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#初恋
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第4話:愛の渇望とグレープフルーツ
つわりはさらに悪化し、私は一日の大半をベッドの上で過ごすようになっていた。水すらも受け付けない日があり、喉は常に渇き、精神的にも限界を迎えていた。
(私は本当にちゃんと産めるのかな。ミヒャの完璧な遺伝子を、私のこの不完全な身体で無事に育み切ることができるんだろうか。もし、私のせいでこの子に何かあったら……)
暗闇の中、ネガティブな思考が頭を巡る。カイザーに迷惑をかけているという罪悪感が、私の心をじわじわと蝕んでいた。
そんなある日の深夜二時。猛烈な吐き気と、焼けるような喉の渇きで目が覚めた。口の中が苦くて、不快でたまらない。その時、私の脳裏に、なぜ 「冷たくて、酸っぱい、瑞々しいグレープフルーツ」のイメージが鮮烈に浮かび上がった。
「……グレープフルーツが食べたい……」
本当に、無意識の呟きだった。声にすらなっていない、ただの吐息のような掠れた音。しかし、隣で寝ていたはずのカイザーが、その微かな音を聞き逃さず、即座に弾かれたように起き上がった。
「……グレープフルーツだな。待っていろ」
「ミヒャ、いいよ! もう夜中だし、外は激しい雨が降ってる。お店も開いてないよ……」
「俺を誰だと思っている。世界最強のストライカーだぞ。お前と、俺の子供が欲しているんだ。街中の二十四時間営業のスーパーをすべてひっくり返してでも買ってくる」
彼は寝巻きの上に黒いライダースジャケットを乱暴に羽織ると、車の鍵を掴んで夜の闇へと消えていった。
*
一時間後。寝室のドアが開き、冷たい雨の匂いとともにカイザーが戻ってきた。彼の美しい金髪は夜露と雨でぐっしょりと濡れ、肩が激しく上下している。息を切らせながらも、彼の腕には、大きなビニール袋いっぱいのグレープフルーツがあった。
「ほら、買ってきたぞ。これなら食べられるか?」
「ミヒャ……ありがとう。わざわざこんな時間に、濡れながら……私のために……」
「お前のためなら、世界中を敵に回して、神の法律を破ってでも何でもするさ。さあ、横になっていろ。俺が剥いてやる」
カイザーはベッドの脇に腰掛け、タオルで髪を拭くこともせず、綺麗な指先で器用に果皮を剥き始めた。包丁を使う手元は、ピッチの上でのボールコントロールのように精密で、一切の無駄がない。白い薄皮まで丁寧に取り除かれ、一口サイズにされた瑞々しい果肉が、私の口元へ運ばれる。
口に入れた瞬間、瑞々しい、鮮烈な甘酸っぱさが広がった。その瞬間、嘘のように胃のムカムカが引き、乾いた喉が潤っていくのが分かった。
「美味しい……、すっごく美味しいよ、ミヒャ……っ」
「そうか。お前が美味いと言って笑うと、ようやく俺の心臓が動き出す」
カイザーは安堵したように息を吐くと、私の手を握り締め、自分の頬に寄せた。その瞳には、深い愛と、それと同じくらいの切なさが宿っていた。
「……なぁ、ネス。俺はちゃんと、お前の支えになれているか? お前を世界一幸せにすると誓ったのに、こんなことしかできなくて、俺は……お前が苦しんでいる姿を見るのが、何よりも耐え難い」
いつも自信に満ち溢れている「皇帝」が、私の前でだけ見せる、崩れそうなほどの脆さ。完璧な彼が、私のためにこれほどまでに必死に、泥臭く戦ってくれている。その事実に、私の内側の愛が爆発した。私は彼の首に腕を回し、濡れた髪の匂いを吸い込みながら、その唇にグレープフルーツの味がする甘いキスを強だった。
「十分すぎるよ、カイ。あなたが私の旦那様でいてくれることが、私の生きる意味なんだから。何があっても、私はあなたとこの子を離さないよ」
二人の呼吸が重なり、雨の音だけが響く寝室で、私たちは何度も何度も、お互いの存在を確かめ合うように深く唇を重ねた。
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