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源蔵三蔵 二十歳
悟空達が俺を置いて広間から出て行く姿を、俺は黙って見つめる事しか出来なかった。
殴られた頬が痛い。
何で、あんな事を言ってしまったのだんだ。
悟空に言っていい言葉じゃない事は、俺がよく知ってるじゃないか。
小桃が手際よく傷口に消毒液を塗り、その上から綺麗なガーゼを貼り、丁寧に包帯を巻いて行く。
「痛くない?」
「あ、あぁ…、ありがとう」
「…、大丈夫?」
「…」
俺は小桃の問い掛けにも答えれる程、気力がなかった。
小桃は俺の雰囲気を察したのか、静かに側を離れて行く。
今見えている光景がボヤけて見えるのも、喉に力が入らないのも、何もかもどうでも良いの。
壁に背を預けていると、李が険しい表情をしながら声をかけてきたのだ。
「さっきの若に対する態度は何だよ」
「は?」
「は?じゃねーよ。人間ごときが、若に上から目線な言葉を吐くなって言ってんだよ」
「何で無関係のお前に、そんな事を言われないけねーんだよ。お前に関係ないだろ、俺と悟空が言い合いをしていたとしても」
俺と李の言い合いを聞いていたのか、丁と胡が走ってくる。
「おい、李。これ以上、からむのはやめとけ」
「隊長!!!だけどっ、若に生意気な事言うから」
「うちの馬鹿がちょっかいかけて悪かったな」
丁が李の首根っこを掴みながら謝ってくるが、それすらもどうでもよく写ってしまう。
「少し、ほっといてくれ」
「分かった、すまない」
俺の言葉を聞いた丁は空気を察し、そそくさにうるさい李を連れて離れて行く。
涙がとめどなく流れ落ち、お師匠との思い出が流れ込んで来る。
俺はまた家族を殺され、失ってしまった。
お師匠とちゃんと話を出来ないまま、お師匠が無惨な死に方を…。
ダメだ、何もやる気にならない。
「三蔵」
「哪吒…」
「空気を吸いに行こう」
グイッ。
手当てを終えた哪吒が現れ、強引に俺の手を引っ張り立ち上がらせる。
「わっ!?ちょっと!!!」
「黙って来い」
哪吒に静止させられた俺は黙って腕を引かれながら、広間を出て綺麗な山の光景が一望できる中庭に
移動させられた。
サァァァァァ…。
初夏の訪れを知らせるような涼しげで暖かい風、新緑の新鮮な香りが鼻を伝う。
あれ、ここから見える景色が凄く綺麗に見える。
「俺達は今、この景色を独り占め出来る場所に居たんだな…」
「あぁ、私もさっき気付いたんだ。中々なものだろ」
「そうだな…」
「そこの岩に座ろう。丁度、二人分座れるスペースがある」
哪吒に促され、俺は岩に腰を下ろす。
初夏の香りを乗せた風に包まれ、泣き腫らした目に沁みて行く。
「ここにお前を連れてこれば、少しは落ち着くと思ってな。どうだ、落ち着いたか」
「外の空気を吸うだけで違うな。俺、悟空に最低な事を言っちまった」
「そうだな、悟空に対して言う言葉じゃなかった。悟空はお前のように人目も気にせず、大声で泣いたりもしない」
哪吒の言葉を聞いて、返せる言葉は見つからない。
冷静さのない言葉を投げ捨て、悟空に八つ当たりのようなものをしてしまった。
「死になれて行くよりも、泣いてくれる存在もいるんだろうな。この世界を作った奴が、三蔵のような奴だったら変わっていたのかもな」
遠い目をしながら話す哪吒の横顔は、死んだ石の事を思い出しているのが分かった。
石は俺達を逃す為に、自分の命をかけて守ってくれた。
旅に出て行かなかったら、一生考える事がなかっただろうと思う事がある。
