「みんなをご覧なさい」教室を見回すと、ざっと見てうつ伏せになっている生徒が半数以上いる。
「なぜだか、分かる?」
この人は、何が言いたいのか。
「いいこと、何事もまず足元からよ」先生は黒板の袖から出てきて、中央にいる俺の隣に並んだ。
「足は肩幅よりやや狭く」
言われるままに真似してみる。
「そうしたら、身体をふらつかさないこと。君は話している間中ずっと、身体が右、左してた」
全然、気付かなかった。
「それから、手は脇に置いたまま動かさない。かなり忙しく動き回ってたわよ」
クラスから失笑が漏れた。聞けば、両手があちこち動きっぱなしだったという。
「あの」俺は言った「もう一回、挑戦させてもらえますか」
先生はうなずいた。生徒たちも拍手で了承してくれた。
今回は身体を動かさない、両手を動かさないことだけに専念して話した。そこに集中するあまり、心臓が爆発しそうに跳ねたり、足を震わせる暇はなかった。
話し終わってそのことを言うと、先生は「ひとつ秘訣をつかんだようね」と目尻を下げ、「本に書かれたものをいくら読んでも、この秘訣はモノにできないものよ」と言った。
教室を見回した。寝ている人はいなくなったが、全員が退屈そうな顔をしている。
「なぜだか、わかる?」
俺は首を傾けた。
「奥の壁ばかり見るのをやめて、聞き手の目を見て話してみなさい。そうやって、聴衆と話し手の間に『心のベルト』をかけるのよ」
「心のベルト?」
「そう。聴衆とあなたの間に、心を通わせるのよ」
「でも、」と俺は言った「正直そんなゆとりなんかありません」
「だから?」と先生。
「だから、」と俺。
「だから?」再び、先生。
喉の奥に感じる、「だから、できません」といういつもの口癖。
クラスメイトは黙ったまま俺の顔を見ている。頭が、再び真っ白になる。首をうなだれ、額に手の甲をつく。心の中で、何かと何かが葛藤している。バイ菌と白血球、巨人ゴリアテとダビデ王、過去と未来……
う、ううう…。。。……・・・
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