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日本語おかしい
公になってから、空気は少し変わった。
露骨に何かを言われることはない。
でも、視線が刺さる。
「いいよね、先輩に守ってもらえて」
給湯室で、背後から聞こえた声。
振り返ると、あの人だった。
前に、僕を脅すみたいに問い詰めてきた同僚。
「別に、特別扱いじゃ……」
「へぇ?」
鼻で笑われる。
「ミスしても庇われて、評価も下がらなくて。
可愛い後輩って、得だよね」
言葉が、胸に突き刺さる。
「僕は……」
何か言い返そうとしても、
喉が詰まって、声が出ない。
「先輩だって、誰にでも優しいわけじゃない」
一歩、距離を詰められる。
「選ばれた人にだけ、でしょ?」
その言い方が、
まるで僕が悪いみたいで。
「……やめてください」
やっと出た声は、震えていた。
「何を?」
相手は、楽しそうだった。
「事実でしょ。
実力もないのに、恋人ってだけで守られてる」
その瞬間。
「――その言い方、訂正してください」
低くて、はっきりした声。
先輩だった。
いつの間にか後ろに立っていて、
同僚と僕の間に、すっと割って入る。
「彼は、仕事で評価されてます。
それを無視する発言は、聞き捨てならない」
「でも、実際――」
「“でも”は必要ない」
先輩の声は静かだったけど、
目は、完全に怒っていた。
「妬みで後輩を追い詰めるのは、社会人としてどうですか」
周囲が、しんと静まる。
同僚は一瞬言葉に詰まって、
視線を逸らした。
「……すみませんでした」
そう言って、去っていった。
僕は、その場から動けなかった。
「……先輩」
声を出すと、
先輩はすぐ振り向いて、表情を和らげた。
「大丈夫?」
「……はい。でも……」
「怖かった?」
うなずくと、
先輩の眉が、きゅっと寄る。
「ごめん」
「先輩が謝ることじゃ……」
「いや」
きっぱり言われる。
「俺の恋人が、あんな言い方されるの、許せない」
胸が、どくんと鳴った。
「会社だから抑えてるだけで」
一歩、距離が近づく。
「正直、触れたくも見られたくもない」
その言葉に、
独占欲がはっきり滲んでいた。
「……重いですか」
冗談めかして聞いたつもりだった。
先輩は、少しだけ目を細める。
「重いよ」
でも、すぐに続けた。
「それでも、手放す気はない」
その日の帰り道。
人通りの少ない道で、
先輩は僕の手を、しっかり握った。
「会社では守りきれない部分もある」
指に、力がこもる。
「だから、せめて外では、こうさせて」
「……はい」
握り返すと、
先輩は少し安心したみたいに息を吐いた。
「こえ君が傷つくくらいなら、
嫌われ役でも構わない」
横顔は、いつもより大人で、強かった。
「独占欲、抑えるつもりはある。
でも、消す気はない」
僕は、先輩の腕に少しだけ寄った。
「……先輩に選ばれたの、
誇りに思ってます」
先輩は驚いた顔をしてから、
ゆっくり笑った。
「それ、反則」
額に、そっとキス。
「じゃあ俺も、
こえ君を選んだことを、誇るよ」
嫉妬も、噂も、
正直まだ怖い。
でも。
この人の独占欲は、
僕を縛るためじゃなく、
守るためのものだって、今はわかる。
だから僕は、
この手を、離さない。