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48 ◇早坂絹
涼の結婚話がご破算になったという話を聞いた日から早いもの干支で
例えるならば一回りしていて、12年の月日が過ぎていた。
そしてここ最近の話で……絹は珠代からいろいろと話を聞かされている。
『温子さんみたいな人が兄の奥さんになってくれたらいいのに』
という呟きを聞いたことがあった。
まだ温子が寮に入所してまもなくだったからそれほど深刻というものでも
なかったが、それを聞いて絹は珠代が好感をもっている女性なら、と
一肌脱げればと考えるようになる。
そんな中、それはちょうど珠代から温子の話を聞かされた数日後のことだった。
重い買い物の荷物を持って歩いていると、後ろから来た温子が
「重いでしょ」と言い、寮の部屋の前まで持ってくれたことがあった。
また工場で怪我をした時には、夜、寮の部屋まで訪ねてくれてわざわざ
包帯を取り替えとくれたりしたことがあったりと……ますます
自分の息子の嫁にしたいくらいに温子に対して絹の好意は広がっていった。
残念なのは、我が息子にはすでに妻がおり、孫も産まれていたことだ。
だから、息子の次に大切に想っている社長の北山涼のために
人肌脱ごうとする気持ちが強くなっていった。
絹は工場の敷地内にある畳6畳分ほどの土地を畑として昔から耕してきた。
畑を無償で貸してもらっている代わりに、たくさん採れたりすると
北山の家にお裾分けしたり、仲の良い工員仲間にあげたりしてきた。
年がいってからはよく珠代や涼が畑を覗いては手助けしてくれる。
そこで閃いたのが温子と涼とに一緒に畑仕事を手伝ってもらって親睦を
深めてもらい、ついでに愛を深めてもらおうという作戦だった。
珠代や温子たちが4人で祭りに行った日から遡ってみると、それまでに
温子と涼はいつもふたりして絹から畑仕事を手伝ってほしいと頼まれて
すでに4回ほど駆り出されていた。
天気がよくてお日様の強烈な日差しを浴びてわっせわっせと夏野菜の種を
植えたり、収穫したりと汗水たらして年寄りの絹の手伝いをしていたので
ある。
『暑いわぁ~。ふたりとも麦茶をたくさん作ってるから飲んでよ』
なんて、絹の声掛けを聞きながら一生懸命キュウリをもいだり茄子を
もいだり。
ある時などは絹と温子は涼の好きそうなおかずを入れて3人分の弁当を
作り、食事を摂る時は会社の応接室を使い3人で弁当に舌鼓をうったり
ふたりどころか3人、大いに親睦を図っていたのである。
――――― シナリオ風 ―――――
(回想)
涼と志乃の切ない別れから約12年。
絹(N)「珠代から兄を心配する声を聞いている。
珠代の願いは兄と温子が結ばれることらしい」
絹(心の声)「珠代と涼のために何かできることがあれば、協力してやりたい」
母のように彼らを見守るやさしい眼差しがあった。(回想終わり)
珠代の願いを聞いた数日後のこと。
たまたま絹は買い物帰りに温子に声を掛けられる。
温子が、絹の持っていた荷物を半分部屋の前まで持ってくれた。
また或る時は、怪我をした絹のことを心配して労わってくれて……。
絹も珠代同様、温子に好意を抱くようになる。
絹(N)「ちょくちょく珠代や涼に畑仕事を手伝ってもらっていることか
ら、絹は涼と温子を取り持つのに、温子にも畑の作業を手伝ってもらえば
いいと閃く」
〇工場の敷地内にある畑/快晴の日]
畑―――広さは6畳分ほど。
3人で茄子やキュウリを収穫中。
絹(麦茶を差し出しながら)
「はいはい、ふたりとも。ちゃんと水分とってね~!」
温子(汗を拭きつつ)
「今日の日差し、強いですね……でも、いい運動になります」
涼(袖をまくり)
「これだけ採れたら、北山家の食卓も潤うな」
絹(心の声)
「いい感じ……。
ご縁がうまく繋がるといいのに―――――」
絹の要請で温子と涼は、祭りの直前まで4度ほど絹の畑の手伝いをして
絹の思惑通り、親睦を深めていた。
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