テラーノベル
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セレスティア魔法学園のグラウンドは、初夏の陽射しに輝いていたが、今、その空気は一変していた。
体育祭の歓声は途切れ、観客席からざわめきが広がる。
レクト・サンダリオスが突然姿を消したのだ。
星光寮の生徒たちは混乱し、先生たちが慌てて彼を探し始めた。
グラウンドの端では、色とりどりの旗が風に揺れるが、その下で繰り広げられる光景は、まるで嵐の前触れのようだった。
「レクト! どこ行ったの!?」
ヴェルは応援団の旗を放り投げ、グラウンドを駆け回っていた。
彼女の「震度2」の魔法は、地面を微かに揺らすだけで、戦闘には役立たない。
それでも、彼女の心はレクトへの心配でいっぱいだった。
第13話で、レクトは家族――母エリザ、父パイオニア、姉ルナ――の重圧に耐えきれず、涙を流しながらトイレに逃げ込んだ。
あの時の彼の震える背中が、ヴェルの脳裏に焼き付いている。
「ヴェル、落ち着け! レクトならどこかで休んでるかもだ!」
カイザが電気魔法のスパークをチラつかせながら叫ぶ。
ビータも時間操作魔法で周囲の動きを一瞬遅らせ、冷静に言う。
「トイレかどこかにいるだろ。焦るなよ。」
だが、ヴェルの心は落ち着かなかった。
レクトの恐怖を、彼女は痛いほど理解していた。
サンダリオス家から追い出され、
ゼンの殺人事件の秘密を抱える彼の心は、
壊れそうなほど脆くなっている。
レクト…絶対見つけるから!
フロウナ先生が、
「チビドラゴン」を数体出して捜索させて、グラウンドに駆けつけた。
彼女の幻獣魔法は、普段は封印されているが、生徒を守るためなら躊躇しない。
「ヴェル、レクトを見たのはどこだ!?」
彼女の声は、優しさの中に強い決意を帯びていた。
「トイレの方に………家族のせいですよね……?…!」
ヴェルは言葉を詰まらせた。
サンダリオス家の視線
が、レクトを追いつめたのだと理解していた。
ヴェルは観客席を見上げた。
そこには、エリザの金色の髪、パイオニアの燃えるような眼光、ルナの冷たい影のような存在感があった。
彼女の足がブルブルと震える。サンダリオス家は、グランドランドで最も慕われ、敵に回れば恐れられる一族だ。
エリザの台風は都市を吹き飛ばし、
パイオニアの炎はすべてを焼き尽くし、
ルナの影は心を縛る。
彼らに立ち向かうなど、ヴェルには想像もできない恐怖だった。
だが、レクトのためなら――。
「私、行くよ…!」
ヴェルは震える足を踏み出し、
観客席へと向かった。星光寮の仲間たちが驚く中、彼女はサンダリオス家の前に立った。
パイオニアの炎のような視線が、彼女を焼き尽くすように突き刺す。
エリザの目は揺れ、
ルナは無関心に目を逸らす。
ヴェルの心臓が激しく鼓動を刻む。
「サ、サンダリオスさんたち…!
エリザさんは来てもいいと思いますけど!、!!
どうして体育祭に来たんですか?
