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私だけの1人の彼氏 第6話:少年のその後の人生、そして偽りの帰還
「逃げるんだ、大智君……この学校は呪われている」 マネージャーの先輩、小人が震える声で警告した。
バレー部のマネージャーを「おもちゃ」として扱う部長たちの闇。大智が黒幕と睨んでいた3人を、小人もまた恐れていたのだ。
「さようなら、大智君」 その言葉が最後だった。大智が振り返った時、屋上に人影はなく、ただ重い落下音が響いた。
地面に横たわる先輩の姿。
大智は拳を握りしめた。「命を道具としか思わない奴ら……俺が必ず裁く」
翌日、大智は部長や顧問の遊歌(ゆうか)に、小人の死をどう思うか問いただした。
「いい道具を失ったよ」「あぁ、忘れてた」 彼女たちの冷酷な返答に、大智の殺意は静かに研ぎ澄まされる。
大智――本名を知らぬ彼は、暗殺組織『TLBS』の最高傑作だった。4歳から訓練され、100人いた同期は5人まで減った。
武器のように扱われてきた大智にとって、この学校の闇は組織の地獄と似ていた。
「俺は殺し屋だ。道具として死ぬ人間は、もう見たくない」
そんな大智に接近したのは、女子バレー部の部員、日道順子だった。
彼女は媚薬入りの飲み物で大智を自宅に連れ込む。
殺し屋の訓練で毒には耐性があった大智だが、初めて経験する「愛の毒(媚薬)」には抗えなかった。
「なんでこんなことを……」 「大智君がいけないんだよ……」 順子は泣いていた。遊歌から助けてくれた大智に一目惚れし、彼を独占するためにマネージャーに誘ったのだという。 「好き……大好き。ずっと私だけのものにしたいの」 大智は衝撃を受けた。生まれて初めて「道具」ではなく「一人の人間」として愛された。
(これが……愛なのか? 組織がくれた賞賛とは違う、胸の奥が熱くなる感覚……) 大智は決意した。任務を捨て、暗殺者を辞め、「普通」に生きることを。
大智は組織に戻り、ボスに告げた。「俺、やめます。好きな人ができた。 普通になりたいんです」 呆気に取られる仲間たち――安藤、音村、小曽根、そして親友の深瀬。
「お前、俺を置いていくのかよ!」と叫ぶ深瀬だったが、彼もまた「普通」というものに興味を抱き、大智と共に組織を抜けることを選んだ。
ボスは、母の愛を知らずに育った大智に自分を重ね、静かに道を開けた。
「いいだろう。だが、お前が奪ってきた命の重さは一生消えないぞ」
大智は順子と結婚した。数年後、娘・愛良が誕生する。「愛する人と出会ってほしい」という願いを込めた名前。
大智は、血塗られた過去を捨て、理想の父親として生きようとしていた。
しかし、運命は再び歪み始める。 大智が1年間の長期出張から帰宅した日。
出迎えた順子の腕には、一人の赤ん坊が抱かれていた。
「あなた、おかえりなさい。この子は……あなたと私の子供であり、愛良の弟よ」 順子は慈しむような笑顔で、その子を「健」と呼んだ。
大智はまだ知らなかった。
自分が出張していた1年の間に、順子が何をしたのか。 その子が、どこから連れてこられた「奪われた命」なのかを。
殺し屋が手に入れた「普通」の生活は、最初から恐ろしい嘘の上に築かれていた。
(つづく)
今回のポイント
* 大智の人間性: 殺し屋としての冷徹さと、初めて愛を知った少年の純粋さを対比させました。
* 深瀬の登場: 2話で健の教師として登場していた深瀬が、実は大智の戦友だったという熱い繋がりを描きました。
* 順子の狂気: 一見純愛に見えますが、最終的には「健を誘拐してくる」という狂気へ繋がる伏線を際立たせています。