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────────────ガチャ
その扉から心配そうな顔を覗かせるのは…
黄色のツヤのかかった髪を風に舞わせる俺の相棒….
そいつは荒れ果てた部屋の中を見て一瞬言葉を失うが、関係ないと言わんばかりに俺の方へ走りよってくる
「iemonっ!?…大丈夫か!?」
そういう彼の暖かい腕が俺の肌に触れる。
その時、不意に美味しそうだな、と思ってしまう
…俺は…何を思っているんだ?
今まで助けて貰ってきて…楽しく話してきて…そんなやつを…食べよう…と?
「おい!!iemon!聞こえてるか!」
ただただ真っ黒な光の無い瞳でメテヲを見つめる俺の肩を必死に揺すりながら俺のことを心配してくるメテヲ…
…でも…今はただ…空腹を満たしたい
いや…ダメだ…そんなことしたら…俺は…
きっと…もう戻って来れなくなる…
「食べ…たい…」
ついに、声に出してしまう。だんだん全身が震え始め、その欲を満たそうとする
「…は?何を言って…」
何を言っているのか分からないといった顔をするメテヲ…その顔…最高にそそる….
ああ…最高に美味しそうだ…
必死にその体が動き出すのを止めようとするが、だんだん体の制御が効かなくなってくる
「食べた…い」
口からは涎が溢れ、その牙をむき出しにする。だんだん息が荒くなり、彼を見つめるその瞳さえもが獲物を見るような目に変わっていく
「iemon…?」
彼の顔からは汗が流れ始め、取り乱していることが一目でわかるようになる。最早、俺という存在に恐れをなしているようにも見える
ああ、最高じゃないか。こんな新鮮な肉を食べられるなんて、いつぶりだろうか…
やがて思考までもが思い通りにいかなくなる
「は…ははっ…美味そうだな!お前っ!」
きっと俺は狂ったような笑みを浮かべてこの言葉を口にしていたのだろう
それは…もう俺の体は制御が効かなくなっていることを示していた
「iemon…!?急にどうし…ッ!?!? 」
その言葉を彼が言い切る前に俺の牙が彼の腕に食い込む
その瞬間、彼の腕からは大量の血が吹き出し、俺の体を汚す。
ああ、そうだ、この匂い…この味…!!
…最初から我慢なんてする必要なかったんだ。留まろうとする必要なんてなかったんだ
俺がバケモノな限り、好き放題食って、食って、殺して、その生を踏みにじれば良かったんだ
「あ”ぁ”ッ!!!!」
彼はその腕を抑え、何故?と言いたげな酷く歪んだ顔でこちらを見る。
…何故?そんなもの、俺が腹を空かせているから、空腹を満たしたいからに決まっているだろう
まだ全然空腹は満たされていない。ならもっと噛み付いて、肉を引き剥がして、お腹いっぱい食べよう!
「あ”がッ”…ッ…!?」
今度は肩に噛みつき、そのまま左腕を引きちぎる。元々左腕が付いていたところからは大量の血が滝のように溢れ、俺の食欲をもっとそそらせる
彼はその左肩を必死に抑え、俺から距離を取ろうとする
…そんなことさせる訳ない。せっかく今少しだけ腹が満たされたのに、これからが本番なのに!
「ie…mon…ッ!!落…ち..着けッ…!!」
そう言いながら彼は俺のことを止めようとしてくる。
…落ち着けだって?…俺は今最高に興奮しているんだ。いつぶりかの新鮮な肉!!本当に最高じゃないか!
こんなパーティー、そんな簡単に終わらせてどうする!俺はまだ空腹だ!もっと、もっと食いたい!!
「ゲホッ…!?や”め”ッ…ろ”…ッ!!」
彼の横腹に思いっきり噛みつき、その状態で彼の体を振り回す。
するとその瞬間、ぐちゃり、という心地のよい音と共に、横腹が大きく抉れた彼が地面に激突する。
…きっと、それと同時に骨も数本砕けただろう。でもそんなことは関係ない。どうせ少し食べやすくなったぐらいしか、変化はないからだ
ああ、美味しいな、美味しいな
まだ、まだ俺は満足していない!!…ならもっともっと食べようじゃないか!!
