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突然走って逃げだしたタイガを、慌てて樹は追う。
廊下を進み、突き当たりで止まる。そしてうずくまってしまった。
「はあ、はぁ…。どうした、急に走り出して」
タイガは樹を見上げる。その顔は、樹が初めて見る怖がった表情だった。今にも泣きそうだ。
「…ここ、出る」
え、と耳を疑う。「どうして?」
タイガは首を振る。それはわからない、と言わんばかりに。
樹は困って頭を抱える。どうしたらいいものか。
「じゃあ…とりあえず家に帰ろうか。先生には言っとくよ」
家に戻ると、みんなは驚いて迎える。タイガは入院するだろうと伝えられていたからだ。
「いや、病室入ろうとしたら急に逃げ出しちゃって。何でかわかんないけどめっちゃ嫌そうっていうか、怯えてたから連れて帰ることにした」
タイガはソファーに座り、クッションを抱いている。どうやら落ち着く場所を見つけたようだ。
「まあ、次々色んなところに行かされたら疲れちゃうよね」
ジェシーはそう肩を持つ。
「もしかして、病院嫌いなのかな?」
慎太郎も首をかしげる。
「いや……検査までは上手くいったから、嫌いではないと思う。それ以前に、知識がなかった」
樹は言った。
「検査結果に異常はなかったよ。いや、視力はけっこう悪かったけど。…あと、睡眠薬を飲んでたことがわかった」
みんなが一斉に振り返った。
「安全の範囲内だから大丈夫。でも、自分で飲んだのか飲まされたのかはわかんない」
それが何を意味するかが理解できず、5人は静かになった。
と、「ん? 何これ」
タイガの隣に座った北斗が、何やら足元をのぞき込む。
「ほら」と言ってみんなに示したのは、タイガの右足首だった。
ズボンの裾から白い紙のリストバンドがのぞいていて、そこに何やら印字されている。
「えっ」
どうやら服に隠れていて今まで見えなかったようだ。
優吾はしゃがんで、「ちょっとごめんね」とズボンを上げた。
「『京本大我 1994 12 03 ID 0206』って書いてある…」
その声はわずかに震えていた。
樹はタイガに訊く。「取ってもいいかな」
無表情でうなずくのを見て、そのリストバンドの文字がないところで破り取る。
「何だこれ…」
5人で不思議そうにのぞく。
「たぶんこの数字は生年月日だな。ってことは優吾兄ちゃんと同い年か。タイガくんの名前ってこうなんだ…」
北斗がつぶやく。
「一見患者用の識別バンドに見えるけど、病院名が書いてない」
樹は続ける。
「……もしかしたら、どこかの施設かも」
その言葉にみんなは息を呑んだ。でもそれが現実味を帯びるような哀愁漂う雰囲気を、大我はまとっていた。
「だから…たぶんだけど、そこの施設がトラウマか何かで、うちの病院の病室と似てて怖くなったのかもしれない。そうすれば辻褄は合う」
「そんな…」
「まさか」
慎太郎とジェシーはショックを受けたような様子だ。
「どういうところだろ」
北斗が口にする。
「わかんない。っていうかあくまでも想像の範囲だから」
「その想像で考えるなら……、アルビノの人が入れられる場所とか」
優吾の言葉に、
「あのさ、兄ちゃんの新聞社でこういうアルビノの子が収容されてる施設とかの記事があるかどうか調べてほしい。可能性はめちゃくちゃ少ないだろうけど」と樹が言う。
「わかった」
相変わらずの無表情だった大我が、
「…施設……」
ぽつりとその2文字を繰り返したのは、誰も聞き取れなかった。
続く