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子供達に案内された南大通りにはいつの間にやら屋台が立ち並んでいた。
公園に来た時には並んでいなかったことを考えると、この3時間の間に屋台を運んできたか、もしくは組み立てたのだろう。ちょうど料理を作っている最中なのか、屋台から食欲をそそる香りが漂ってきた。
屋台は大通りの両端に10軒以上は並んでいる。私ならば全ての屋台を回ることも可能だが、料理を見たところ、1つずつ注文すれば子供達の空腹を満たせるぐらいのボリュームがある。
子供達が満腹の状態でそれ以上食べられない時に私が複数の料理を食べているというのは、悪辣が過ぎるというものだろう。
ここは子供達のオススメを一緒に食べるのがベストな筈だ。
「皆のオススメはどの屋台の料理かな?」
「ここで並んでるのは全部美味いんだけどな、1番のオススメはコロッケだぜっ!」
「えーっ、クリームシチューでしょー?」
「何言ってるのよ!コロッケのサクサクもクリームシチューのトロトロも楽しめるクリームコロッケに決まってるじゃない!」
「オレのオススメは焼きパスタ!外はパリパリで中はモチモチだぞ!」
「焼きもろこし、美味しいですよ?」
うん、なんとなく察してはいたが、見事なまでにバラバラだな。さて、どうしたものか・・・。
いっそのこと全部頼んでしまうか?一応確認してみるか。
「マイクはここに並んでいる料理は全部美味いと言っていたけど、他の子達は嫌いなものや食べられないものはあるかな?無ければ全部2つずつ頼んで皆で取り分けて食べようか」
「いいのっ!?やったぜっ!」
「「「さーんせーっ!!」」」
「ノアお姉さん、ありがとうございます」
うんうん、喜んでいるようでなによりだ。勿論、代金は私が出すとも。たくさん食べて大きくなると良い。
そうと決まれば早速料理を買いに行くとしよう。
何せ正午の時間には売り切れになるほどなのだ。直ぐにでも行列ができてもおかしくは無い。現に周囲に意識を向けてみれば老若男女問わず屋台に集まり始めている。私も急ぐとしよう。
それぞれの料理を2品ずつ購入して、私達は再び公園に戻ってきている。先程魔力のレクチャーをしていた場所で食事を取ろうと思ったのだ。
現在料理はすべて私が持っている。なに、『我地也《ガジヤ》』で薄い板を作りお盆代わりにして料理を載せれば、持ち運びは容易だ。
『我地也』を再び使用して地面から石の机と椅子を作り上げて机にお盆ごと料理を乗せる。勿論、ちゃんと椅子の大きさは子供達が机に乗せた料理に手が届くサイズにしてある。
そして、机の表面とお盆の裏は真っ平らだ。簡単に滑るだろう。しかしこのままでは皆でそれぞれの料理を食べるのは少し不便だ。
そこで机を少し加工することにした。お盆の真ん中に穴を開けて、机の中心にその穴とほぼ同じ大きさの突起を作ったのだ。
お盆の穴に突起をはめるようにすれば、お盆がずれることなく机の上を回転させられる。これなら欲しい料理を自分の正面まで回転させて料理を取りやすくなるだろう。
ちなみに、お盆を作る時も机と椅子を作る時も『我地也』を使用した際には子供達から歓声が上がっていた。目に見えて魔術だと分かる現象を発生させたからな。こういった反応も予測はできていた。
「さて、食事を取りながら私の冒険者としての活動の話でもしようか」
「待ってましたーっ!」
「「やったああーっ!聞かせて!聞かせて!」」
「結構噂になってたわよ!毎日とんでもないことをしでかしてたって!」
まさかクミィにも伝わってしまうほどに噂が広がっていたとはな。悪い噂では無いと信じよう。悪い噂だったのなら、こうまで子供達から慕われてはいない筈だ。自信を持とう。
では、食事を取りながら私のこれまでの3日間の活動をこの子達に話していくとしようか。