そうして、また彼に噛み付こうとして、気づく、彼が何かを喋ろうとしている
「ふー…ッ….ゲホッ…ゴフッ…」
動く度に口から、腹から、体中から血が溢れているが、彼はこちらにその何かを言うのをやめない。
「i….e…m…n……..」
最早なんと言っているかさえ聞き取れないのでもう聞くのはとうの昔に諦めているが、
まあなんと言っているにせよ、俺がこの食べる手を休めないのは変わらないこと
…噛み付いては、そのまま引きちぎり、爪で引き裂いたり、そんなことをして、どれだけたっただろうか
目の前には血の海が広がり、その中心に1人、もう既に原型をほとんど留めていない、黄色の綺麗な髪だった…気がする少年が倒れている。
俺の腹は気づけば満たされており、自分の爪を見れば、まだ生暖かい血がべっとりと付着していた
俺は、無意識にその中心にいた彼に近寄る。
すると、彼はもうきっと動かないであろう体を無理矢理動かそうとする。しかし、そうする度に大量の血を吐き、その場に崩れる
俺は、何を思ったのか、その崩れる体を両手で抱きかかえる。やはり、まだ生暖かい血が彼の体を伝い、俺の腕にかかる。
「i……..e……n…..」
彼が何かを言おうと口を動かす。でも、無理なのだろう。既に彼の体ではその動作を行えない。故に、断片的にしか言葉は聞こえてこない。
…何を言っているのかは分からない。けれど、何故だろうか、頬を伝って何かがこぼれ落ちる。
涙…だろうか…その透明でキラキラと輝く液体は一滴、また一滴とその真っ赤な地面へと吸い寄せられるように落ちていく
…ずっと、彼はその名を呼んでいたのだろう。俺を…取り戻すために。あの日々をもう一度送るために。
でも、もう無理なのだ。俺はもう自分の欲さえも抑えられない。バケモノなのだから。
いや、バケモノだったのは前からも変わらない。いつの日か、気づいたらそうなっていた。もう、それがいつだったかは思い出せそうもないが。
ただ、その心がニンゲンでは無くなった時、自分がバケモノだと認識…認めたとき、
きっと自分の中の何かが壊れるのだろう
…でも、良かった。俺は今俺の腕の中で必死にもがいているこいつが、今の俺のようになるのを見れない。見ていられない。
今この建物の外で暴れ回っているあいつらも、いずれは知るのだろう。…なら、こいつもそれを知ってしまう前に…俺が…殺した方が…..幸せ………で…………….
…でも…それで、彼は本当に……幸せに…..
「……i……………..e………….」
俺の汚い腕の中で、彼は必死に俺の名を呼ぶ。….そして、そのボロボロの右腕を俺に向かって伸ばそうとする。
…その腕が、俺の頬に触れるその瞬間、パタリと、まるでその瞬間プツリと糸が切れたかのように、彼の腕が力なく落ちる。
それと同時に彼の体から、温もりが失われていく。その瞳からも輝きが失われ、ただただ虚空を見つめるだけになる。
「ぁ…….メテ………ヲ…………..」
…それは、彼の命が燃え尽きたことを…その事実を…俺に突きつけていて…
「……ぃゃ……..行かない….で…」
分かっていた。俺のせいだって。俺が….全部悪いって。でも….俺は….抑えられなくて….
その時、また腹が減る、また、俺が俺じゃなくなる。もう嫌だ。やめてくれ。俺は…俺を….どれだけ苦しめたら気が済むのだろうか…
もう既に動かなくなった彼の体にまた、噛み付く、美味しくなんてないのに、美味しいと思ってしまう。
ああ、いっその事、もう俺としての心なんて、捨ててしまった方が楽なのかもしれない。
その欲に、身を委ねて…過去の思い出なんて…忘れてしまえばいい。それで、俺が苦しまなくていいのなら。
そうだ…そうしよう。もういいんだ。辛い思いなんてしなくても。そうすれば、こうやって涙を流すこともきっとない。
…バイバイ、俺。
コメント
8件
く泣
本当の(体も心も)バケモノルートだったってことか〜……