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【夜、鬼殺隊の東の駐屯地】
虫の音も止む。
風が鳴らぬ。
空気が、ひたすら“濁って”いた。
――現れたのは、“あれ”だった。
漆黒の鎧。無機質な眼差し。
三つの目を持つ――上弦の壱・黒死牟
「……血の匂いがするな。ほぉ、これが“凛柱”か」
駐屯地の見張りが警鐘を鳴らす暇もなかった。
一閃――
刹那、建物が四棟、まとめて崩れた。
⸻
【その頃・療養室】
侃の鬼化進行率は40%を越えていた。
血が熱い。
瞳がじわじわ赤く染まり始めている。
刀を握ろうとする指が、震える。
(こんなはずじゃ、なかった)
(俺は、人を守るために強くなったはずだ)
(なのに――)
ドクン。
ドクン。
ドクン。
心臓ではなく、“鬼の核”が脈動していた。
その時、廊下から叫び声が響いた。
「敵襲だ!! 上弦の壱、黒死牟!!」
瞬間、侃は意識をぶち切るように跳ね起きた。
鬼化が進行してようが、血が逆流していようが――関係ない。
「刀を――持て」
侃は立ち上がった。
⸻
【黒死牟vs鬼殺隊精鋭】
黒死牟の刃が振るわれるたび、空気が裂けた。
義勇の水の呼吸が、紙一重でそれを受け止める。
煉獄の炎が、わずかに黒死牟の肩を焦がす。
実弥の牙が、容赦なく斬撃を刻む。
だが、黒死牟は微動だにしない。
「くだらぬ……貴様らの“意志”とやら、何の意味がある」
その時。
「そのくだらねぇ“意志”のために、俺たちは立ってんだろうが!!」
侃が、現れた。
⸻
【侃vs黒死牟】
一歩一歩。
侃の体からは、異様な“瘴気”が漏れていた。
まだ人間――だが、鬼の血が滲み始めている。
「……お前が黒死牟か」
「お前が“器”か。ならば私の刃で、試してやる」
黒死牟の一撃が、侃を穿つ。
速い。重い。
骨が砕け、血が飛ぶ。
「ぐ……ッ!」
「侃ッ!!!」
義勇と煉獄が駆け寄ろうとするも、侃が手で制す。
「下がってろ……俺は、“柱”だ」
その一言は、命を懸けた誇りだった。
⸻
【“自分を保て、凩 侃”】
(俺は、人間だ。俺は、人間だ――)
しかし、視界がにじむ。
黒死牟の剣が、再び侃の胸をえぐる。
ズシャッッ!!!
「がっ……ぁ……」
地面に膝をついた侃の目が、一瞬――鬼の瞳と同じ“紅”に染まる。
そのとき。
「ダメだ……侃!!」
猗窩座が、割って入った。
刃を受け、黒死牟を吹き飛ばす。
「間に合え……!」
猗窩座の拳が黒死牟に向けられるも、真正面から受け止められた。
「貴様のような“弱き鬼”に、価値などない」
「価値を決めんのは――てめぇじゃねえ!!」
猗窩座の拳が、黒死牟の顎を打ち抜く。
しかし黒死牟も反撃。
猗窩座の左腕が切断される。
「……ッ、くそが……!」
「なぜ、そこまで“人間”に執着する」
「決まってんだろ」
「――“俺が守れなかった奴”を、今度こそ守る。それだけだよ」
⸻
【崩れる理性】
侃の中で、鬼の血が暴れ始めていた。
耳が焼ける。
眼が赤く濁る。
背中から、鬼特有の“痣”が浮かび上がっていた。
「侃ッ!! 自我を保てッ!!」
猗窩座の声も、もう届かない。
(俺は……鬼なのか……?)
(それとも――)
黒死牟が、ゆっくりと侃へ歩み寄る。
「“お前”のような未完成の鬼が、最も価値がある」
「来い。共に、永遠へ至れ」
そのとき――
侃の手が、自らの刀を喉元に向けた。
「俺は、鬼になるぐらいなら――死ぬ!!」
「やめろッ!!!」
猗窩座が、彼の手を止めた。
侃の目に――涙が溜まっていた。
⸻
【その刹那――“声”が響く】
「……誰かを、救いたいと思う限り――お前は、鬼じゃない」
それは、産屋敷耀哉の残した音声記録だった。
彼の優しい声が、空間に満ちる。
「人の心に灯った想いが、“命”を守る。
たとえお前の血が鬼になろうと、お前の魂が人であるなら――私は、お前を誇りに思う」
侃の動きが、止まった。
「……俺は……まだ、俺でいられる……?」
猗窩座が、うっすら笑う。
「あぁ。お前は、まだ“人間”だよ」