「…とまぁ、そんな感じで一掃してしまってね。”上級《ベテラン》”の冒険者達からはまさしくドラゴンブレスだ、などと言われてしまったよ。ただ、私にとっての問題はその後でね。残った真っ黒な灰をどうしようかと少し悩まされることになったよ」
「スッゲェーーっ!魔物の大群をブレス一発で全滅させちゃったんだーっ!」
「ノア姉ちゃんがブレスを使うところ、見てみたかったなーっ!」
「あまりお勧めはしないかな。何せその場にいた”上級”冒険者ですらとても熱そうにしていたからね。きっと火傷では済まなくなってしまっているよ」
「うひゃぁああ。やっぱり竜人《ドラグナム》ってすっごく強いんだなぁ…」
ゆっくりと食事を始めてからおよそ3時間半。魔物の大群を屠った話をする頃には全ての料理が私達の胃袋の中へと収まっていた。
子供達に特に人気だったのは、やはりワイバーンを仕留めた時の話と魔物の大群を屠った時の話だ。
前者は”上級”冒険者の一行ですら苦戦が必須の魔物であり、単独で斃せるものならば間違いなく”星付き《スター》”以上の実力があると言われているからだろう。
そうでなくとも純粋とまではいかなくとも竜の因子を持った魔物なのだ。冒険者としては憧れる対象なのだろうな。
そして後者。こちらは先述したワイバーンのブレスを遥かに上回る、冒険者達がドラゴンブレスと判断するようなブレスを使用したのだ。ドラゴンに憧れの感情を抱くのは、子供達も一緒だということか。
「まぁ、私の冒険者の活動はこんなところだね。楽しんでもらえたかな?」
「「凄かったーっ!」」
「魔術師ギルドに見せた魔術とこの机や椅子を作った魔術って同じ魔術なんですね。全然想像つかないや」
「面白かったわっ!ねぇノアさん、アタシもっといろんな魔術が見たいわっ!」
「オレもーっ!キラキラしたやつ見たーいっ!」
話の最中に効果を最小限に抑えて魔術を使用していたからか、魔物と戦う話以外でも楽しんでくれたみたいだ。
特に、『我地也』を使用してガラスを作った時の反応が凄かった。今回作ったのはガラスの容器ではなく、黄色で透明な手のひらサイズのワイバーンだったからな。クミィを含めた全員が喜んだようだ。
とはいえ、今現在透明なガラス細工はまだ高級品だ。こんなものがあると知られれば騒ぎになってしまうのは想像に難くない。子供達には申し訳ないが、ワイバーンのガラス細工は消去しておこう。
余計なトラブルを避けるため、子供達には私達だけの秘密ということにしてもらった。
断られるかと思ったが、快諾してくれたので助かった。共通の秘密を持つという響きに魅力を感じた、と言ったところか。
それはそれとして、クミィとシンシアから魔術のリクエストが入ってきた。”キラキラしたやつ”、と言うのは先程のガラス細工のような物のことを言っているのだろうな。
周囲を気にしてみれば特に人の気配は無い。巨大な物を作らなければ目立つこともないだろう。
食事のために作った机と椅子を消去して、お盆の上にガラス細工の人形を5体作り上げる。人形の造形モデルは勿論、ここにいる子供達だ。透明にしてはいるが、無色では無い。髪、肌、服の色を子供達と同じ色に配色している。
ガラスの人形に光が入り、複雑に煌めいている。
先程まであった机や椅子が無くなり、戸惑っている間にお盆から透明な人形が出てきたことに皆驚きを隠せていない。
“キラキラしたやつ”を要求していたシンシアがとても目を輝かせて夢中になっている。この娘のこういった少女らしい表情は初めて見たかもしれないな。
「わぁぁあっ!ねぇ!ノアさん!これ、アタシ達っ!?とってもキレイ!」
「そうだよ。だけど、本番はここからだよ」
クミィがいち早く人形のモデルに気付いたようだ。煌めく自分達の人形を見て恍惚とした表情をしている。
