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春の嵐と、毛だらけの辞令
朝日が昇るより少し前、私は目を覚ます。
「おはよう、今日も時間通りだなあ」
私の上から降ってくるその言葉、
あぁ、その偉そうな、そして清々しい程に…
「…早く起きろ、何をグズグズしている」
「人の子風情が私を待たせるのか?鈍間め。」
…口が汚い。ついでに目つきも悪い。人を睨んでいるという自覚はあるのでしょうか。
「はい、今すぐに」
軽く返事をして、彼を見つめる。彼も、私の隣でじっと私を見つめてきている、いつも通りだ。朝は機嫌が悪そうなのも変わりなさそうで、
「なぁ早く、怜」
彼の手が私の首元に触れる
__その瞬間
私の襟元が、私の中で締め付けられているような感覚になる。触られている感触より、何かで引っ張られているような。
数秒沈黙が訪れる。
「痛いです。ここはダメって言ったでしょう?」
私は笑顔で彼にそう返した。彼もこの反応が満足だったのか、少し笑って部屋を後にした。
もちろん、こんなことで怒ったりしない。だって私は、宮司なのだから!
宮司/ぐうじ
神社の最高責任者(社長)のこと。
お祭りの統括から経営・管理まで全てを担う、一社に一人の「長」のこと。
私、九条怜の手元には、二つの「重み」がある。それは、「権正階(ごんせいかい)」の証書、そして「宮司」の任命状。
数ヶ月前、所々で雪が降り、年が明けて間もない頃。
実家の宮司、私の祖父が「妖怪との契約」とやらで急逝した。
その時の私は都会の神道系大学で、古文書ばかりを読み漁っている、ただの学生。
とても宮司が継げるような人間ではないことは、自分でもよく分かっていた。
だが、神社で働くというのに関しては、一日でも早くそうしたいと思っている。その気持ちは変わらない。
3月下旬、私は大学を卒業し、権正階という免許だけ引っ提げて急いで帰郷しました。
言い忘れていました。私の神社は少し、いやだいぶ変わっていて、長年…そうですね。
数百年以上続いている歴史を持っていて、代々血を受け継いでいるものではないと、この神社での仕事は苦労するといいます。
この神社には、そして私には、神がいるから
その神は数百年もの間ずっと契約を守ってきたらしく、どうやら九条家の血を継ぐ長男として、私の順番が回ってきたんでしょう。
どうやら神の器として育てられていた幼少期は、無駄ではなかったようですね。
4月、始まりの季節。そして私の見習い開始です。
見習いと言ってもこの神社には人間一人
私、九条怜一人しかいない。
どうやって見習いをすればいいんだなんて考えてましたが、ふと後ろから、
「やあ、君が泰三の孫か」
綺麗な声だ、と私は思った。同時に、背筋を氷で撫でられたような寒気が走る。泰三とは私の祖父の名だ。何となく理解した。この後ろにいるものが何なのか。
天照御魂神(あまてるみたまのかみ)。九条家が代々祀り、そして私に押し付けられた「呪い」。
振り返るのには勇気がいる。野生の小動物が捕食者を前にした時のような、本能的な恐怖。私は震える膝を必死に抑え、ゆっくりと首を回した。
……そして、私は絶句する。
そこにいたのは、私の知る「恐ろしい神」ではなかったからだ。
人の声がすると思ったら、鳥居の上にいるのはとても愛らしい、黄金の三毛猫。私は思った、これは神なのか、と。
よく考えて、これが神と判断するには証拠も確信もない。ただの綺麗な猫かもしれない。緊張のし過ぎで、変な声が聞こえただけかもしれない。猫は黄金色の瞳でじっと私を見つめていたが、やがて興味を失ったようにあくびをすると、音もなく鳥居の向こう
__深い森の中へと消えていった。
私は自分を納得させながら、その猫に少しお辞儀し、社務所へ向かった。
権正階 (ごんせいかい)
いわゆる「新人プロ」 。神道系大学を卒業した直後の状態。知識はあるが経験不足。