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第一章 ──最初の塔へ
森を抜けると、荒れ果てた街道が広がっていた。
瓦礫と化した民家、焼け焦げた畑、そして人影のない村落。
人間たちはすでに逃げ去ったのか、それとも……。
「……見ろ。これが人間の“文明”の末路だ」
ルカは黒衣を翻し、冷たい声で言い放つ。
隣を歩く魔生物は、ただ無言で彼女の後をついていくだけだった。
「守るだの正義だの、口では立派なことを言いながら、結局は互いに殺し合い、食い合うだけ。哀れなものだ」
乾いた風が吹き、瓦礫の隙間に転がる人骨を露わにする。
魔生物は立ち止まり、しばしそれを見つめていた。
「……どうした? 同情でもしているのか?」
ルカが嗤う。
「勘違いするなよ。奴らは私たちを“怪物”と呼び、火にくべることを何のためらいもなくやる。弱い者を嘲り、強い者を恐れる。そんな連中に情けをかける必要はない」
魔生物は答えない。
ただ、その瞳の奥に一瞬だけ揺れる光を、ルカは見逃さなかった。
「……ふん。気に食わんな」
彼女は足を止め、魔生物の胸を指先で突く。
「お前は私の創造物だ。私がそうあれと言えば、そうなる。違うか?」
魔生物はこくりと頷いた。
その素直さがかえって苛立たしく、ルカは舌打ちする。
やがて丘を越えると、遠くに巨大な影が姿を現した。
天を突くようにそびえ立つ灰色の塔。
空気がそこだけ淀み、瘴気の風が吹き荒んでいる。
「あれが──第一の塔」
ルカの瞳が妖しく光る。
「人間どもが築き上げた“封印の楔”。これを壊せば、世界の均衡は崩れ、魔女たちの時代が始まるのだ」
彼女の声は甘美な呪詛のように響き渡る。
一方で魔生物は、塔を見上げたまま立ち尽くしていた。
その表情は読めない。ただ、どこか遠い記憶を探しているかのように。
ルカは冷ややかに振り返り、笑みを浮かべる。
「さあ──行くぞ。我が兵。血と悲鳴で、世界を塗り替えてやろうじゃないか」
そして二人は、塔へと歩を進めた。
それが、この地に新たな惨劇を呼び込む第一歩となるのだった。