テラーノベル
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昼休み。
内田が廊下の窓際に立っていると、背後から軽い声がかかった。
「内田。」
振り向くと、オリバーだった。
いつもの明るい笑顔だが、どこか真剣な目をしている。
「昨日のアリスの件……穏便に済ませてくれて、ありがとう」
内田「穏便、ね」
教室は半壊しかけたが、確かに死者は出なかった。
それが“穏便”というなら、そうなのだろう。
「知り合いなのか?」
内田の問いに、オリバーは少し照れくさそうに笑った。
オリバー「うん。俺のガールフレンド」
内田「……は?」
一瞬、言葉を失う。
オリバーは続ける。
「アリス。英語表記だと――Δlice」
デルタの記号が頭につく。
「普通の生徒じゃないんだ」
オリバーの声は、いつもより低い。
「女子生徒の怪異。
普段は一階の廊下奥、青い扉の向こうに引きこもってる」
内田の脳裏に、校舎一階の奥まった通路が浮かぶ。
ほとんど人が近づかない場所。
「精神が不安定なんだ。
刺激が多いと、ああなる」
昨日の暴走。
あれは攻撃というより、反応だったのか。
内田「教師たちは……?」
オリバー「直接は触れない。触れられない、かな」
オリバーは静かに言った。
オリバー「アリスは、この“紙の世界”を上から塗れる存在なんだ」
紙の世界。
FPE。
fundamental paper education。
教室の壁。
平面的な校舎。
確かに、どこか“描かれた世界”のような違和感はある。
内田「塗れるって、どういう意味だ?」
オリバーは少し考えてから答えた。
「設定を書き換えられる。
上書きできる。
この世界の“仕様”を」
内田の背筋に冷たいものが走る。
教師たちが制度で生徒を消す。
存在そのものを削除する。
それとは別の次元で、
アリスは世界を“再塗装”できる。
内田「上位存在、ってやつか」
オリバー「たぶんね」
オリバーは窓の外を見る。
オリバー「でも、不安定なんだ。
だから青扉の向こうにいる。
刺激が少ない場所で」
昨日、内田のフラッシュで拘束された。
上位存在が、数秒とはいえ縛られた。
(カメラは……)
過去を写す。
異常を拘束する。
もしアリスが世界を書き換える存在なら。
その“上書き”を止められるのか?
オリバーがふっと笑う。
オリバー「内田はさ、ちょっと面白いよ」
内田「面白い?」
オリバー「教師たちとも違う。
俺たちとも違う。 アリスも、たぶん気づいてる」
昨日、拘束が解けた後。
アリスはカメラを見つめていた。
敵意ではなく、警戒。
(俺は……この世界の外側の匂いがするのか)
森から来た異物。
不完全な儀式で送り込まれた存在。
内田は静かに言う。
内田「その青扉、開けたらどうなる?」
オリバーは即答しなかった。
やがて、穏やかな声で言う。
オリバー「ノックはした方がいいよ」
冗談めかしているが、目は笑っていない。
廊下の奥。
青い扉。
上から世界を塗れる少女。
そして、それを数秒止められるカメラ。
FPEの均衡は、
静かに、確実に揺れ始めていた。