神々達がしてきた罪、鬼達の悲惨な過去、この世界の残酷さ、大切な人の死。
人が死ぬ時、この世での修行が終えたと言う事としか聞かされていなかった。
六道の中の人間道で産まれた者は、死ぬまで対人関係で悩むのが修行なのだと。
確かにそうなのかもしれない。
どうして、人は争うのか。
同じ道を目指している筈なのに、互いに違う方法で道を目指す事もあれば、争う事でしか目指せない道を選んでしまう事もある。
どうしたら、誰も死なずに済むのだろうか。
この旅になんの意味があるのか、考えさせられる時がある。
「お師匠は信じて信仰してきた神達に見捨てられ、水元も他の坊さん達も皆殺しにされたんだって。俺は直接見てないから分からないんだけど、本当なんだと思う。俺の事を大切に思ってくれていて、この旅に出すのも、本当は反対だったんだって」
哪吒は俺の話を黙って聞いていた。
慰めの言葉をかける訳でないし、相槌を打つ訳でもない。
それなのに俺は勝手に気持ちを吐き出す。
「争わなくて良い道はないのかな。神も鬼達も人間も」
「無理だろうな、神と鬼達は互いの存在を消した世界を理想としている。願いの為に、奴等は血を流す事を惜しまない。お前も見ただろ、鬼達が天界で神や天界軍の奴等にした事を。あれを最初にしたのは神だ、鬼達が同じ事をするのは当然だろうな」
「…、争うしか道はないって感じか」
「お前達の目的は経文を集めて、天竺に行く事が目的だろ?神と鬼の因縁に頭を悩ましても、仕方がないだろ」
哪吒はキョトとしながら、俺に尋ねてきた。
「いや、そうなんだけど…、それが大変なんじゃん。経文集めも一筋縄じゃいかないんだから」
「お前達が苦労するのも、何か意味があるじゃないか?直接、観音菩薩に聞いたら?」
そう言いながら、哪吒は後ろを振り返る。
哪吒の視線を追うように振り返って見ると、観音菩薩がこっちに向かって歩いてくるのが見えた。
「話中だったかな」
「いや、話は終わった。私は席を外すよ」
「悪いね、哪吒」
「気にするな」
腰を上げた哪吒は広間に戻って行き、観音菩薩は隣に腰を下ろす。
少しの沈黙の後、観音菩薩は思い口を開けた。
「和尚の事、申し訳なかった。和尚の死も、君の兄弟子の水元を死も僕達に責任がある。寺の集落に集まってくれた者達も…、死なせてしまった」
「お師匠が言っていた事は…、本当なの?」
「あぁ、僕達の味方だと思っていた天帝が、和尚達の心を壊して助けようとしなかったのは事実だ。和尚は温羅に見せられたのだろう、美猿王と鬼達の過去と先代の神達の犯した罪を。誰でも、神達がしてきた事を見れば幻滅するさ」
「…、これから先、アンタ等が動いても変わるのか」
俺の言葉を聞いた観音菩薩は、視線を下に戻した。
***
三蔵と観音菩薩が中庭で話している中、傷だらけの羅刹天の世話係の雨桐、人の姿をした白沢の二人が、悟空と小桃がいる縁側の茂みから出て来ていた。
孫悟空ー
「美猿王の城に居たとは思いもしませんでしたよ、貴方を探していましたので」
「あれ、この男の人って…。確か、牛鬼の仲間じゃなかったっけ?探してたって、悟空の事を?」
小桃が雨桐の隣に立っている男の事を見ながら呟く。
「俺に用って何だ、牛鬼の手下野郎」
俺は小桃の前に立ち、警戒しながら男に尋ねる。
「あぁ、今は誰の仲間でもありませんよ。牛鬼はどこかに行ってしまわれたので。無論、貴方にも手を出す気はありませんよ」
そう言って男は両手を上に上げて、攻撃の意思がない事を俺に示してきた。
タタタタタタタッ!!!