だが、驚くのはここからだ。人形を操作して一列に並んだ5つの人形達に手を繋げさせて単純な踊りをさせる。
生憎と踊りというものに私があまり深い知識が無いため、この程度の踊りしか披露してやることができないが、それでも煌めく人形が軽快に動く様は、子供達に衝撃を与えたようだ。みんな、人形からひと時も目を離さない。
30秒ほどの長さの踊りを10分間続けたところで4回目の鐘が鳴り出した。その鐘の音にシンシアが何かを思い出したように顔を上げる。
「あー、もう四回目の鐘が鳴っちゃったのかぁ…。帰って家の手伝いしないと…」
「何だか今日はあっという間に時間が過ぎちゃったなーっ!」
「しょうがないわよ。魔力の訓練もノアさんのお話も、とっても面白かったんだもの!それにこの人形の踊りよ!きっとまだ誰も見たことの無いものに違いないわ!」
「すっごくきれいだったよねーっ。全然目が離せなかったー」
「ノアお姉さん、ボク達も、いつか、こんな魔術が使えるようになれますか?」
ううむ、難しい質問をされてしまったな。
正直に答えれば非常に難しいと答えざるを得ない。だが、どう考えてもテッドの魔術の才能は天才のそれだ。
この子ならば、腐る事無く研鑽を続ければ、生成する物質は限られるが『我地也』を習得することができるようになるかもしれない。
少し、この子に肩入れしてみるか?
「テッド、君は魔術が好き?」
「はいっ!とっても!元から魔術は好きだったけれど、ノアお姉さんのおかげでもっと好きになれました!」
目を輝かせて返事をする。その目にはこの子ならば、と私に期待感を持たせられるだけの強い意志が宿っている。
これだけの強い意志を保ち続けられるのならば、何時かは使いこなせる日が来るかもしれないな。
うん、決めた。この子に肩入れしよう。
「テッド、魔術言語は覚えられる?」
「はいっ!本も家にあります!」
それは重畳。『格納・改』から紙束を、『収納』から数冊の魔術書を取り出して内容を紙束に複製させて、紙束を紐で纏めて本にする。その本に最近習得した『施錠《ロック》』を掛けておく。
この『施錠』と言う魔術、文字通り鍵を掛けて閉じた物をあかないようにする魔術である。
解除用の魔術『開錠《アンロック》』を用いることで容易に解除できるのだが、魔力を操作して強引に解除することも可能である。
私は複製した魔術書に魔術の難易度に応じて複雑な『施錠』を掛けてテッドに渡すことにした。取り出した魔術書の中で最も難易度の低い魔術『成形《モーディング》』の魔術書をテッドに手渡す。
「その魔術書がどういう状態になっているか、テッドには分かるかな?」
「えっと、本が開かないように魔力の板で閉じられていますね?」
「そうだね。本を開かないようにするための魔術、『施錠』を掛けたんだ。どうすれば開けられると思う」
「うぅんと…板に入っている線に魔力を流し込む、とか…?」
素晴らしい。『施錠』の状態を意識せずに見破るどころか、解除方法までも即座に分かってしまうとは。テッドの頭を優しく撫でて褒めておこう。
「良くわかったね。正解だよ」
「あ、ありがとうございます。えっと、ノアお姉さん、この魔術書は…?」
「テッドに譲るよ。魔力を操作して本を開くことができたら、読んでみると良い。貴方ならば直ぐに習得できる筈だよ。記された魔術は『成形』。私が見せた魔力の剣を作った魔術だよ」
「ええぇーっ!?テッド!それ、俺にも見せてーっ!」
「僕もみたいーっ!」
まぁ、そうなるよな。マイクやトミーは私が見せた魔力の剣にとても目を輝かせていたのだ。その魔術が記された魔術書は是非とも目を通したいのだろう。2人に言い寄られて流石にテッドもたじろいでいる。
「うぅ…2人とも、ごめんね。今のボクだとこの本を開くこと、できそうにないや…」
「そっかー、開けないのか―。なぁ、ノア姉ちゃん、どうしてテッドに開けない魔術書を渡したんだ?」
