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記憶が戻ったのに自分のことを覚えてくれているらしい不破ふわ――もとい立神たつがみに、日和美ひなみはほんの少しホッとして。

だけどはいただけませんね⁉︎とも思ってしまった。


「あ、の……たつ、が、みさん……。色々お話をうかがいたいので手、放して頂いてもいいですか?」


日和美の大好きなTLティーンズラブなんかにはよくある展開だけれど、いかんせん日和美は実際の恋愛においては呆れるくらいに初心者ビギナーなのだ。


彼氏は過去に二人。高校生の頃と大学生の頃にいないこともなかったけれど、日和美のスキルが低すぎてどちらも深いお付き合いには至らず、処女ざんねんなまま現在に至る。


交際期間一週間とか十日とかを〝彼氏がいた〟にカウントしてもよい場合の話ではあるのだけれども。


物語の中ではあんなにときめくことが出来るキスですら、どうしたらそういう雰囲気になれるのかさえ全く分からない。

いや、相手がそういう雰囲気に持ち込んでくれても、恥ずかしさが勝って思わずムードをぶち壊したくなってしまって。


ハッキリ言って、日和美は若葉マークを付けるのもおこがましいような仮免許状態なのだ。


そんな日和美の腰を、立神たつがみがグッと握ったまま離さない。


これは由々ゆゆしき事態ではないか。


な、何とかして離れて頂かなくては!


そう思う日和美なのだが。


「なぁ日和美。折角一緒に住んでるんだ。苗字で呼ぶとかもったいないと思わねぇ?」


立神たつがみ信武しのぶという男は宇宙人か何かなのだろうか。


「俺もお前のこと下の名で呼んでやってんだ。日和美ひなみもそうしろよ」


日和美の言葉を完全にスルーして、関係のない要求を突き付けてくる。


(そんな呼び方して欲しいなんて微塵も頼んでませんけどね⁉︎)


これが、今朝「いってらっしゃい」と笑顔で自分を送り出してくれたふわふわ王子と同一人物だなんて思いたくない。


「たつ……」


信武しのぶ


「……し、のぶさん……ひょっとして双子のご兄弟がいらしたりしますか?」


多分そうだ。

朝まで一緒だった不破ふわ 譜和ふわさんは、いま目の前にいる立神何某なにがしとは違う人間に違いない。


言いながら腰に回された腕を引き剥がそうと頑張ってみる日和美だったけれど、残念なことにびくともしなくて。


ばかりか――。


「まぁ実際んトコんだけど……あんた、俺のためにアレコレしてくれたみてぇじゃん?」


言われて(えっ? 覚えて……ない?)と思いながらソワソワして彼を見上げたら目の前で写真をチラ付かされた。


写真この裏のメモ。全部俺の字だから間違いねぇと思うんだけど……何かすっげぇ色々世話になってたみたいで驚いたわ。――なぁ女ってさ、実際出会ってたかだか数日で……普通あそこまで出来るもんなの? 少なくとも俺の知ってる限りじゃアンタみたいなタイプ、いねぇんだけど」


存外真剣な目で食い入るように見つめられて、ドキッとさせられてしまう。


「あそこまで……って」


「治療費とか飯の世話とか宿の心配とか……まぁそういうの諸々もろもろ


言われて、王子さまみたいなキラキラしたお顔にやられて、下心満載で尽くしましただなんて口が裂けても言えないと思ってしまった日和美だ。


「あ、あのっ、それは……」


でもだからと言ってすぐさまコレと言った言い訳も思いつけないのだからたちが悪い。


「それは?」


だが信武さんとやらはそんな日和美の誤魔化しを許してくれるつもりはないらしく――。


間近。

腰を抱かれたまま冷ややかに見下ろされて、タジタジの日和美は混乱する頭で「貴方の上に布団を落っことしてしまったので!」と、『この女、いきなり何を言い出すんだ?』と言うことを口走っていた。


「はぁっ⁉︎」


案の定、信武から眉間にしわを寄せて睨みつけられて、日和美の口から思わず「ひっ」と悲鳴が漏れる。

立神信武という男、めちゃくちゃ整った顔なだけに迫力があり過ぎてやばいのだ。

不破ふわ 譜和ふわさんの時にはふんわりした雰囲気のおかげで〝美形の破壊力〟がかなりやわらいでいたのだと、日和美は今更のように実感させられた。


でも――。

嘘ではないのだからそれを丁寧に説明するのが一番なのでは?と思い直して。

ビクビクと身体を縮こまらせながらも、日和美は懸命に説明を開始した。


「わ、私、通販でめちゃくちゃ重い綿の布団を買ったんです。それを天日干ししようとベランダに持って出て……」


うっかり下に落としてしまい、たまたまそこを通りかかった信武に直撃させてしまったこと、そのせいで信武が(一時的に)記憶喪失になってしまったこと、身元が分かるものが何もなかったのでとりあえずアパートここへ来てもらったこと……などを矢継ぎ早にまくし立てた日和美だ。


