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32 ◇不器用な自分が嫌になる
そんなある日のこと、別の同級生の正夫と俺と茂とで
そろばんを習いに行く話になった。
3人で一緒のところへ習いに行こうということで話はついていたはずなのに
実際行く段になると、茂に言われた。
『前に話をしていたところへは行かない。正夫くんが別のところへ
行くらしいから僕は正夫くんと一緒にそこに行くことにしたから』
そう告げられた。
そして、自分は誘ってもらえなかった。
そう、仲間外れにされたのだ。
『どうして?』
最初は理由が分からず混乱したが、突然あの日のことが
思い出された。
そう、圭太が意地悪を言った日のことだ。
そっか、あの日のことを根に持ち、恨まれていたのかもしれない。
俺まで圭太と同じ意地悪をする奴認定されていたのだと
そこでようやく気付いた。 なんだか、悲しかった。
俺は、言ってないじゃないか!
*『僕ら今遊んでるから、お前とは遊べない』*
あれは茂が勝手に言ったことだろ。
見ていたじゃないか。
俺が一緒になって意地悪なことなど言ってなかったことを。
黙っていたからって、同罪になるのか?
子供の頃のことが鮮やかに思い出された。
********
どうして黙っていると、一緒にいる人間が言い放った事柄に対して
同罪になるというのだ。
自分は口下手で不器用で、とっさの判断をくだすことがものすごく
苦手なのだ、おそらく。
何故、皆いつもの自分の言動を知るっているはずなのに、
分かってくれないのか。
あの日だって、娘と凛子と義両親はいろいろ温子に言ったけど
俺は酷いことは何も言ってない。
なのに、やっぱり同罪になってしまっていて……。
不器用自分のことが嫌になるけど、自分が人に嫌なことを言ったり、したことのない人間なのだから、何故そういう発言はしないっていうことを分からないのか、分かってくれないのかと、それがただただ悔しかった。
恥ずかしい話、昔も今も変われない自分の不器用な性格に嫌気がさしたのと
温子にも理解されず『さよなら』と言われたことで、俺は帰る道々涙が止まらなかった。
――――― ナレーション風 ―――― おまけ ――――――
場面は現在に戻る
哲司(心の声:小学生の頃を思い―――)
「ある日、茂に誘われてたそろばん教室の話、
正夫と行くからって、俺だけ外された時も思った。
『ああ、あの時のこと、根に持たれてたんだな』って。
でも……俺、言ってない。
意地悪なこと、言ってないんだよ!
黙ってただけなのに。
どうして黙ってると、同罪になるんだろう……。
俺は不器用だ。
口がうまくない。
急に判断して言葉にするのが、すごく苦手だ。
でも、そんな俺だって……人に酷いことを言ったことなんてないのに……
なぜ、それが分かってもらえないんだろう。
温子だって、俺のそういうところ、知ってたはずじゃないか……。
それでも、彼女の中では“黙っていた”俺も“加担していた”になるのだろう。
自分が情けない。
変わりたいと思っても、昔も今も、変われなかった。
そして今、温子にも『さよなら』と言われた。
恥ずかしい話だ。
歩きながら……涙が止まらなかった」
哲司、ゆっくりと歩きながら、空を見上げる
哲司(心の声)
「それでも……
もう一度、ちゃんと“自分の言葉”で誰かに向き合えるように。
次こそは、黙ってやり過ごしたりしないように……。
そう、変わりたいと、思った」