「おい、悟空!!!妖気を感じたんだが…って」
「アンタ、雨桐じゃないか!?」
廊下を慌てて走って来た沙悟浄と猪八戒が、雨桐の姿を見て驚く中で、二人の背後から付いて来ていた羅刹天は口元を緩ませている。
「よく戻って来たな、雨桐。お前の事だ、何も収穫無しに俺の元に戻って来た訳ではないだろう?」
「はいっ、羅刹天様。こちらを悟空様に、お見せする為に戻って参りました」
「悟空に?それは何だ」
「天帝達が集会をしていた寺の中に、古い書物を保管している部屋を見つけました。ただ、その部屋に保管されている書物全ては、紙が腐り字を読める物はありませんでした。ある一つの書物を除いては…」
羅刹天の問い掛けに答えながら、雨桐は南京錠付きの
書物を見せてきた。
雨桐が見せてきた書物の表紙には吐血痕があり、俺の名前を墨汁で殴り書きで書かれ、沙悟浄と猪八戒の二
人はこの字に見覚えがあるようだ。
「おいおい、マジかよ…。その字は金蝉のじゃねーか」
「あぁ、間違いない。俺達は何度も、アイツが字を書く所を見て来たんだ。この字は金蝉のもので間違いないが…、悟空に宛てた書物があったのは知らなかったな」
「お前等が言うんなら、間違いねーな。おい、その書物貸してくれ」
猪八戒と沙悟浄の話を聞きながら、雨桐から南京錠付きの書物を受け取る。
前世の三蔵が血を吐きながら書いた書物、鍵を付ける程に守りを固める必要があったのだろう。
ジッと南京錠を見ていると、封印の呪文が細かく彫られているのが見えた。
「解《カイ》」
ありきたりな解除呪文を唱えてみると、ガチャンッと音を立てながら南京錠が破壊される。
「あ、開いたね南京錠」
「もしかしたら、悟空が呪文を唱えないと開かない仕組みだったのかも」
俺の左右にいる小桃と猪八戒が、興味深そうに書物を見つめていた。
パラパラッとページを捲って見ると、俺の意識が書物の中に引き摺り込まれる感覚がした。
***
悟空の背後から書物を覗き込んでいた羅刹天だが、眉間に皺を寄せながら不満げに呟く。
「あ?何にも書かれてねーじゃねーか。鍵まで付けておいてよ」
「皆様、お静かに。悟空様が読まれていますので」
「はぁ!?何も書かれてねーのに、どうやって読んでんだよ」
「この書物は、悟空様しか読めない仕組みになっているのでしょう。悟空様反応を見たら、分かるでしょう?彼は今、書物に書かれているものを見ているのですよ」
騒ぐ羅刹天を静止させた白沢は、視線を悟空に戻した。
***
孫悟空ー
天帝と美猿王二人の背後から伸びている巨大な白い手が、赤い糸を引いている見えていた。
馬鹿みたいに巨大な赤い目玉から無数に伸びている白い手、周りにも少し小さい目玉が浮いていてる。
妖怪でもない異質で不気味な生き物が、二人を操り人形のように動かして遊び、目玉を嬉しそうに歪ます。
「何なんだ、この目玉は…」
「悟空、俺達の本当に倒さなきゃいけない存在だよ」
「なっ!?お前がどうして、ここに居んだ」
右隣から声が聞こえ、視線を向けて見ると五百年前と変わらない姿の金蝉が立っていた。
「俺の意識を閉じ込めておいたからね、死んでいてもこうして残せれる」
「金蝉、永遠に読まれないかもって思わなかったのか?俺に」
「思わなかったなー、絶対に悟空の元に届くって確信があったからね」
金蝉はそう言いながら、巨大な目玉を見ながら話し出す。
「五百年もの間、俺がどうやって死んだのか正確に分かっていない。何者かに暗殺されたか、毘沙門天んい殺されたのかってね?悟空も、俺がどうやって死んだのか知らないでしょ?」
今の今まで、金蝉に言われるまで想像もしなかった。
何で、こんな当たり前の事を考えなかったんだ?