「多分、魔力を操作する訓練なんだと思うよ?この本を開くことができれば、この魔術も十分に使うことができるってことじゃないかなぁ」
「テッドは頭の良い子だね。そういうことさ。まずは本を開けるようになってから、だね」
続けて複製させた残りの魔術書も渡していく。子供が持つにはちょっと重いだろうか?うん、大丈夫そうだな。
「今渡したのはより複雑な『施錠』が掛けられているよ。渡した本を全て開けるようにして、魔術書に記されている魔術が使用できるようになった時には、きっとテッドが憧れる魔術師になれているよ」
「あ、あの、ノアお姉さん、魔術書って、物凄く高価な者なんじゃ…」
「気にする必要は無いよ。白紙の紙に私が写しただけのものだし、紙自体はタダ同然で手に入れたんだ。テッドが魔術に対する情熱を失わないというのなら、喜んで譲るとも」
「ありがとうございますっ!ボク、きっと立派な魔術師になって見せます!」
魔術書を抱きしめてテッドが頭を下げる。このやる気が続くのなら、いつかきっと、『我地也』も使いこなせるだろう。
テッドに渡した魔術書の中で最も厳重な『施錠』を掛けた魔術書は、何を隠そう『我地也』の魔術書だ。
空いている時間に暇潰しで私が作っておいたものだったのだが、まさかこんな形で使う時が来るとは思ってもみなかった。
「テッド、魔術が使えるようになったら俺達にも教えてくれよな!」
「1人だけ使えるなんて無しだよー」
「勿論だよ!みんなでいろんな魔術を使えるようになろうね!」
仲が良いようで何よりだ。このままこの子達には健やかに育ってもらいたいものだな。そして願わくば、”楽園”に来ることになったとしても、”楽園”に不届きを働かないように育って欲しいものだ。
「ノア姉チャン、オレは家に帰るけど、ノア姉チャンはどうするー?」
「そうだね。私も一緒に帰るとしようか。尻尾に乗る?」
「んー…やめとく!今日は全然走れなかったからな!走って帰る!ノア姉チャン、競争しようぜ!」
今日は特に依頼を受注したりもしていないし、一度宿に帰って服が仕立て終わる予定の夕方になるまで待機しておくとしよう。エレノアの予定も確認できたことも伝えておきたいしな。
最初に会った時に喜ばれたのでシンシアを尻尾で持ち上げて帰ろうかと思っていたのだが、この娘は走るのが好きなようだ。今日はまともに走ったことが無いため、走って帰ると言われてしまった。
シンシアは多分、同じ速さで誰かと走ったことが無いと思う。あったとしてもかなり少ない筈だ。
私ならば一緒に走ってくれるという信頼を感じる。その気持ちを無下にしてシンシアを落ち込ませるのは私の趣味じゃない。
他の子供達に別れを告げたら、周囲に気を配りながらシンシアと一緒に宿まで走って帰るとしよう。
「えっへへぇっ!やっぱ、ノア姉チャンはスゲェや!オレより速く走れる人、初めて見たぞ!」
「シンシアも凄かったよ。でも、もう少しだけ周りに気を遣おうか。3回ほど人にぶつかりそうになっていたよ?魔力を使って走るのは、もう少し魔力を上手く操作できるようになってからにしようね」
「うん、分かったー。ノア姉チャン、ぶつかりそうになった時に助けてくれてありがとうな!」
シンシアの足の速さには正直驚愕を隠せない。
なにせこの娘の走る速度は、魔力を使用したとはいえ大人の男性どころの話では無く、”中級《インター》”の冒険者すら追い抜くほどの速度を叩き出したのだ。正直異常とすら言える。才能だけで片付けられる話では無いだろうな。
それはそれとして、まだ魔力を使った際の制御がろくにできていないせいか、後ろを向いているわけでは無いのに通行人にぶつかりそうになっていた。
今のシンシアの全速力で一般人にぶつかってしまった場合、確実にぶつかった相手に怪我を負わせてしまうだろう。そのためなるべくこの娘に並走して尻尾で体を押すことによって軌道修正をしていたのだ。
