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みぃ⌒🍣
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お昼時の強い光がリビングのフローリングを照らし出している中、悠佑はソファの端で自分の両膝に顔を埋めていた。
先ほどまで繰り返していた「鍵の確認」と「執拗な手洗い」の儀式は、形の上では終わっている。
指先はカサカサとなり、熱を帯びたようにヒリヒリと痛む。
それなのに、脳の奥底にこびりついた冷たい恐怖のようなものは、少しも消えていなかった。
(……本当に、大丈夫やった?)
頭の中に、もう一つのざらついた声が響く。
先ほど、玄関の鍵をガチャガチャと点検したときのことだ。
ふとよぎった最悪の想像が、映像となって脳裏を容赦なく再生される。
_もし、自分が鍵を閉めるときに、見えない凶器のようなもので誰かを傷つけていたら?
_あるいは、自分が気づかないうちに、廊下や階段の途中で、取り返しのつかない過ちを犯していたのではないか?
「……っ……」
喉の奥がキュッと締め付けられる。
心臓が冷たくなって、体の奥底に落ちていくような感覚がする。
加害恐怖の波が、全身を気持ち悪いほど駆け巡った。
物理的には誰も傷つけていない。
外に出てすらいない。
理性が「そんなわけがない」と必死に訴えかけるのに、強迫性症という病は、その「もしも」の可能性を現実の事実のようにねじ曲げて悠佑につきつける。
震える指先を押さえるように、自分の服の裾を強く掴んだ。
自分が誰かに危害を加えた加害者になっていたらどうしようなんて、ありもしない恐怖で、息が詰まる。
ここにいる仲間たちに、この汚れた手で触れてしまったらどうしよう。
自分がいるだけで、この穏やかな空間を壊してしまうのではないかという恐怖が、心を真っ黒に塗りつぶしていく。
「あにき、スープでも飲む?温め終わったで」
少し離れたキッチンから、いふの穏やかな声が飛んできた。
その声にハッとして顔を上げると、いふが心配そうにこちらを覗き込んでいるのが見えた。
(…だめや、こんな顔したら、まろにまで不安がうつってまう……)
悠佑は必死に震えを止めようと、自分の両手を太ももの下に強く押し込んだ。
血が止まって、冷たい指先がどんどん、冷たくなっていく。
心臓がバクバクとうるさく鳴り響いている。
自分が怪物のように思えて仕方のないこの恐怖を誰かに打ち明ければ、「そんなことないよ」と言ってもらえるかもしれない。
だけど、「もしかしたら本当にやっていたかもしれない」という疑念が頭から離れず、言葉に詰まってしまう。
焦って、また体に力を入れると、パッと、両手を、あげさせられた。
「そんなにぎゅうぎゅう挟んどったら、血ぃ止まってまうよ」
いふは、苦笑しながら眉を下げる。
「ぁ…、ごめん……。 スープ、飲む。ありがとな、 まろ。」
本人はできるだけ自然を装ったつもりだが、掠れた声と、血の気のない顔色は隠しきれていない。
すると、ダイニングの向かい側でスマホをいじっていたほとけが、パッと顔を上げた。
躁のエネルギーに満ちた瞳で、しかしどこか鋭く悠佑の様子を見据える。
「ゆうちゃん、また『確認の迷宮』にハマってたてしょ!!
でも、あにきは誰も傷つけてないからね!! ここにいる僕たち全員の安全を、あにきが一番近くで守ってくれてるんだから!!」
その、根拠のないようでいて妙に説得力のある、ほとけの軽い調子の言葉に、張り詰めていた糸が少しだけ緩む。
隣でいふが、「外の子供がうるさい」と呟いたのと同じように、誰も悠佑の恐怖を否定せず、ただ「そこにあるもの」として受け止めてくれる。
「……うん。分かっとる、大丈夫。」
震える手で、いふが差し出してくれた温かいスープのマグカップを受け取る。
陶器の温もりが、冷え切った指先からじわじわと伝わってきた。
完璧に不安が消え去ったわけじゃない。
この胸を刺す加害恐怖は、明日になればまた形を変えて襲いかかってくるかもしれない。
それでも、温かいスープの湯気と、同じように見えない痛みと戦う仲間たちの気配が、暴走する悠佑の心を現実につなぎ止めてくれていた。
「……ごくっ」とスープを一口飲み込むと、強張っていた肩の力が少しだけ抜けたような気がした。
いつの間にか日が落ちてきて、夕日に包まれたリビングで、悠佑は自分の呼吸と心音を聞いて、ゆっくりと、自分の存在を確かめていった。