「ふ〜ん。なるほどねぇ。あー、けど……。まぁ確かに言われてみりゃーそんなことあったような気ぃしてきたわ」


途中で口を挟まれることも覚悟していた日和美に、信武は意外にも彼女が話す間は黙って聞いていてくれたのだけれど。


「あの危ない!って声はアンタのだったわけだ」


日和美が話し終わるや否やこめかみに手を当ててそうつぶやいて。


「そーかそーか。そう言うことか。けど……となるとあれだな。俺の仕事が今、めちゃくちゃやべぇことになってんのは全部日和美のせいって認識で合ってるよな?」


って続けてくるとか……本気ですか⁉︎


「し、仕事……っ?」


ヒーッ!と震え上がりながらも、日和美。そう言えば信武のことについてまだ何ひとつ聞けていないじゃない!と思い至って。


ニヤリと企み顔で笑う信武の顔を見てふるふると震えながらも、そこだけは問わずにいられなかった。


今の信武からは不破ふわと一緒にいる時に感じたような、〝ゆるふわな長閑のどかさ〟は微塵も感じられないから。


さすがに『王子さまをやっていらっしゃる』と言う妄想は綺麗さっぱり頭の中から追い出されている。


最有力候補だった〝不遇の貧乏王子説〟がくつがえされた今、日和美の中での信武の位置付けがどうなっているのかと言うと――。


(帰国子女なの鬼上司!)

に塗り替えられている。



この春いきなりふらりと本社に配属されてきたエリート商社マンな立神本部長。


配属直後の自己紹介では「立神信武です。先日ニューヨーク支社から帰国したばかりで日本にはまだ不慣れで分からないことだらけです。皆さん、どうかご教授ください。も、一日も早く会社のお役に立てるよう鋭意努力させていただきますので。よろしくお願いします」みたいにふんわりした笑顔を見せておいて。


業務開始となるや否や、美貌とやわらかな自己紹介にほだされて腑抜ふぬけた接し方をしてくる女子社員らに「に気安く声をかけてくるとか……身体を差し出す覚悟は出来てるんだろうな?」みたいに容赦ない鉄槌てっついを下す二重人格腹黒本部長に違いないのだ!


(絶対この人、僕と俺の顔を場面シーンごとに使い分けるタイプ!)


日和美が思わずそう結論付けてしまう程に、不破の時の〝僕彼〟も、立神になってからの〝俺彼〟も、やけに板についているように思えて。


日和美には、どうしてもそうとしか考えられなかった。


そうしてそれは、実は満更まんざら間違いではなかったのだと彼女自身が知るのはまだ少し先の話。



***



「俺の仕事が気になる?」


日和美ひなみが仕事のことを問うた途端、信武しのぶがニヤリと笑った。


何だかそれがすっごく不吉に思えて、日和美は慌てて視線をそらせる。


「あっ、あのっ。べっ、別に今すぐ教えて頂かなくても大丈夫……


「かも知れませんって何だよ」


自分のことなのに他人事ひとごとのように言い募ったら、目をすがめられて珍獣でも見るような視線を送られて。


そのままククッと楽し気に笑われてしまった。


「――まあとりあえず無職ってわけじゃねぇから安心しろ。治療費も保険証なしだったから結構な金額だっただろ。全額きっちり返してやるから診療明細書を俺に渡せ。あと……アレだ。立て替えてもらった服代とかもキッチリ払うからちゃんと請求しろ」


――い、いえっ。治療費の実費分はともかく全額は要らないですし、服代だって要りません……!


そう言い募ろうとしたら、まるで反論は許さないとでも言うように腰に回された腕を狭められて、日和美は思わず「ひゃっ」と間抜けな悲鳴を上げる羽目になる。


「……ホント色気ねぇな」


言葉裏腹。


チッと舌打ちをしながらも、スルリとあごを捕らえられて今にも唇を奪われそうに顔を近付けられて。


日和美は懸命に身体を突っ張ってそれを阻止したのだけれど。


まるでそれを予期していたみたいに腰に回された手でわき腹をくすぐられて、いとも簡単にふにゃりと身体から力を抜かれてしまう。


「やひゃっ!」


変な声をあげて身をよじったと同時――。


「ぁ、んんっ……!」


当然の成り行きだと言わんばかりに信武しのぶに唇を塞がれた日和美ひなみは、余りのことに瞳を見開いた。


しかも!

されたのが、あろうことか唇に触れるだけの軽いキスではなく、口中を舌でかき回すようなねっとりとした大人のキスだったからたまらない。


くすぐられて無防備に開けてしまっていた唇を割るように信武の舌に侵入された日和美はパニック状態。


経験値不足で息継ぎだってどうしたらよいか分からないし、今にも酸欠で倒れてしまいそう。


なのに、信武はそんな日和美にさらなる追い打ちをかけてくるかのようにキスをほどくなり言い募ってくるのだ。


「俺、記憶失くしてた間のこと、ほぼ忘れちまってんだけどさ……お前のことすげぇ気に入ってたって気持ちだけはみたいなんだわ。どうやら俺と一緒に住むことに関しちゃ、日和美も異存はねぇみてぇじゃん? これってお前を俺としちゃあ結構好都合なわけ。なぁ日和美。折角だからさ。お前も腹くくってそのまま俺に尽くせよ」


さらりと不破ふわからいい感じに思われていたのかも知れないと言う嬉しい発言を織り交ぜながら。

それを吹き飛ばすほどのとんでもない提案を持ちかけてニヤリと笑う信武に、日和美は唇を奪われたショックも相まって、ただただ口をパクパクさせることしか出来なかった。



そ、そもそも!

――〝ものにしたい〟って何ですか⁉︎

溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜

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