沙悟浄も猪八戒も、観音菩薩達さえも深く考えなかったのは…。
“そう言う風に仕組まれていた”の言葉が頭を過った時、頭の中がスッキリして行くのが分かる。
「悟空、俺はこの化け物に殺されたんだ」
「この化け物は何なんだ?」
「破壊と創造の神シヴァ」
金蝉の口から聞いた事がない神の名前が出てきた。
*シヴァはヒンドゥー教の最高神の一柱で、破壊と創造の神として知らされ、ブラフマー【創造】、ヴィシュヌ【維持】と共にトリムルティ【三神一体】を構成します。
破壊は次の創造を生み出す為のものであり、ヨガや瞑想の守護神でもあり、ナタラージャ【舞踏王】やアディヨーギー【第一のヨーギー】とも呼ばれ、多様な側面と名前を持つ神です*
「シヴァ?聞いた事がねーな」
「俺達が信仰しているのは仏教だからね、シヴァは悟
空達が目指してる天竺に居る神だよ。俺も幽閉されなかったら、異国の神についての書物を読み漁らなかったら知らなかったよ。目の前に現れたシヴァは、俺が見た事がある神じゃなかった。人型じゃない異質な生き物、嫌らしい眼差しを向けるモノ」
「異国の神とやらが、わざわざ殺しに来た理由が分かんねーな」
俺の言葉を聞いた金蝉は、俺に視線を向けながら呟く。
金蝉には、シヴァが殺しに来た理由が分かっているようだ。
「俺達の知らない間に、この世界は作り変えられた。シヴァは気に入らなかったのさ、シヴァはよ。自分がいない所で、好き勝手にした仏教徒の連中の事を毛嫌いした。最初に目を付けられたのが、偶然に出会した俺だった」
「偶然だと?シヴァは仏教徒の人間を殺す為に天界に訪れ、幽閉されていた金蝉と出会い殺した…と?
本当にそうなのか?」
「悟空の言う通り、俺とシヴァの出会いは偶然なんかじゃない。必然的に、例の赤い糸に引き寄せられたんだろうな。奴の巨大な手が俺の体を貫き、心臓を簡単に握り潰されたよ。俺を殺せれて満足したのか、シヴァは独り言を呟いていた。”面白い玩具を二つ、見つけた”と」
「それが、美猿王と天帝の二人だった…。そう言う事だろ」
そう言いながら金蝉を見ると、黙って頷いている。
「シヴァは美猿王と天帝を裏から操り、争わせようとしている。天竺、自分の居る場所まで来させる為に」
「…、そんな事をさせて意味があんのか。なぁ、金蝉…、俺達の旅には意味があんのか」
「君達の旅には、大きな意味はあるよ。君がシヴァと
唯一、戦える力を持っている。いや、持たされたんだ」
金蝉の言葉を聞いた時、天帝と共に行った加護の儀式の事を思い出した。
「君の今の体にある木の枝と葉、胸の部分にある梵字は神と同等の力を持った器だ。シヴァが天帝を裏で操っていると言っただろ?加護の儀式の時にも、シヴァは君の器を別の物にしようとしていた。だがシヴァの意識を掻い潜り、神木で作られた器にすり替えた人物が居た筈だ」
「摺り替えた人物?誰だ」
「俺の意識を閉じ込めた書物を持ってきた者だよ」
雨桐の隣に立っていた胡散臭い顔した男の事か…。
「気になるなら本人に聞いてみて、ただ時間は限られて来てる。シヴァの存在を早く、悟空に知らせたかったんだ」
「分かった、他の連中の耳にも入れておく。時間を掛けてる場合じゃない事は承知してる、美猿王の後を追い掛けねーといけねぇ」
「悟空、経文集めの旅は、君達四人じゃないと意味がないんだ。俺が意味を答えなくても分かる時が必ず来るから」
そう言った金蝉の体が薄くなって来ている事が分かった。
書物に込められた金蝉の意識が消えかかっているのだろう。
「すまない、君には苦労を掛けるね」
「そんな事気にすんのか?お前」
「ちょ、ちょっと!?繊細な事まで気に掛けれるって!!!こっちは真面目な話をしてるのに…」
「ぐだぐだ悩んでたって仕方ないだろ。現世のお前は泣き虫で、めんどくせぇぞ」
生まれ変わる前と後とで、金蝉の性格が変わったな。
俺達と旅をしている三蔵として生きている金蝉は、子供みたいに感情が動いて泣く。
天界で生きていた金蝉は、淡々と自分の仕事をこなして人前で泣いたりもしなかっただろう。
