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「ワシの降臨じゃあ!! どけどけ人間ども! 血を寄越せ――!!」
玄関を破壊して入ってきたのは、ツノの生えた少女――血の魔人・パワーだった。
彼女は鼻をヒクヒクさせると、食卓に並んだカツ丼とリムルを交互に見た。
「おぬし……! 良い匂いがするのぉ! その肉を寄越せ! さもなくば、ワシがその首を跳ねて血を啜ってや……」
「パワー、やめろ! この方は顧問だぞ!」
アキが慌てて割って入ろうとするが、パワーは止まらない。鋭い血の爪を形成し、リムルに襲いかかろうとした――その瞬間。
『個体名:パワー。マスターへの敵対行動を確認。……**【威圧】**を0.01秒だけ解放します』
シエルさんの冷徹な宣言と共に、部屋全体の空気が一瞬だけ「凍りついた」。
パワーは、まるで巨大な捕食者の前に放り出されたカエルが生死を悟ったかのように、その場でピタリと動きを止め、ガタガタと震え出した。
「ひ、ひえぇ……! な、なんじゃ、今のは……!? 悪魔……? いや、もっと恐ろしい……」
「よしよし、大人しくなったな。ほら、お前もこれ食え。生レバー風の特製魔物肉だ」
リムルがひょいと皿を差し出すと、パワーは恐怖で涙目になりながらも、食欲に負けてパクついた。
「……!! 美味ぁぁぁい! おぬし、良い奴じゃ! 今日からワシの家来第2号にしてやる!」
「(家来が増えたな……)」
リムルは苦笑いしながら、呆然と立ち尽くすアキを見た。
「アキ、こいつ(パワー)も今日から同居だろ? マキマさんから聞いてるぞ。魔人の教育係、大変そうだな」
「……冗談じゃない。ガキ二人に、得体の知れない魔人、それに正体不明の顧問まで……。俺の生活はどうなるんだ……」
アキは頭を抱えた。だが、彼の胃袋は正直だった。シエルさんが配合した栄養たっぷりの料理によって、長年の激務でボロボロだった内臓が、まるで生まれたてのように活性化している。
『報告。早川アキの信頼度が0.5%上昇。また、パワーの魔素適応を確認。彼女は今後、人間の血を吸わなくても、マスターの供給する食事だけで十全な戦闘力を発揮できるようになります』
(「0.5%か、先は長いな。でも、シエルさん。こいつら、放っておいたら死にそうな顔してたからさ。まずはこの家を『安全圏』にしてやりたいんだ」)
『了解しました。……マスター。これより、このマンション全域に**【多重結界】および【隠蔽】**を展開します。また、監視役としてのマキマの干渉を遮断するため、偽の観測データをリアルタイムで送信し続けます』
「お、おいシエルさん? それじゃまるで俺が悪いことしてるみたいじゃないか!」
『否定。これは「プライバシーの保護」です。マスターの安眠を妨げる要因は、全て排除すべきですので』
その夜、アキが風呂から上がると、居間ではデンジとパワーがリムルの出した「ポテトチップス(テンペスト産)」を取り合って騒いでいた。
いつもなら「静かにしろ!」と怒鳴るはずのアキだったが、なぜか不思議と体が軽く、心に余裕がある自分に気づく。
「……顧問。あんた、一体何をした?」
「ん? 何もしてないぞ。ただの料理だ。……まあ、ゆっくり寝ろよ。明日はデビルハンターとしての初仕事なんだろ?」
リムルは不敵に微笑んだ。
その隣で、目に見えないシエルさんが「アキの寝室の枕を、安眠効果のある最高級素材に作り変えておきました」と事後報告してきたのは、リムルだけの秘密である。