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月の呼ぶ声

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月の呼ぶ声

3 - Dream2 消えていく夢

♥

10

2025年12月22日

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※Attention

こちらの作品はirxsのnmmn作品となっております

上記単語に見覚えのない方、意味を知らない方は

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ご本人様とは全く関係ありません





「りうら!いむ!」


待ち合わせ先の神社へ行くと、

2人はもう揃っていた。

甚平を着たり、ヘアピンを付けたり、

いつもと少し違う格好は新鮮に見える。


「いむ、今日は遅刻しないんだ」


軽い冗談を言ったつもりだった。


「去年の夏祭りも張り切って、

一番最初に来てたでしょ」


というりうらの言葉を聞くまでは。


「……え?」


いむと2人、声を合わす。

周囲のざわめきが、一瞬すっと遠のいた。


「今年が初めて、だよね……?」


いむが震えた声で続ける。


「この3人で夏祭り行くの、

今までなかったよね……?」


りうらがきょとんと目を瞬かせた。


「何言ってんの?去年もみんなで来たじゃん」


不思議そうな顔でこちらを見つめる。


「あの時だって……」


言葉を続けようとしていたりうらが

口を閉じ、視線が揺れた。


「あれ、なんでだろ。思い出せないや。

ごめん、りうらの勘違いだったのかも」


少し困った顔で笑った。

祭りの熱気とは反対に、俺たちには

どことなく重たい沈黙が落ちた。


「よし、じゃあどこから行こっか!」


その雰囲気を振り払うように

明るい笑顔でいむがそういった。

こういう雰囲気になった時、

いつもいむが周りに気を配り、

場を前に進めてくれる。


その笑顔につられて、

俺たちも、無理やり口角を上げる。


「まずは……、お好み焼き食べに行こっか」

「初っ端からそんな重いの食べるの!?

ないちゃん、このあと食べれる!?」

「え、逆に食べれないと思ってんの?」

「それは思ってないけどさ……。

じゃあ、その後射的しよ!射的!

りうちゃんには絶対勝つ!!」

「言っとくけど、りうら負けないよ?」


少しぎこちない笑い声と共に、

俺たちは屋台の灯りの方へ歩き出した。










「あと30分ぐらいで花火始まるって」


そう言うりうらの手には、

水風船、焼きそば、りんご飴、ポテト、

この祭りで手に入れた戦利品でいっぱいだ。


「ここじゃ人多いし、どこか移動する?」


いむがチョコバナナを頬張りながら、

提案した。

その様子を見て、俺はふと思い出した。


「あ、それなら……、俺、穴場知ってるかも」







「ねぇ、ほんとにこんなとこにあるの!?

さっきのところからだいぶ歩いたけど!?」


不満げに声を上げるいむに

引きつった満面の笑みを向けて答えた。


「大丈夫だって、いむ。

……俺だって来たことないし」

「ないくん。それ、大丈夫って

言えるやつじゃないよね?」


りうらからごもっともなツッコミを受けつつ

進んでいく。


俺たちは屋台の通りから神社に戻り、

さらにその奥に来ていた。

灯りもまばらな道を外れ、

草むらをかき分けながら必死に歩いている。


たぶん、この辺だ。

行ったこともないし、

地図で調べたわけでもない。

それでも、

「知っている」という直感だけが

俺の背中を押していた。


ここを抜ければ……


「……着いた」


思わず、息を漏らす。

抜けた先は、不思議なほど整えられていた。


足元の草は刈り取られ、視界は一気に開ける。

振り返ると、さっきまでいた屋台通りが

遠くで綺麗に見えた。


瞬間、ヒュ〜と花火が登っていく、

特有の音が広がった。

反射的に顔を上げると、

赤、青、金と色とりどりの花が

夜空を彩っていた。


「……綺麗」


いむが息を呑む。

りうらも空を見上げ、

眩しそうに目を細めていた。


次々に上がる花火が

3人の顔を照らしていく。


「ねぇ、聞こえた?」


不意に、りうらが小さい声で聞いてきた。


「……花火の音しか聞こえなかったけど……?」


俺の返事にいむも黙ってうなずく。

りうらは、何か引っかかた顔をしたが、

もう1度、夜空を見上げた。


俺は、その横顔が、妙に胸に残ったんだ。








その日の夢。

前日の違和感とは違い、明らかな違いがあった。


耳に届くのは、

さっきまで現実で聞いていたはずの、

花火が登っていく、あの音。


大きな月と桜。

そして、空には花火が上がっていた。


いつもなら、そこにいるのは誰か1人なのに、

今夜は3人いる。


そのうちの1人が見えた時、

考えるより先に名前がこぼれた。


「りうら……?」


どうして、というよりも早く、

もう1人――いつもは夢にいないその人が

りうらの隣に並んで、あのカフェで

聴かせてくれた歌を静かに歌い始めた。


その歌声に、

思わず胸がざらついた感覚を覚えた。


……もしかして、この人が

りうらの夢に出てくる誰か、なのだろうか。


歌い終えたりうらは、

穏やかに微笑んでこちらに振り向いた。


「迎えが来たみたいだから、

先で待っているね」



「りうら!」


そう叫び手を伸ばした頃には、

りうらと隣にいたその人の輪郭は

淡い月明かりに溶け込むように見えなくなった。







まるでこの世界に最初から

存在しなかったかのように。














翌日、りうらは講義に出席しなかった。

スマホを握りしめ、連絡を取っても、

呼び出し音が無機質に鳴るだけで、返事はない。


夏祭りの朝に感じたあの感覚……

どうやら当たってしまったらしい。


念のため、りうらが借りていた部屋の

大家さんにも連絡してみた。

けれど、返ってきた言葉は

「そんな人いなかった」の一点張り。


おかしい。

そう思い、りうらと接点のあった友人に

片っ端から、りうらについて聞いた。


「りうら?

……そんなやついた?」


その言葉を聞いた瞬間、

足元が崩れ落ちるような感覚に襲われた。


――消えている。

痕跡も、記憶も、存在も。

この世界から。





りうらは、

もうこの世界にはいないんだ。





その事実だけが重く胸にのしかかった。











「なんで……りうちゃん……」


りうらのいないカフェは、

いつもと違う店に思えた。

同じ席、同じ匂い、

何一つとして変わらないのに、

大事なものが欠けている。


俺ともう1人、この世界で俺以外に唯一

りうらの存在を覚えているいむと

カフェで合流した。


いむも俺と同じように連絡をしたらしい。

けれど、やはり返事はなかった。


しばらく、かける言葉が見つからず

ただただコーヒーの表面を見つめる。


「……いむは」


りうらが消えてしまったから、

こんな質問をしてしまった。


「いむは、俺の前から消えないよね……?」


そんな俺の問いかけに、

いむはふわりと笑った。


「……大丈夫だよ。僕はないちゃんの前から

いなくならない」


そう言って俺を安心させるように

抱きしめるいむの手は少し震えていた。


……年下に気を使わせるなんて、

年上失格だな。

しっかりしろ、ないこ。


そう考えていた自分の思考に

寒気が走った。


なんで、今、

いむを年下だと思った……?


いむは俺と同級生で、

りうらも同い年。

誕生日で考えたら、

俺よりいむのほうが年上のはずなのに。






小さな違和感は、

確実にこの世界を侵食し始めていた。






そして、りうらがこの世界にいない事実を

俺たちに納得させるように、

季節だけが過ぎていく。





夏は終わり、気づけば冬。

街には、クリスマスの気配が漂い始めていた。

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