「おいラクス! てめぇ何のつもりだ?」
なぜか芽生えた従順さを隠そうともしないラクスに対し、1人の男が声を荒げた。
それもその筈。ツインテールでも特に信心深く『宣教師』にまでなったラクスが、あっさりと新派閥に取り込まれようとしているのだ。仲間としては面白くない。
「あっ、ごめんなさい。私これからポニーテールになります」
『なるなっ!』
謝りながら正直に派閥変更を申し出るが、当然許可されない。
「えーっと、取り込むつもりまでは無かったんだけど……」
いきなりの申し出に、ネフテリアも困惑していた。
元々「揺さぶりがかけられたらいいなー」程度の軽い気持ちで髪型をセットして遊んでいただけなので、同志が出来ても正直困る。
しかしここで、事態をさらにややこしくする人物が動きだす。
「ふっ、貴女もこの愛らしさにやられたのよ? 仕方ないのよ。特別にテリアの僕にしてあげるのよ」
「ありがとうございますっ!」
「何勝手にわたくしの僕にしてくれちゃってんの!?」
巻き髪のポニーテール姿になったアリエッタに魅了されたパフィが、本人に無断で取り込んでしまった。
「従業員確保なのよ」
「面識が殆ど無い裏切者を確保されても困るんだけど……」
きっかけに心当たりはあるものの、出会った日に寝返る人物を信用する事は、流石に王族兼オーナーとしては難しいようだ。
しかしラクスはすっかりその気で、涙を溢れさせながら喜んでいる。
当然それを面白くないと思うツインテール派達。
「ちっ、これだから異世界ってのは信用できねぇんだ。やっぱり排除するしかねーな」
「おっと、過激なのがいますね」
穏やかでない言動に、ムームーが警戒する。
「こいつらが世界抵抗軍か。ようやく実際に拝めたぜ」
ここで前に出たのはハーガリアン。実はレジスタンスとは初遭遇である。
「おい、ハーガリアン総司令はマズイ。準備しないと勝てない相手だ」
「んな事言ってられっかよ。裏切りだぜ?」
「お前もレジスタンスか。事情をじっくり聴かせてもらわないとなぁ」
凄まれて後退ったのは、もちろんソルジャーギアの隊員。ハーガリアンの実力を知っているので、逃げ腰になっている。
その会話を聞いていたネフテリアが、突然動いた。
「【ポーズ】!」
問答無用の一時停止である。
止まったのは、逃げ腰のソルジャーギア隊員。突然声を上げたネフテリアの方に視線を向けて、そのまま動かなくなってしまった。
「こっ…これが魔法かっ! 厄介な!」
実は違うのだが、ネフテリア達はそれを訂正するわけにはいかない。
「ほほほほ。生け捕り完了。わたくし達の前で、悠長に話している暇はありませんよ?」
あえて悪役っぽく言い放ち、さらに演出の為に掌の上に魔力を発生させ、握りつぶしてみせた。
本物の魔法を目にしたツインテール派達は、目をキラキラさせる者達と、恐怖に顔を引きつらせる者達の2通りに分かれた。
ちなみに、ネフテリアは先程のようにアリエッタを抱っこしていない。すぐ後ろでパフィが抱っこしてアシストしているのだ。
(ああん、アリエッタのポニーテールが気持ちいいのよぉぉぉ)
アシストではなくモフモフしていた。
「くそっ、エーテルを握りつぶすとか、バケモンか!」
「失礼ね。エーテルは魔力と同じものなのよ。魔法のリージョンの王女たるわたくしが、エーテルを自由自在に操れるのは当然でしょう?」
『おおおおっ!』
ツインテール派達から歓声が上がった。ハーガリアンとラクスもテンションを上げて喜んでいる。
しかし、歓声を上げずにネフテリアを怯えた目で見ている者達もいる。
「今喜ばなかった人達が、レジスタンスね!」
勘と言いがかりを全開にして、ネフテリアが吠えた。
(正解じゃなくても問題なし! 疑わしきは捕獲よ)
そんなパワープレイだが、意外と効果的だった。
「くそっ、こうなったらやるしかねぇ!」
怯えていたほとんどが攻撃態勢に入った。全員ではなかったが、揺さぶりとしては完璧だったようだ。
10名程のレジスタンスがバーニアで飛び上がり、ネフテリア達を睨みつける。
「うんうん、とりあえず気に入らないから抵抗するって考えなだけあって、短慮というか何と言うか……」
「これはどうしたらいいのよ?」
「ああゴメン。パフィはアリエッタちゃんを守ってて。で、折角だから命令しちゃうけど、ラクスさんは2人を守ってくださいな」
「もっと威厳たっぷりな感じで命令していただけると嬉しいのですが……」
「えぇ……」
しぶしぶだが、ラクスがパフィ達をアーマメントで護る事になった。
ムームーがネフテリアと目が合うと頷いた。それだけでお互い通じ合っている。
そしてハーガリアンも前に出る。
「何人か部下がいるので、お手伝いいたします」
