちが先程入ってきた扉に向かって声を掛けた。
「入りなさい」
「え?」
「今日ここに来て貰っているのよ」
「――!!」
こういうのは普通、結婚式の日に初めて会うものだと思っていた。
今日は相手が誰なのか話して下さるだけなのかと思って、油断していた。
扉が開く音がして、男性が皇后の前へと進み出ていく。
本当は振り向いて、相手がどんな人なのか見てしまいたかったが、皇后がいる手前でそんなみっともない行いは出来ない。
バクバクと逸る心臓を宥めながら待つ麗霞の鼻に、嗅ぎ覚えのある香の香りがフワリと漂ってきた。
――あれ、この香り……。
あの人に迫られるたび、幾度も嗅いできた香りだ。
忘れるはずも、間違えるはずもない。
柑橘系を思わせる爽やかな香りの中に、甘く重厚感のある香りが後から鼻をくすぐる。
嘘よ……そんなはずは無い。
だってあの人は、麗霞の気持ちには応えられないと、はっきり言ったのだから。
コメント
1件
もうマジで最高すぎて震えたんだけど!?😭💕 麗霞、皇后と皇太子妃にここまで気に入られてるの尊すぎるし、「嫌なら断っても構わない」って皇后様の優しさに泣いた…。でも最後のあの香り、まさか煜峰でしょ!? 会話の流れと香りの描写が絶妙で、次の話が待ちきれないよ〜!🌸 麗霞の複雑な心境がひしひし伝わってきて胸がギュッてなった…!