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バロア王国がガルディニア帝国の『完全な属国』となる契約を結んだ翌日。その決定を本国へ伝えるため、そして帝国の新たな支配者へ挨拶をするため、バロア王国の王族たちが罪人同然の扱いで帝都へと引きずり出されてきた。
その中には、かつて私を奈落へ突き落としたカイルと、偽聖女のエレンの姿もあった。
二人は、数日前に自分たちの部屋を凍りつかせた『ローゼマリー皇女』の恐怖にガタガタと震え、
青ざめた顔で大謁見の間の床に平伏している。
「――バロア王国第一王子カイル、ならびにエレン。面を上げよ」
アルベルトお兄様の冷徹な声が、広い謁見の間に響き渡る。
カイルとエレンは、恐る恐る顔を上げた。
彼らの視線の先、高価な絹のカーテンの向こうから、
私がゆっくりと姿を現す。
深紅の薔薇のドレスを纏い、夜空のような黒髪を揺らす私の姿を見て、
カイルとエレンは息を呑んだ。
その瞳は、彼らが恐怖したあの絶対零度の紫。
「貴方たちが、我が国に対して身の程知らずな刺客を放った罪人ね」
私が冷ややかに見下ろすと、カイルは大慌てで床に頭を叩きつけた。
「ロ、ローゼマリー皇女殿下……っ! 暗殺者の件は、すべて我が国の不届き者が勝手にやったことでございます! 決して、決して私が命じたわけでは……っ!」
「そうですわ! 私たちは何も知りません! どうか、どうかお許しを……っ!」
エレンも涙を流しながら、必死に無実を訴える。
その、醜くも哀れな命乞い。
1年前、雨の降る夜会会場で、私がどれだけ無実を訴えても、この男たちは嘲笑い、私の言葉を一切信じなかった。
その二人が今、私の足元で同じように泣き叫んでいる。
私はソファーから立ち上がり、カイルたちの目の前へとゆっくり歩み寄った。
「本当に、見苦しい二人。……ねえ、カイル。
貴方、私の顔をよく見ても、まだそんな見え透いた嘘をつくの?」
「え……?」
カイルが困惑したように顔を上げる。
私はしゃがみ込み、カイルの顎を扇子で冷酷にクイと持ち上げた。
そして、彼が死んでも忘れるはずのない、前世のシャルロットとしての
『あの口調』と『冷たい微笑み』をその顔に浮かべた。
「身に覚えのない罪を擦り付け、雨の中に放り出し、崖から突き落とす……。
バロア王国の第一王子ともあろうお方が、ずいぶんと健忘症が激しいのね。――カイル殿下?」
その瞬間、カイルの身体が、まるで落雷に打たれたかのように激しく硬直した。
「な……、何を、言って……」
「カイル様……?」
隣のエレンも、カイルの異常な様子に目を見開く。
カイルの瞳の奥に、言葉にできないほどの、
純粋な『狂気的な恐怖』がじわじわと広がっていくのが分かった。
「お前……まさか、いや、そんなはずはない……! あいつは、シャルロットは、1年前に崖から飛び降りて死んだはずだ……!!」
「ええ、シャルロットは死んだわ。貴方たちに殺されたのよ」
私は立ち上がり、カイルたちの目の前で、
体内の膨大な魔力を一気に解放した。
ドオォォォン!!!
大謁見の間を揺るがすほどの、凄まじい紫色の魔力の嵐。
その光の奔流の中に、かつてバロア王国で測定不可能と言われた、シャルロットの本当の魔力の波長が、カイルたちの記憶と完璧に合致する。
「な……魔法無能のシャルロットが……そんな、嘘よ……っ!」
エレンが腰を抜かし、床にへたり込んで叫ぶ。
「私は死んで、この最強の身体へと生まれ変わったの。カイル、エレン。
貴方たちの嘘が剥がれ落ち、国が滅びかけているそのすべての絶望、
私がローゼマリーとして、そしてシャルロットとして、上からじっくりと眺めさせてもらっていたわ」
「ひっ、ひぃぃぃ……っ!!」
カイルは恐怖のあまり脱糞寸前になりながら、狂ったように頭を振り、
床を這って後ろへと逃げようとした。
死んだはずの被害者が、世界最強の帝国の皇女として目の前に立っている。これ以上の悪夢が、この世にあるだろうか。
「カイル、エレン。あなたたちの本当の地獄は、ここからよ」
私が冷徹に宣告すると、背後に控えていたアルベルトお兄様が、
実に見事な、そして残酷な笑みを浮かべて前に出た。
「我が最愛の妹を虐げた罪、その身に余る絶望を以て償ってもらう。
……連れて行け」
お兄様の合図と共に、屈強な帝国の魔導騎士たちが、
発狂して暴れるカイルとエレンの身体を容赦なく掴み、引きずり出していく。
7
#転生
かなで𓂃🌿𓈒◌
2,735
24
30
『いやあああ! シャルロット! 許して! 悪かったわ、私が悪かったのよぉぉ!』
『シャルロットォォ! 助けてくれ! 俺が悪かった! 婚約破棄は取り消す! だからぁぁ!!』
遠ざかっていく仇敵たちの無様な悲鳴。
それを聞きながら、私の胸の奥に、かつてないほどに深く、
青く燃え盛る最高のカタルシスが満ち満ちていく。
「よくやったね、ローゼマリー。……いや、シャルロット」
アルベルトお兄様が私を優しく抱きしめ、
リンも涙を流して「本当に、本当によかったです……!」
と私の手を握りしめてくれた。
こうして、私を奈落に落とした者たちへの直接的な復讐は、
完璧な形で果たされた。
しかし、私の物語はここでは終わらない。
帝国の皇女として覚醒した私は、
この温かい家族と共に、さらに広い世界へとその翼を広げていくのだ――。
コメント
3件
うん やっぱりこれ優秀賞とか取れるんじゃね…? 少なくとも私はめっちゃブッ刺さるお話しだし!名前がカタカナなのも王道だけど私はめっちゃ好きなんだ! 異世界系?魔法系?がめっちゃ好きだから!(なんなら魔法系、異世界系の方が書きやすいまである)
第11話、一気に引き込まれました……!カイルとエレンが平伏する冒頭から、もう立場の逆転が鮮やかで。特に「面を上げよ」というアルベルトお兄様の台詞から始まる流れ、最高に好きです。 そして何より、ローゼマリーが姿を現す場面――深紅の薔薇のドレスに絶対零度の紫の瞳。しゃがみ込んでカイルの顎を扇子で持ち上げる仕草、細かいところに彼女の覚悟と優雅さが滲んでいて、思わず息を呑みました。 魔力を解放するシーンも圧巻で、紫の嵐が轟音とともに広がる描写に、彼女の怒りと力の大きさが脳裏に焼きつきました。エレンが「魔法無能のシャルロットが……」と叫ぶところ、あの瞬間にすべての嘘が崩れ落ちる感覚がたまらなくて……。 カタルシスをこれでもかと味わわせてくれる一方で、「本当の地獄はここからよ」という宣告が次の展開への期待をぐっと引き上げてくれますね。本当に、素敵なお話をありがとうございます……!