「俺の神は一人だけだよ、これからもずっと悟空だけだ」
「そう思ってんなら、心配せずに黙って見てろ」
「はははっ、やっぱり…、悟空には敵わないなぁ…」
俺の言葉を聞いた金蝉は、顔をくしゃくしゃにさせながら子供のように笑った。
***
金蝉の笑顔を見た瞬間、意識が戻されると小桃が心配そうに顔を覗き込んで来ていた。
「わっ!?悟空っ、戻って来た?で当てるのかな…」
「小桃、顔が近い」
「ご、ごめんっ!!!」
小桃は顔を真っ赤にさせながら俺から離れ、右隣に座っていた沙悟浄が声を掛けてくる。
「俺達には文字が見えなかったんだが、悟空だけには読めたんだよな?」
「あぁ、厄介な事が起きてるって事が書かれていた。俺も詳しくは知らねーから、話を聞いた後に質問してくんなよ」
「…?よく分からないが…、分かった」
「んじゃ、説明すんぞ」
俺は沙悟浄達に金蝉の死にも関わったシヴァの存在、シヴァが天帝と美猿王の二人を使って、何か企んでい
る事を説明した。
沙悟浄達は目を点にさせて、口をパクパクさせている。
そりゃそうだ、自分達が知らない存在が天竺に居るんだからな。
「アンタは何者だ?加護の儀式の時、俺の器を神木で出来た物と取り替えたと聞いた。牛鬼側のアンタが、そんな事をする理由が分からない。牛鬼が命じたのか、アンタ個人が動いたか、どっちだ」
「おや、その事まで書かれていましたか。俺…、いやもう私に戻して良いですね。私個人の判断で、悟空様の器を変えさせて頂きました。私、白沢は神獣と呼ばれる生き物の分類に入ります。貴方の事はよく、金蝉様から聞かされておりましたよ」
「金蝉とアンタの関係をどうこう聞くのは後にする。牛鬼に付いていたのにも、何か企んでの事だろうし。俺の所に来たのは、書物を渡しに来ただけじゃねーよな」
そう言いながら、目の前に居る白沢に視線を向ける。
白沢はもう一つ、俺に何か言いたい事があって来た筈だ。
「俺等が居そうな場所を雨桐から聞いたんだろ、白沢」
「ええ、私は生前の金蝉様にお仕えしておりました。神獣と言う生き物は義理堅いもので、主人が望んでいる事を叶える事が私の使命です。悟空様、私はそこ等の神獣よりも位が高い。悟空様、貴方だけでも天竺にお連れしたいと思い、貴方様を迎えに参りました」
「俺達四人が天竺に行かないと意味がねーんじゃねーのか」
「今の金蝉様は心身疲労が酷い、すぐに動けるかどうか分かりません。貴方様だけでも、天竺に近い距離に居た方が良い。悟空様も、そうお考えでは?」
「「そうなのか!?」」
俺と白沢が話していると、沙悟浄と猪八戒の大声が重なった。
「やはり、釈迦如来を裏で操っていた人物が居たんだな」
鳴神に肩を借りて歩いて来る鳴神が、俺達の方向に向かって歩いて来ているのが見える。
「すまない、話は聞かせてもらった。釈迦如来の思考は、奴の本心だろう。加護の儀式にお前達に与えた神力は、恐らく微々たるものだ。だが、悟空だけは俺達よりも遥かに強大な神力を感じたのは、そこに居る白沢の仕業だったとはな」
「貴方達だけでは頼りないので、私一人…、いや悟空様も知っている兄妹も動いて居ますね。シヴァと言う存在には気付いておりませんが、兄の方は頭が良い。盲目の中、彼等の光は目の前に居る神ではなく、貴方様を光にしておられる」
「経文を五本集めれば、争わずに世界を塗り替える事ができ…」
「そう言う事じゃねーよ、如来」
如来と白沢の会話に割って入り、俺は如来の言葉をわざと遮った。
「塗り替える事は出来るだろうよ、シヴァのどうにかしない限り同じ事の繰り返しになる。一回目の時がいい例だろ。何も変わらないんだよ、塗り替えるだけじゃ」
「悟空の言う通りだ。歴史が残されるように、俺達の代で変えねーといけねぇ。神も妖も人も考え方を変えないと、何も変わらな…」
ドォォォーンッ!!!
「「「っ!!!?」」」
親父が話をしていた時、俺達の体に重圧が掛かり、押し潰されるような感覚がした。
【俺の遊びを邪魔する気カ?猿共】
ドスの効いた男の声が聞こえ、視線を空に向けると、
巨大なシヴァの幻影が俺達を見下ろしていた。