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第37話 「バトン」
2021年 四月。
柳城高校。
桜が舞う中、新入生たちが校門をくぐる。
野球部にも、多くの新入部員が入ってきた。
その中で、一番注目を集めた二人がいた。
小早川塁。
小早川史陽。
小早川啓介の双子の弟たち。
「兄貴、甲子園行った人やろ?」
「柳城の伝説やん」
一年生たちも知っていた。
だが塁は少し困った顔をする。
「兄ちゃんは兄ちゃんたい」
史陽も苦笑する。
「俺たちは俺たちです」
しかし周囲の期待は大きかった。
入部初日。
福間監督は新入生を集める。
「柳城に来てくれてありがとう」
静かな声。
「ただし、名前で試合には出られん」
一年生たちの表情が引き締まる。
「実力で掴め」
それだけだった。
練習開始。
塁は投手組へ。
史陽は内野組へ入る。
まずはキャッチボール。
塁が軽く投げる。
バシッ。
捕手が目を丸くした。
伸びる球。
まだ一年生とは思えない。
続いてブルペン。
十球ほど投げただけで周囲がざわつく。
「速くね?」
「一年やろ?」
塁は何も言わない。
ただ次の球を投げる。
一方の史陽。
ノック。
三遊間の深い打球。
横へ飛ぶ。
捕る。
立ち上がる。
送球。
一塁アウト。
福間監督の目が細くなる。
次。
さらに難しい打球。
また処理する。
派手さはない。
だがミスがない。
確実だった。
練習後。
コーチが福間監督へ聞く。
「どうですか?」
福間監督はグラウンドを見る。
まだ一年生。
まだ何も成し遂げていない。
それでも。
「面白い」
珍しく笑った。
その頃。
おっちゃんの店。
舞がジュースを飲んでいた。
おばちゃんが聞く。
「弟たちどうやった?」
舞は笑う。
「お兄ちゃんとは全然違う」
「でも野球好きなのは一緒」
おっちゃんが鉄板の前で頷く。
「それが一番やな」
店内に笑い声が響く。
外では夕陽が水路を照らしていた。
柳城高校。
甲子園から帰った先輩たち。
そして入学したばかりの双子。
新しい世代が、静かに動き始めていた。
第37話 終
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