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10年くらい前。
保育園の園庭は、春の柔らかな日差しに包まれていました。
「……うう、こわい、おと、おっきい……」
園庭の隅、大きな滑り台の裏側で、小さな元貴は耳をぎゅっと塞いでうずくまっていました。今日は園の行事の練習で、太鼓の音がドンドンと響いていたのです。元貴にとって、その音は心臓を直接叩かれるような、恐ろしい響きでした。
「もとき、だいじょうぶ。おれがここにいる」
その隣に、まるで見張り番のように座り込んでいるのが滉斗でした。
5歳にしては鋭い目つきで、周囲を威嚇するように睨みつけています。彼は元貴が震え出すと、いつもこうして自分の小さな背中で、外の世界から元貴を隠そうとするのでした。
「……ひろと、ごめんね。すなば、いきたいでしょ?」
「いかない。もときが泣き止むまで、ここがいい」
滉斗はぶっきらぼうに言いながら、自分のポケットに入っていた、お気に入りの綺麗な石を元貴の掌に握らせました。
「あーっ! 二人とも、またこんなところに隠れてる!」
ひょっこりと滑り台の上から顔を出したのは、二人より三つ年上の涼架でした。
卒園を間近に控えた彼は、年下の子たちの面倒を見るのが大好きな、みんなの「お兄ちゃん」です。
「りょうちゃん……」
「元貴、お耳痛いの? 痛いの痛いの、飛んでいけー!」
涼架はふわふわとした笑顔で滑り台を滑り降りると、二人の間に割って入りました。
「ほら、これ使って? 先生に内緒で持ってきたんだ」
涼架が差し出したのは、彼が家から持ってきた、柔らかい素材の冬用耳当てでした。
「これをつければ、太鼓の音も『ポコポコ』って可愛く聞こえる魔法がかかるんだよ」
涼架が元貴の耳に優しく耳当てをつけてあげると、元貴の顔にぱっと灯がともりました。
「……すごいや、りょうちゃん! 音が、遠くなった」
「でしょ? 滉斗も、そんなに怖い顔しなくて大丈夫だよ。僕が守ってあげるから」
涼架は二人の手を引いて、立たせました。
「ねえ、約束しよう。大きくなっても、元貴が困ってたら滉斗が守って、滉斗が困ってたら僕が助ける。三人でずっと一緒にいようね」
「……おれ、もときを守る。ずっと」
滉斗が真剣な顔で頷き、元貴の手をぎゅっと握り返しました。
「ぼくも、ふたりのとなりにいたい……!」
まだ自分の気持ちが「恋」だなんて気づかないほど幼い元貴でしたが、滉斗の体温と、涼架の優しい笑顔があれば、どんなに大きな音がしても平気な気がしていました。
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