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「それで、どこまで聞いてる?」
先ほどクリスティーナに縛り上げられた兵の横をすり抜け、搭の階段を駆け上がりながらフィルが尋ねる。
「現国王の兄、グラハム2世がクーデターを起こしたってことまで」
クリスティーナも走りながら答えた。
「コルティアに声明文を出したことは?」
「え、もう出したの?」
「そうらしい。もうじき父上のもとに届くはずだ」
「そんな…。私達が無事だってこと、どうにかして知らせられないかしら。コルティアから一緒に来たお付きの人達も、上手く言いくるめられて帰されてしまったのよ」
「なるほど。つまり、俺とクリスの二人だけってことだな。上等だ」
ニヤリとフィルがクリスティーナを振り返る。
「俺とクリスが最強ペアだってこと、とくと思い知らせてやろうぜ」
クリスティーナは肩をすくめると、腰に差していた剣を1本フィルに手渡した。
「ほどほどになさいませ、王太子殿下」
「そちらこそ、王太子妃殿下」
顔を見合わせてクスッと笑うと、二人は再び表情を引き締めて走り出した。
*****
「なかなか座り心地がいいな。これが玉座というものか」
グラハム2世は黄金の肘掛けに手を置き、真紅の椅子にゆったりと背を預けた。
弟である現国王とその家族は、ダイニングルームに閉じ込めてある。
コルティア国王太子夫妻を幽閉したと告げたが、実際にこの目で確かめるまでは信じられないと言い出し、仕方なくこれから国王だけを王太子妃のいる塔に連れて行くことにした。
「さてと、そろそろ行くとしよう。あいつも手枷を付けられた王太子妃を見れば、即座に俺に王座を空け渡すだろうな。ククッ」
自然と笑いが込み上げてきた時、大変です!と、手下が部屋に駆け込んできた。
「何事だ?」
「はっ!コルティア国王太子妃が、塔から抜け出した模様です」
なんだと?!と、グラハム2世は立ち上がる。
「バカ者!見張りは何をしていた?!」
するとまた慌ただしく、別の手下が部屋に飛び込んでくる。
「コルティア国王太子に逃げられました!」
なっ…!と、グラハム2世は絶句する。
ワナワナと身体を震わせると、血走った目を見開き、大声で叫んだ。
「すぐに捕らえろ!絶対に逃がすな!」
「はっ!」
手下達がバタバタと部屋をあとにすると、グラハム2世は拳で玉座の肘掛けをガツンと殴る。
「くそっ、あの王太子どもめ。生かしておいてやったというのに」
ギリッと奥歯を噛みしめるが、気持ちを落ち着かせてゆったりと座り直した。
二人に逃げられたことは、国王達に知られる訳にはいかない。
「なあに、すぐに見つけてまた牢屋にぶち込めばいいだけの話だ。今度こそ鎖でがんじがらめにしてな」
焦ってはいけない。
この日の為に何年も我慢してきたのだ。
今こそ国王にふさわしい威厳と落ち着きを持って対処しなければ。
グラハム2世は、鋭い視線で宙を睨みつけながら、作戦を練り始めた。
*****
「いたか?」
「ダメだ。そっちもか?」
「ああ。今度は西の庭園を見てくる」
「分かった。俺達は城の中をもう一度探す」
兵達が大勢行き交い、互いに短く言葉をかけてまた走り出す。
その様子を柱の影から見ていたフィルとクリスティーナは、一旦顔を引っ込めて小声で話し出す。
「これからどうする?どこに向かうの?」
クリスティーナの問いに、フィルは、そうだなーと軽く答える。
「とりあえず国王陛下達の居住スペース辺りを片っ端から見て回ろう。見つけたら保護する。先にグラハム2世にバッタリ会っちゃったら戦う」
「それだけ?」
「それだけ」
クリスティーナは、はあ…とため息をつく。
「単純明快で分かりやすいこと」
「なに?単細胞って言った?」
「言ってないわ。思っただけよ」
オブラートに包んで言い換えたが、フィルにはお見通しだったらしい。
「考えたって思い通りになんて行く訳ないさ」
「確かにそうね。予想外の展開になって焦るよりは、行き当たりばったりの方が性に合ってるかも」
「だろ?さ、行こう」
「ええ」
二人はもう一度そっと顔を覗かせて辺りの様子をうかがってから、一気に走り出して城の階段を駆け上がる。
3階まで行き、最初の夜に晩餐会に招かれたダイニングルームを目指した。
曲がり角まで来て顔だけ出したフィルが、廊下の先の見張り役を見て、ビンゴ!とクリスティーナを振り返る。
「恐らく一家四人ともあそこに軟禁されてるな」
「入り口の見張りは二人…。中にもいるでしょうね」
「ああ。何人いるかは入ってからのお楽しみ。行くぞ」
どこまでも軽い口調のフィルに半分呆れてから、クリスティーナもすぐあとを追う。
「ヘイ!」
フィルが素早く入り口に駆け寄り、こちらを振り向いた見張りの兵に、ポケットに入れてあった鍵の束を投げる。
咄嗟に鍵を受け取った兵に、フィルは一気に体当たりした。
「ねえ、フィル。今のダジャレ?」
もう一人の兵が慌てて剣を構え、クリスティーナはそれに応戦しながらフィルに尋ねる。
「何が?」
フィルは、倒した兵を縛り上げながら聞き返した。
「だから、さっきのオヤジギャグ。兵に向かってヘイ!って」
「はっ?違うわ!それに俺はオヤジじゃないぞ」
「オヤジでしょ?だって父親なんだから」
クリスティーナは、兵と剣を交えつつ淡々と答える。
フィルは呆れ気味にクリスティーナを見た。
「クリス、真面目に戦え。舌噛むぞ」
「確かに。油断は禁物よね。そろそろキメさせて頂くわ」
キン!と敵の剣を頭上で受け止めると、即座にクリスティーナは身を屈めた。
相手に背中を向けたと思いきや、その勢いのままクルリと回り、右足を高く上げて踵で敵の頭を蹴り飛ばす。
グエッと兵が妙な声で倒れ込むのと、フィルが、あーー!!と叫ぶのが同時だった。
「びっくりしたー。なあに?」
床にうつ伏せに倒れた兵の手を背中に回して縛りながら、クリスティーナが怪訝な面持ちでフィルを見る。
「なあに?じゃない!そんな格好で回し蹴りするな!見えるだろ?」
「何が?」
「な、何が?って、それは、その…」
フィルが赤い顔でアタフタしていると、ガチャリと扉が開いて、ダイニングルームの中から兵が現れた。
「どうした?騒がしいな。お、お前は!コルティアの王太子?!どうしてここに…」
「知るかよ!それより、見るんじゃないぞ!」
フィルは、クリスティーナがまたミニスカートを翻して戦うのを回避しようと、さっさと敵を倒しにかかる。
「このこのー!見るんじゃなーい!」
何事かと、続々と部屋から出てくる敵を、フィルは目にも止まらぬ速さで仕留めていく。
「すごーい!さすがね、フィル」
フィルは敵の剣を弾き飛ばしては、みぞおちを肘で打ち、次々と兵を倒していく。
その傍らで、クリスティーナはせっせと兵を縛り上げていった。