「美味しい?」
「うん!!」
案の定、畑葉さんはガツガツと僕の作ったちらし寿司やらなんやらを食べていく。
これで僕の帰りの不安は無くなった。
「私これ好き!!色とりどりで綺麗だし美味しいし!!」
そう言って今も尚食べているちらし寿司を見せつけてくる。
「美味しいよね〜…」
「あ、そういえば知ってる?ちらし寿司に入ってる具材に意味があるらしいよ」
「意味?おせちみたいな感じで?」
「そ、」
「例えば錦糸卵は『金運アップ』とかの意味があるんだって」
「へ〜…」
「全部知りたい!!」
全部…
おせちの時も思ったけど畑葉さんって結構『知ること』が好きみたい。
「海老は長寿」
「なんで?」
「腰が曲がるまで生きようって意味らしいよ」
「腰が曲がるまで…嫌だなぁなんか…」
そう不満を漏らす畑葉さん。
「人参は『根を張るように』」
「豆は『健康でマメに働き仕事が上手くいくように』って意味らしいよ」
「豆?入ってないけど…おせちと間違ってるんじゃないの?」
それは僕も知ったとき思った。
けど、普通に彩りアップのためらしい。
「彩りアップのためらしいよ」
「緑の豆だって」
「ふ〜ん…」
「枝豆?」
「かな?僕もそこはあんま知らない…」
しかも不思議なのが人参で、
色んな色があるからちらし寿司に入れる人参は意味ごとに違うらしい…
魔除は赤やピンク。
白は子孫繁栄など。
人参の色種はオレンジだけじゃないらしいし。
「私おせちのあれ好きだったな〜」
「あのグルグルのさ〜」
たぶん伊達巻のことだろう。
あの子供に人気の伊達巻。
「伊達巻ね」
「そう!それ!!」
「美味しかったなぁ…また食べたい……」
「ぁ、でももう…」
『食べたい』と言った割に急に悲しそうな顔をする。
「どうしたの?なんかあった?」
そう声をかけても『ううん、何でもない!!』といつもの笑顔を見せてくるだけ。
なのになんだか違和感を感じたのは気のせいだろうか?
「最近春らしいよね、前も言ったけど」
笑いを含め、そんなことを言う。
「雪も溶けてきて緑も増えてきたし」
「相変わらずこの桜の木は年がら年中咲き誇ってたけど」
そう言いながら桜の木を見つめ、
畑葉さんと初めて会ったあの日を思い出す。
「ねぇねぇ、それより4段目って何入ってるの?」
僕がしみじみしていると、
畑葉さんはそんなことを聞いてくる。
僕に聞かないで勝手に開けていいのに…
そう思いながらも
「開けてみて」
と返す。
「え!!桜餅じゃん!!」
「食べていい?」
「いいよ、畑葉さんのために作ったから」
そう言ったとほぼ同時に畑葉さんは『やったー!!』と喜びの声を上げながらいつものようにパクパクと食べていく。
あの日見た桜餅爆食い事件の畑葉さんのように。
気づくと重箱は全て空で。
『満腹満腹…』と言いながら寝転がり気味の畑葉さんが居た。
そういえばもう少しでホワイトデー。
あぁ、やらかした…
ホワイトデーに大きな桜餅を作ってあげようと思ってたのに今作っちゃったら意味ないじゃん..!!
でも他に畑葉さんの好きな食べ物って知らないし…
桜が好きくらいしか…
桜?
桜尽くしとか?
いやでも安直すぎるかな…
そんなことを考えながらもチラチラと畑葉さんを見る。聞いた方がいいのか否か…
聞いた方が早い気がするがなんだかホワイトデー感が無くなりそうで嫌な感じ。
「そういえばもう少しでホワイトデーだよね〜!!」
心を読んだかのようにそんな話を振ってくる。
「古佐くん、どんなのくれるんだろ…」
「楽しみ〜!!」
そんな言葉を聞いて尚更プレッシャーを感じる僕。
「あのさ!畑葉さん…」
「わっ…!びっくりした…」
「急に大きい声出さないでよ〜!!それで、なに?」
「ごめん…いや、あのホワイトデーのことで聞きたいことがあって…」
自分が思っているよりも大きい声が出てしまった。
でもいっつも大きい声を出してくるのは畑葉さんも同じだと思うけど…
「うん…なに?」
「もしかして用事が出来て渡せなくなったとか…?」
そう言いながら不安そうな顔をする。
「そうじゃなくて..!」
「今日…っていうか今さ桜餅食べちゃったでしょ?」
「うん…」
「僕、ホワイトデーで畑葉さんに桜餅を渡そうって思ってて」
「でももう桜餅は飽きちゃうかなって思ってきて…」
「それでさっき思いついたんだけど…」
「桜尽くしの日をプレゼントするってのはどうかな?」
「畑葉さんの好きなものとかあんまり知らないし…知ってるので言ったら桜くらいで…」
そう僕が淡々と喋っている間、
畑葉さんは黙っていた。
やっぱりこの案もダメかな────
「いいじゃん!!桜尽くし…!!」
「いや、別に桜餅でもいいんだけどね?!」
「ていうかそんなどうでもいいことで不安になってたの?」
「全然私は気にしないのに…」
畑葉さんが気にしなくても僕がするよ…
そう言いそうになったが、飲み込む。
こんなこと言ったって何も変化をもたらさない。
そう思ったからだ。