レクトを…レクトをどうしたいんですか!?」
声が震え、言葉が途切れる。
パイオニアが一歩踏み出し、ヴェルを睨みつけた。
空気が熱く歪み、炎の粒子がチリチリと音を立てる。
「小娘が…我々に口を出すのか?」
パイオニアの声は低く、
まるで炎が爆ぜるようだった。
「この学園に来た目的? 簡単だ。
ヴェルの目が見開く。
エリザが一瞬、目を伏せた。
彼女の声は小さく、だが重い。
「レクトが…ここにいる限り、サンダリオス家の名は汚れ続ける。
……だけど私が無理を言ったの、、
その前に…息子の頑張りを見届けたいからって……、、、!!!」
ルナが冷たく笑う。
「頑張り? あの落ちこぼれの? 本当に無意味だったわ。」
彼女の影が、ヴェルの足元で揺らめく。
パイオニアが続ける。
「責めるなら、俺を責める前に、レクトを責めろ。」
その言葉に、
ヴェルの胸に熱いものがこみ上げた。
恐怖で震えていた足が、怒りで踏みしめられる。
パイオニアの目が燃えるように光った。
「小娘…生意気だ。」
瞬間、グラウンドに炎が爆ぜた。パイオニアの炎魔法が、ヴェルめがけて放たれる。彼女は「震度2」を発動し、地面を揺らしてバランスを取ろうとしたが、炎の熱波に飲み込まれる。
「うああっ!」
ヴェルの叫びが響き、彼女は意識を失って倒れた。観客席から悲鳴が上がり、生徒たちが慌てて逃げ出す。
「ヴェル!」
カイザとビータが駆けつけた。
カイザの電気魔法が雷鳴を轟かせ、
パイオニアに向かって放たれる。
「てめえ、ヴェルに何しやがる!」
ビータも時間操作魔法で炎の動きを遅らせようとする。
「時間を止めてやる!」
だが、パイオニアの炎はあまりにも強大だった。
カイザの雷は炎に飲み込まれ、
ビータの時間操作は一瞬で破られる。
二人は地面に叩きつけられ、動かなくなった。
「愚かな…」
パイオニアが呟く。
ルナが冷たく笑い、エリザは目を伏せたまま動かない。
その時、フロウナ先生がグラウンドに飛び込んできた。
彼女の幻獣魔法が発動し、巨大な幻の狼が現れる。
銀色の毛が輝き、鋭い牙がパイオニアを睨む。
「生徒に手を出した罪は重い!」
フロウナの声は、果実アレルギーの痛みを押した決意に満ちていた。
幻獣がパイオニアに飛びかかるが、炎の壁に阻まれる。
「無駄だ。」
パイオニアが手を振ると、炎がグラウンドを焼き尽くし始めた。テントが燃え、旗が灰になる。
観客席から悲鳴が響き、体育祭は一瞬で地獄と化した。
その時、重い足音が響いた。
アルフォンス校長が、
ゆっくりとサンダリオス家に近づいてくる。
白髪の彼の目は、静かな怒りに燃えていた。
「…………これ以上、好きにはさせん。」
パイオニアが笑う。
「……老いぼれに何ができる?」
ルナの影がグラウンドに広がり、エリザの台風が空気を震わせる。
だが、アルフォンスは動じない。彼の手が静かに上がり、魔法が発動した。
アルフォンスの魔法は、空間に巨大な鏡を出現させた。
鏡には、サンダリオス家の過去が映し出される。エリザがレクトを抱きしめた幼い日々、
パイオニアが息子に魔法をみせた瞬間、
ルナが弟と笑い合った記憶。
それらが、鮮やかに、だが痛々しく映し出される。
「何…!?」 エリザが息を呑む。
パイオニアの目が揺れ、ルナの影が一瞬縮こまる。
「あなた方は、家族を捨てた。
だが、レクトはまだあなた方を信じている。」
アルフォンスの声は静かだが、
まるで心に突き刺さるようだった。
「この戦いは、あなた方の心と向き合う戦いだ。」
パイオニアが咆哮し、
炎が鏡を焼き尽くそうとする。
ルナの影がアルフォンスを縛り、
エリザの台風が彼を吹き飛ばそうとする。
だが、鏡は砕けず、記憶は消えない。
アルフォンスの魔法は、物理的な力ではなく、心を揺さぶる。
戦いはグラウンドを飲み込み、
炎と影と台風がぶつかり合う。
フロウナの幻獣が咆哮し、生徒たちを守る。
ヴェル、カイザ、ビータは意識を失ったまま、戦いの嵐の中に横たわっていた。
レクトはまだトイレに閉じこもっている。
彼の耳に、遠くの爆音と悲鳴が届く。
「何…!? 何が起こってる…!?」
その時、
チビドラゴンがトイレに現れた。
フロウナの出した幻獣である。
「……………………、、、っ、、、」
彼の心は、恐怖と決意の間で揺れていた。
次話 7月26日更新!
コメント
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ヴェルが可愛い!