その後、五回目の鐘が鳴る頃まで宿の一階広間で複製した本を読みながら時間を潰し、鐘が鳴ったらフウカの店に赴き服が出来ていないか確認しに向かった。感覚からしてフウカは裁縫室にいるようだ。
驚いたことに扉の前に立った時点で凄まじい速度で奥から扉まで人が移動してくる気配を感じ、そのまま扉が開かれた。
扉が開かれるなり、恭しく頭を下げながらフウカが私に挨拶をする。
「お待ちしておりました。ノア様、ようこそお越しくださいました」
「待っていた、ということは、宣言通り1セットは完成したとみて良いかな?」
「はい、試着室に用意してあります。早速ご試着なさいますか?」
「うん、是非とも袖を通させてもらうよ」
これは朗報だ。試着もできると言うので、早速着させてもらうことにしよう。
それはそれとして、屋内にいながら屋外にいた私の気配を感じ取り、シンシアすら軽く凌駕する速度の移動で扉の前に音もたてずに来た辺り、どうやらフウカは只の服屋の店主では無いようだ。
今更だが、この辺りにある衣服の全てがフウカの魔術によって作られたものと考えると、彼女は下手な冒険者を遥かに上回る実力者と考えるべきだろう。
尤も、私に関係することでは無いので一々言及はしないが。
試着室に足を運べば、黒をベースとした紫と緑の光沢を放つ衣服がトルソーに着せられていた。
一言で言って美しい。この美しさはフレミーが自分の糸で作ってくれた服に迫るものがある。
トップは私の注文を優先してくれたようで肩甲骨が露出している。これならばたとえ緊急事態が発生して翼を展開することになっても服を破壊しなくて済むだろう。腰の部分はしっかりと尻尾を通す穴も開いている。
ボトムはロングパンツの形状だ。だがシンシアが好んで着るような余裕のある作りとは正反対に体に密着して、ボディラインがハッキリと分かる構造となっている。
軽く手で触れてみればその触り心地は相変わらず肌に吸い付きながらも滑らかな感触を与えてくれる極上の触り心地だった。
これを、私のために作ってくれたのか。ただただ光栄で嬉しいことだな。早速袖を通してみよう。
着心地も実に素晴らしい。サイズもぴったりだ。露出を控えながらも動き易さも確保してくれている。以前服を買わせてもらった時もそうだが、本当にいい仕事をしてくれる。
叶わないことだろうが、フレミーに会わせて衣服の製作で切磋琢磨して欲しいぐらいだ。まぁ、フウカが私の家に来た場合、家の皆を見ただけでショック死してしまいそうだが。
試着室から出た私を見て悶絶しているフウカに礼を言って、残りの服も期待していると伝えてから店を出ようとしたのだが、フウカに慌てた様子で止められてしまった。
「大変恐れ入りますがノア様、お1人でその御姿で外へ出るのは控えた方がよろしいかと」
「理由を聞いても良いかな?」
「自分で仕立てておいてなんですが、あまりにも美しいのです。今のままノア様が街中を歩けば、誰もがノア様から目を離すことができなくなってしまうでしょう。それはノア様の望むところではないかと存じます」
なるほど。初めて街を訪れた時よりも更に酷いことになるというわけか。確かにそれは私としても望んではいない展開だ。
ましてこれから人が大勢集まる場所で食事を取るのだ。目立つなんてものじゃないだろうな。
残念でならないが、この服を着るのは明日以降の食事会までお預けとしておこう。
それから宿に戻ってからは早かった。夕食の支度の手伝いが終わったシンシアとジェシカの3人で6回目の鐘が鳴るまでおしゃべりをして過ごした。その際にエレノアの予定が取れたことも説明している。
食事会は早速明日の昼に行うことになった。夕食後には図書館に向かうので、その時にエレノアに伝えておこう。