「ほんとにもう…また寝てないでしょ? 」
隠していたつもりが、やはりばれているようで、ティナリは呆れるような目線をセノに向けていた。
セノ「寝はした………何分か。 」
今ピキッて音がした気もするが、気のせいにしよう。
カーヴェ「ティナリは母さんみたいだな」
僕はそう笑いながら言った後、過ちに気づいた。
カーヴェ「あっ…」
まずい。この場でのこの会話は非常に良くない。
セノはジュライセン先生の息子であることを自負してはいるが、母親と呼べる人物はいなかった。
アルハイゼンも、親が急死し、叔母に育てられてきた。
カーヴェ「……聞かなかったことにしてくれ」
ティナリ「別に気にしなくていいと思うよ?」
ティナリ「だって、この通りアルハイゼンは本を読んでるままだし、セノもジョークを考える顔をしてる」
そう言うが、セノの表情はなにも変わらず無表情のままだ。ティナリには一体何が見えてるのだろうか。
アルハイゼン「別に、俺も彼も母親という存在に執着するわけでも求めてるわけでもないことは知っているだろう?」
アルハイゼン「それとも君は俺達がまだ親を必要とするような子供に見えているのか?」
カーヴェ「君ねぇ!」
相変わらず、余計な一言が多い。
ティナリ「逆に僕はカーヴェの方がその話題に触れてほしくないと思ってたよ。」
カーヴェ「ん…?」
カーヴェ「あー!あの話か!」
今、僕は取り繕えているだろうか。
気にしていないような素振りができているだろうか。
この偉大なる建築家である僕が、過去一つに囚われるわけないだろう?
この時、ほんの少しだけこの書記官を羨ましく思う。
取り繕わなくても、取り繕う表情がないのだから。
ああ、ダメだ。多分誰かに気づかれてる。
多分、僕を気にして言わないだけだ。
ティナリ「話を戻すけれど、結局なんでそんな忙しいのさ」
セノ「草神様、アザール含む賢者の失脚、死域等の変化した状況、缶詰知識、時期的なものの事務員の移動…他にもあるが聞くか?」
ティナリ「ごめん、もう充分」
セノ「アルハイゼンが定時に上がれない程には忙しいからな」
カーヴェ「アルハイゼンが!?!?!? 」
ティナリ「カーヴェ、耳に響く…」
カーヴェ「あ、すまない」
ティナリ「え?同居してるのに知らなかったの?」
アルハイゼン「生憎、この居候は同居人、ましてや家の主権を握ってる人物を騒音で夜中まで起こす程、前が見えないようだ」
カーヴェ「君ってやつは…!」
でも本当に気づかなかった。
この何がなんでも定時に帰るアルハイゼンが残業するなんて。
ティナリ「僕も死域の件については担当してるから知ってたけど、まさかそこまでとはね。」
何故だろう。一緒に話しているはずなのに疎外感に溢れている。
今、スメールは大切な場面を迎えている。
ここでどんな決断を下すかで大きく動く。
それはよく分かっているのだが、その時僕は何をしている?
例えば草神救出計画のとき。
ティナリは大きくこそ関与していないが、戦っていた。
セノとアルハイゼンは計画の前線にたっていた。
その時僕は、呑気に砂漠の依頼を受けていた。
僕みたいなメラックがいないと戦えないやつがいたって何も変わらないかもしれない
それでもただ、皆といたいと感じた。
アルハイゼンはまだしも、二人が僕を孤独にしないことは分かっている。
まあ、罪を犯したら大マハマトラ直々の信用が地に落ちるが。
それでもまたおいていかれるのではと恐ろしくなる。
それでも、僕が足を引っ張るかもしれない
そんな恐怖心から、そこに進めない。
僕はここに居て良いのだろうか?
英雄達とその友達。
これが客観的からみた僕への視線だ。
昔からそうだった。
後輩でありながら僕を凌駕する知恵を持ったアルハイゼンに、異例なほどの年齢で未だに伸び代が残ってるであろうティナリ。
砂の民で批判を受けながらも、罵声を浴びようとこの立場に上り詰めたセノ。
勿論、僕自身に才能があるってことも自覚してはいる。
でも、いつもこの後輩たちの背中をおっていた気がする。
もうこのとき既に、壁ができていたことに僕は気づけなかった。
気づいていたら、追い付けたのだろうか。
変わらなかったのだろうか。
こんなときアルハイゼンなら「どんなに過去を悔やんでも、過去に戻れるわけでも塗り替えれるわけでもない。」「そんなことを考えるのに裂く時間があるなら、その間に少しでもその作図を進めたらどうだ?」
とか言ってくるのだろう。
そう考えると少し腹が立ってきた。
「ヴェ……カーヴェ!」
カーヴェ「うわっ!…あ、すまない」
カーヴェ「何の話だったか… 」
少し考えすぎていて、全く話を聞いてなかった。
ティナリ「最近起きた愉快犯の話だよ。 」
カーヴェ「愉快犯? 」
セノ「最近殺人の罪で裁いた奴の話なんだが、その犯人の動機が「教師に得意なことを伸ばせといわれたから」らしい」
セノ「そいつは元から詐欺や触れていけない研究のラインを踏んでいるという余罪も出てきた。」
カーヴェ「つまり、自分の得意なことの犯罪を伸ばしてしまったってことか…」
セノ「そう言うことだ。」
ティナリ「人の言葉は相手によって捉え方が違うからね…。」
ティナリ「触れていけない研究ってことは少なくとも学識はあったのに、勿体無いよね」
セノ「それに詐欺というのも、話上手で観察力が優れていたといえる。」
実に勿体無いものだ。とセノは話しているが、結局罪を犯したなら容赦の欠片もないだろう。
人の言葉は相手によって捉え方が違う。
人によくも悪くも影響を及ぼす。
僕の作品は、僕の研究は。
誰かにいい影響を及ぼしたのか?
誰かに悪影響を及ぼしたのか?
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