「いいけど、後ろに気をつけてね」
「?」
ハーガリアンには、その言葉の意味が分からない。
不敵な笑みを向けられていたレジスタンス達は、未知の魔法を警戒していたが、ジッとしていては止められてしまう可能性を考え、散開して攻撃を仕掛けるのだった。
「おっと、いきなりきた」
「【防魔陣】」
「!」
狙われながらも涼しい顔で観察するムームーと、これまた涼しい顔でエーテルガンの攻撃を対魔力の完全防御魔法を使い、まとめてあっさり防ぐネフテリア。ここは異世界側の力を見せつけて、ねじ伏せてみようという魂胆である。
「さて、わたくしにはエーテルの攻撃は通用しにくいけど、どうするのかな?」
胸を張り、強者らしく自信満々にマウントを取り始めた。
その姿に、レジスタンス達は困惑と絶望を顔に滲ませ、離れて見ているツインテール派や一般人達は羨望と興奮を露わにし、ハーガリアンとラクスは驚愕し、そしてアリエッタは目をキラキラ輝かせていた。
表情は全く違うが、全員の考えはただ1つに集約されていた。
『これが…魔法!』
こうして、商店街で再び戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
「はー、アーマメントって色んな種類があるのね」
「エーテルしかドウリョクがないとおもっていたが、できることはマホウとあんまりかわらんな」
ソルジャーギアの資料室。ここには隊員達がトラブル対策を立てやすくなるようにと、様々なアーマメントの資料が収められていた。
知っていたら先手を打てるかもと考え、その資料を見てみたのだが……。
「過去に作られた武器だけでも無数にあるのに、日用品とか事務品とか、凄すぎない?」
「クォンも勉強してたから結構知ってるつもりだったけど、まだアレでほんの1部だったんだ……」
「ははは。クォンはまだ新人だからな。資料室も初めて来たんだろう?」
案内してくれている男性は資料室の管理人である。一応無断持ち出しをしないよう見張りも兼ねているが、必要な資料は何処にあるのか把握している為、ピアーニャ達は大いに助かっていた。
「あっ、この遠くから声を届けるアーマメント欲しいかもー」
「オマエそれもって……なにっ!?」
時々ミューゼが、ピアーニャも驚くアーマメントを見つけて、資料閲覧が中断する事もあった。
「今は総じてアーマメントと呼んでいますが、本来は戦闘用の物のみをアーマメントと呼んでいたんですよ。だからアーマメントショップと名付けているのは、そういう物を取り扱う店だけだったりします」
「ホンライのよびなは?」
「個人でも使える道具は『ファニツール』、仕事などで使う道具や大きな物は『パープリーツ』と呼ばれていたんですが、いつの間にか『アーマメント』に統一されたらしいですよ。その時代の人々がカッコイイと思うからという理由で」
「リユウだけザツだな!?」
問題はある気はするが、これを他のリージョンで使う事になった時、サイロバクラム製の道具を『アーマメント』で統一して呼ぶのは悪くないと思い、ピアーニャはこれ以上ツッコむのをやめた。
「ねぇ総長さん。これ全部覚えるんですか?」
「ムリだろ。これはさいきんつかわれていて、レジスタンスがつかいそうなモノがないか、あるテイドでしらべるしかないが……」
見た事の無い膨大な資料の中からそれらをピックアップするのは、ピアーニャやミューゼにはもちろん、新人のクォンにも不可能である。
しかし、ここで助けが入った。
「ああ、レジスタンスが使っていると報告があったアーマメントは、総司令達が持ってますよ」
「ホントウか!?」
「たしか、使われた物と、所持予測が書いてありますね」
レジスタンスの存在は治安に影響が出る可能性があるので、遭遇した隊員から情報を集め、可能な限り情報をまとめていたのだ。隊員の中にレジスタンスがいる可能性も含めて。
「ではハーガリアンにあいにいこう!」
「総司令は今出かけてますよ?」
「えぇ……」
ハーガリアンは現在ネフテリア達と共に行動しているが、男性は出かけているという情報しか知らないので、現在地は分からないままとなった。
一気にテンションが下がるピアーニャだが、男性は言葉を続ける。
「私も一緒に資料制作したので、ある程度は知ってますよ」
「スマンがおしえていただきたい!」
ピアーニャが思わず男性の足に縋りついた。
男性は驚いたが、目をキラキラさせた上目遣いの幼女に当てられ、顔が緩む。そして了承と共に頭をナデナデし、子供扱いするなと殴られていた。
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