コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「先生は、なんでもできてしまうから……」
ダンスでの火照りを落ち着かせようと、彼女がワインの一口を飲み込んで、
「私はそんなに上手にはできないから、やっぱりちょっと恥ずかしくて……」
言うのに、「私も、それほどうまく踊れるわけでもないですので」そう返して、
「熱を冷ますのに、デッキへ出てみませんか?」と、誘いかけた。
ホールからデッキへと上がり、日が落ちて暗い海を隣り合って見下ろす。
船は波間に揺られながらゆっくりと動いていて、吹く海風が彼女の髪をもてあそんでいた──。
風に揺れる彼女の髪を片手で押さえて、もう片方の手で内ポケットを探り、しのばせていた誕生日プレゼントを出した。
彼女の手首を取って箱から出したものを巻き付けると、留め具をカチリと嵌めた。
「これって……」
驚いたように手首をじっと見つめたままでいる彼女に、
「前に私と同じ時計を贈りたいと話していたでしょう? 同じ時を共に過ごせるようにと……」
以前の約束を話して、嵌めている自らの腕時計を彼女の横へ並べて見せた。船上から仰ぐ夜空には星が瞬いていて、「はい、覚えています。あの星空ともお揃いですよね…」と、星があしらわれた時計の文字盤と空を見比べると、彼女が嬉しそうな笑顔をこちらに向けた。
はにかんで笑う顔の愛らしさを感じていると、その瞳がふと潤んだようにも見えた。
「……嬉しい。こんな豪華客船に乗せてもらっただけでも嬉しいのに、こんなプレゼントまで……ありがとう……一臣さん」
ぎゅっと腕がまわされ抱きつかれると、胸が高鳴るのを感じて、
「……そんな風にされては、我慢ができない…智香」
おもむろにドレス姿の彼女を、そのまま横抱きに抱え上げた。
「…きゃ」と、小さく声を上げるのに、そっと口づけると、もう一度腕にその身体をしっかりと抱え直した──。
「…だめ、下ろして…」
真っ赤になっていやいやと首を振る彼女に、「ちゃんとつかまっていなさい」と、言い聞かせる。
「……重いですから」
下ろしてもらおうと口にする彼女に、「あなた一人を抱いても、重たいことなどはありませんので」話して、キャビンへ向かう。
途中通りすがる人たちの視線に、「……だって、みんな見てるのに……」と、首筋にしがみついて、「……恥ずかしい……」と、横抱きにした腕の中で私の胸に顔をうずめた。
彼女の仕草のひとつひとつに愛らしさが募って、キャビンまで理性を保つのが精一杯で、中へ入るなりもつれるようにベッドに倒れ込んだ──。