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第4話 〚図書室で、未来が重なる〛
白雪澪は、本を読むのが好きだった。
昼休み。
教室のざわめきから逃げるように、
彼女はいつも校舎の奥にある図書室へ向かう。
広くて、静かで、
高い本棚が並ぶその場所は、
澪にとって数少ない“安心できる空間”だった。
ページをめくる音。
遠くで聞こえる時計の針。
それだけで、心が落ち着く。
(……今日は、あれを読みたい)
棚の一番上。
昨日から気になっていた一冊。
澪はつま先立ちになって、
腕を伸ばした。
その瞬間。
――ぐらり。
視界が、歪む。
(……っ)
頭の奥が、じくじくと痛む。
嫌な感覚。
――妄想。
――予知。
映像が、一気に流れ込んできた。
高い本棚。
伸ばした手。
後ろから伸びてくる、別の腕。
(……やめて)
澪は、眉をひそめながらも、
本に手を伸ばし続けた。
(早く……取らないと)
頭痛は、強くなる一方だった。
「……白雪さん」
そのとき。
すぐ後ろから、声がした。
澪が振り向く間もなく、
横からすっと腕が伸びる。
高い位置の本が、
軽く引き抜かれた。
「これ?」
差し出された本。
澪が、今まさに取ろうとしていた一冊。
顔を上げると、
そこには橘海翔が立っていた。
「……橘、くん」
その瞬間。
――すっと。
さっきまで嘘みたいに痛かった頭が、
一瞬で、消えた。
(……え?)
澪は、思わず自分のこめかみに触れる。
痛くない。
何も、残っていない。
「大丈夫?」
海翔が、少し心配そうに覗き込む。
「無理して取ろうとしてたでしょ」
「……はい」
澪は、小さく頷いた。
本を受け取る指先が、
少しだけ震える。
(……同じ)
さっき、頭の中で流れた妄想。
未来の映像。
――そのまま、現実になった。
でも。
今までと、何かが違う。
予知は、
澪を苦しめるだけのものだったはずなのに。
海翔が本を取った瞬間、
痛みは消えた。
「図書室、よく来るんだ」
海翔は、周囲を見回しながら言った。
「……静かで、好きです」
「分かる」
彼は、少し照れたように笑う。
「落ち着くよね」
澪は、胸の奥が、じんわり温かくなるのを感じた。
――予知は、外れない。
――でも、痛みは消えた。
それは、初めての感覚だった。
(……未来が、優しい)
そんな風に思ってしまった自分に、
少しだけ戸惑いながら。
澪は、本を胸に抱きしめる。
図書室の静けさの中で、
未来と現実が、
そっと重なった瞬間だった。
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