「最近、春らしくなってきたよね」
そんな他愛も無い会話を帰り道を共に歩く畑葉さんと交わす。
「春…」
「雪はまだ残ってるし、小寒い気はするけど」
「前よりは暖かくなってるし」
そう言えど、畑葉さんからの返事は無い。
「そういえば今日ひな祭りだって知ってた?」
「ひな祭り?」
やっと返してくれた。
全然返事してくれないからてっきり無視でもされてるのかと思った。
「ひな祭りって何するの?『祭り』って着いてるから夏祭りみたいな感じ?」
そう言いながら少しワクワクに満ちた目を向けてくる。
でも残念ながらひな祭りと夏祭りは違う。
「ううん、全然違う」
「じゃあ何?」
そう言いながら畑葉さんは口を尖らす。
それを見た僕は少しの笑いを堪えながら
「ひな祭りはね、女の子が元気に育ってくれてることを感謝したり幸福を願う行事なんだって」
そう説明する。
が、畑葉さんはいつも通り『ふ〜ん…』と興味無さげな返事を返してくる。
「だから久しぶりに桜の木の丘でピクニック的なことしない?」
「ピクニック?!する!!絶対する!」
『ピクニック』と聞いて明らかにさっきのテンションと全く違う。
「パーティってことは何か食べるよね?」
「うん…まぁ、」
「やった!!」
ちらし寿司とかひなあられとかとか…
色々食べる…
が、多めに作らないと畑葉さんに全部食べられちゃいそうだなぁ…
そう一人そんなところに不安を持つ。
「そういえば最近、学校でさ『バイト』流行ってるじゃん?」
「古佐くんは何かバイトしてないの?」
流行ってるっていうわけではないと思うけど…
そう心で微笑を浮かべながらも
「してるよ」
なんて答える。
「え?!してるの!?」
そんな驚かなくても…
一瞬心でそう思うが、
たしかに畑葉さんにバイトのことを話した覚えは無い。
「そんなの聞いてない!!どこで?!」
「だって聞かれてないし…」
「そんなことはいいから!!早く!!場所は?」
「…僕の家の近くのお花屋さんだよ、」
少し照れながらそう言う。
だってバイトっていったらコンビニだとか飲食店だとかそういうの聞くけど、花屋は聞いたことないから。
「ほぇ〜…なんか古佐くんらしいね…」
謎の声を出しながらもそんなことを言う。
そんな中、畑葉さんが発した謎の声『ほぇ〜…』を聞いた僕は可愛さに悶えていた。
「そういえば古佐くんの家って植物園みたいだったしね」
「もしかしてその植物たちってそのバイト先の花屋出身とか?」
なんで分かったんだろう…
いや、普通に分かるか…
1人心で不思議ながらも、解決する。
「そうだよ」
「やっぱり!!でもなんでお花は飾らないの?」
「お花は匂いとか枯れたりとかでお世話が大変だから…」
「あ〜…確かに……」
そんな会話を交わしていると、
いつの間にか僕は家に着いていた。
「あ、着いちゃったね…」
「じゃあ7時にいつもの場所でピクニックね!!待ってるから!」
そう言いながら僕に手を振り、
帰っていく畑葉さん。
待ってると言っても実質あの大きな桜の木が生えた丘は畑葉さんの家らしいが。
いや家というより住処と言った方が正しいような…
そう思いながら家に入る。
「ぇ、時間無いじゃん…」
もちろんちらし寿司を作るのは僕の仕事。
母さんと父さんは、今お仕事中だから。
ピクニックは別に夜でも良かったんだけど、
夜だったらその仕事は母さんの手に渡ってしまう。
仕事で疲れてるのにわざわざ作ってもらうなんて何だか申し訳ない気分になる。
「作るかぁ…」
そう呟きながら一人黙々とちらし寿司を作る。
しかも大量に。
「凝りすぎたかな…」
自分でもそう思う。
なぜなら重箱に『Theひな祭り』という料理を詰め込んだから。
しかも5段。
大体5段目は神様からの福を入れる場所として空けておくんだけど、それじゃあ全部入り切らなかった。
ごめんなさい神様…
「とりあえず完成かな…」
1〜3段目にはちらし寿司を。
4段目にはひなあられと菱餅。
そして5段目には畑葉さんが大好きなアレ。
そう。
桜餅だ。
そして最悪なことに1つの問題が起きた。
しかも時間が迫っている時に限って。
「これどうやって運ぼう…」
僕がそう心配しているのは重箱の方ではなく、ハマグリのお吸い物の方であった。
いつか使うと思って買っておいたハマグリ。
大量に作ったはいいものの、
運び方を考えるのをすっかり忘れていた。
「タッパーに入れるとか?いや、すごい量になりそう…」
そう呟きを零しながらも必死に解決策を考える。
が、何も思いつかない。
それで何を思ったのか僕は
「鍋ごと持ってちゃえばいっか!」
なんて馬鹿なことを思いつく。
「行きは重くても畑葉さん全部食べてくれそうだし!帰りは軽くなるよね!」
今なら言えるが、この時の僕はちょっとどうかしていたのかもしれない。
「古佐くん遅いよ───」
「って、何?その大荷物…」
来るまでに色んな人とすれ違ったけど、
すごい恥ずかしかった…
というか明らかに引いた目で見てたし…
まぁそうだよね。
大鍋と重箱を抱えた人がどこかに向かってるところを目撃したら何かの事件性があるとか疑っちゃいそうだし。
コメント
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凄い解決策取ったね!?